壊れた桜に恋は実るか

秋月流弥

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 春、心浮き立つ出会いの季節。
 高校の入学式に向かう通学路で交通事故にあいこの世を去った。
 自分の青春の始まりから人生の終わりまでを数行で表せることに驚いた。

 倉本くらもと実桜みお十五歳。

 入学初日の通学路で道路に飛び出た猫を助けその弾みにトラックに衝突した。
『最近ここらで事故があったばかりだから気をつけるのよー』
 登校前玄関で靴を履く私に後ろから声をかける母をへいへい、と軽くあしらい家を後にした朝。
 俺たちの戦いはこれからだ! と少年漫画の主人公のような勢いで玄関を飛び出した自分は十分後にトラックにはね飛ばされされていた。
 自分の身体が宙に舞う際他人事のように思いだす。
「あ、これ打ち切り漫画のセリフやんけ」と。
 人生最期にしてはあまりにも残念な走馬灯が走り意識は闇の奥底へ。

 目覚めた私は雲の上にいた。

「やっぱ私死んだのかぁ」
「いや、まだ死んでないぞ。生死を彷徨う危篤状態ではあるが」
 後ろから声がした。
 雲の上にはもう一人、顎髭が長い仙人みたいなお爺さんがいた。右手には同じ身長くらいの杖を持っている。
「ワシは神という者じゃ。今お主の死期を遅らせてやっている。諦めるには早いぞ」
「それはどうも……それってまだ生き返れるってこと?」
「お主に同情しての。入学初日に善行をしてこの世を去るのは忍びない。お主には試練を与えよう」
「試練?」
「お主はこれから愛の使者・キューピッドとなって恋の支援、つまり縁結びをするのじゃ。カップルを一組成立させることが出来たらその命を助けてやろう」
 名付けて蘇りキャンペーン、と神は宣う。
「わ、私が恋のキューピッド!?」
「ということでキューピッドに変~身!」
「ちょ」
 そーい、と神は木の杖を一振り。
 すると私の身体は光に包まれ次の瞬間フリフリの衣装になった。

「えーっ! なにこれ!?」

 自分の着ている服は制服からアニメの魔法少女が着てるようなリボンにフリルたっぷりのパステルピンクの衣装に早替わり。赤色のリボンが編み込まれた厚底ブーツに耳に触れればハートのイヤリング、振り返るように背中を見ると天使の羽、そして白魚のような手には可愛いらしい小ぶりの弓が握られている。

「変身しちゃってる! なにこれ魔法少女!? 今日から高校生なのに恥ずかしいっ」
「恋のキューピッドなんだから衣装はピンクにハート増し増しが鉄板じゃろう。それに非日常な格好の方が雰囲気でる。というのは建前で本音はワシの趣味」
「変態!」
「それとお供のマスコット妖精もいるぞ」
 足元に何かぶつかる。
「ぶひ」
「え、……豚?」
 下を見ると子豚(?)らしき動物がこちらを見上げていた。
 つぶらな黒い瞳に同じくパステルピンクの胴体。くるんとバネのように丸まる尻尾の先端はハートの形になっている。そこはたしかに妖精っぽい。
「こやつもお主と同じく生死を彷徨う危篤状態での。キャンペーンの対象者じゃ。コンビ仲良く任務を遂行してくれ」
「ぶひ」
「ちょっと私まだやるって言ってないし! それにこんな豚連れて何が出来るっていうのよ」
 私は裾の短いスカートをぐいぐい下に引っ張る。引っ張るも露になった太股が隠れるわけでもなく、顔を赤くして目の前の神に反論する。
「大丈夫。変身しているから誰もお主だとわかるまい」
「バレないとしても羞恥心があるわ! こんな格好して人前で歩けるわけないでしょ」
「ぶひーッ」
 すると足元にいた子豚が私の足を噛み付いた。
「いったーッ!? なにすんのよ!」
「文句ばっか言ってんじゃねーよ!」
「うえっ」
 豚が喋った。
「言っとくが彼もマスコットに変身してるだけであって元は人間だからの」と神が軽く説明。
「ずべこべ言わずに任務遂行しやがれ。こっちはさっさと生き返りたいんだよ。お前の恥じらいなんて知ったこっちゃないっつーの。このヒステリキューピッド」
 可愛い見た目の子豚(?)マスコットはかなり乱暴な口調で煽ってきた。
「ヒス……! 私には倉本実桜って名前があるの。子豚、あんたマスコットのくせにガラ悪すぎ」
「子豚じゃねー俺には“ピグたん”って名前があるんだ」
「なにピグ太?」
「ピグたん!」
「ほらほらお互い挨拶も済ませたことだし。仲良くな。健闘を祈るぞい」
 ぞい、の言葉を言い終わると同時に神は私と小豚を雲の上から蹴り落とす。
「「うわぁぁぁ!? 人殺しーッ!!」」
 私たちが声を揃えて遠のいてく雲に向かって叫ぶと「達者での~」という呑気な声が上から聞こえた。


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