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第二部
波乱の予兆Ⅳ
しおりを挟むこれは、余計な口を出すなということでしょうか。臨戦態勢に入ったかのように、ディアナの瞳が爛々と輝いています。
これは、止めることが出来ないわ。
ディアナはわたしに任せなさいとばかりに続けて話し出しました。
「それに、侯爵子息と男爵令嬢は相思相愛。よろしいのではありませんか? 身分差を考えれば釣り合わないかもしれませんが、婚姻はそれだけが全てではないでしょう」
「何を言いたいのかしら?」
ビビアン様も負けてはいません。
「つまり、両家が納得していればいいということですわね。今回の件は拗れることなくスムーズに解消に至ったのだと聞いています。そうよね? フローラ」
「ええ。そうです。何の問題もありませんでした。私もエドガー様とリリア様のことは祝福しております」
私はきっぱりと答えました。エドガー様に未練があると思われたら、たまりませんから。
「……あっ、あ。そう。そう、なのね」
しっかりと見据えた先のビビアン様は私の圧に押されたのか、気まずさにしどろもどろになりながら口元を扇子で隠しました。
「そういうことなので心配には及びませんわ。それに何度も同じようなことは起こらないでしょうから、心配ご無用でですわ」
「そう? だったらよいけれど……」
「お優しいのですね、ビビアン様は。公衆の面前であのような悲愴な場面は見たくないですものね。そのための先ほどの指南だったのでしょう。本当にビビアン様は慈悲深いわ。勉強になりました」
「そう、そうなのよ。わかっていただけて嬉しいわ」
ディアナの見事な解釈と称賛に、味方を得たと思ったのかパッと顔が明るくなったビビアン様はすっかりご満悦な様子。
「それともう一つ」
ディアナが人差し指を立てて続けます。
まだ何かあるのでしょうか?
ビビアン様も頭に疑問符が浮かんでいるような顔。
私もです。すっかり解決したものばかりと思っていましたが……
「侯爵家と男爵家。身分違いとのことでしたが、チェント男爵家は真珠の養殖と貿易で財を成した資産家ですから、テンネル侯爵家が婚姻を結んだとしても損はありませんわ。身分だけは高くても経営は火の車という貴族もあります。それを思えば、身分は男爵であっても十分釣り合うのではないかと思うのです。その一点だけは子息も褒められるところですわね」
ホホホッとディアナが小さく笑い声を漏らしました。
彼女の言う通りなのかもしれません。
私はまだ会ったことはありませんが、コーヒーの他にもいくつか齎された食材などもチェスター貿易商会からでした。それが、チェント男爵家だと聞いた時には驚いたのですが、両親は取引先が一つ増えたと喜んでいたので特に気にしていませんでした。
身分差を気にする貴族はいますから一概には言えませんが、婚約解消がうまくいった背景にはそんな理由もあるのかもしれません。それを考えると私って、凄く幸運だったのかしら。
「……」
ビビアン様はなんとも微妙な顔をしています。思わぬ意見だったのでしょう。彼女を称賛して終わりかと思えばそういうことはなく、ディアナの中には見過ごしておけない確固たる気持ちがあったのかもしれません。
それが私の問題であることが申し訳ないのですけれど。
うまく説明できない私の代わりに親身になって助けてくれるディアナは、私にはもったいなくらいの親友です。
「ディアナの言うことも一理ありますわね。高位貴族に下位貴族が嫁いだりその逆も確かにありますわ。色々な事情があるのでしょうけれど」
ビビアン様も負けてない。
そして、あからさまに感情を露わにすることなく、しかも理性的に考えて否定することなどせずに、ディアナの言葉に同意する。二人共臆することなく堂々と意見を述べる。
さすがだわ。尊敬に値するわ。
なかなか思ったことを口にできない私とは大違い。
「その見解をふまえて、今一度言いますわね。やはり、お互いの爵位に相応しい結婚をするのが一番だと思います。それが二人の幸せにつながる道だと思うのですわ」
「ビビアン様のその意見には賛成致しますわ。なんといっても爵位は大事ですし、つり合いが取れている婚姻こそが最良でしょう」
二人は目を合わせると、にっこりと微笑み合いました。
やっと折り合いがついたようです。
私の婚約の話題のせいで険悪な雰囲気になるのを恐れていましたが、丸く収まったようでほっと胸を撫で下ろしました。
これで完結終了したと安易に考えていたのですが、事態はあらぬ方向へと転がっていくのでした。
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