壊れた桜に恋は実るか

秋月流弥

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2話

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「落ちる落ちるー!」
 空から落ちる一人と一匹。あたる風に歯茎はめくれ頬は往復ビンタされ隣のピグ太の脂肪ある胴体も波打っている。
「いやー死にたくない死にたくないッ!」
「おいお前羽生えてるだろ! それを使え!」
「え!? あ! そうか」
飛べー! と念じるとバサッと背中の羽が大きく広がりその場で空中停止した。今、私飛んでいる。
「た、助かった~」
「まったく」
 スカートの裾に掴まる豚が呆れたように私を見る。
「お前ってドジ?」
「ド、ドジなんかじゃないわよ失礼ね」
「そういえば死にかけてる理由も飛び出した猫を助けてだっけ」
「だってあれは助けた猫の顔が不細工すぎて驚いたの! 本当に不細工で、思わず抱きかかえたまま凝視してたら道路にいるの忘れてて……あれ」
 たしかに間抜けな理由だった。

 ほらドジめ。
 そう言われるかと思いきや、

「たしかに。すげー不細工だったなあの猫」
「ピグ太猫のこと知ってるの!?」
「俺も前に不細工猫を発見して後を追ったんだよ。そしたら奴がたら~と道路にはみ出たから危ねぇ! って助けたら後はお前と同じこのザマだ」
「そ、そうだったんだ」

 あのブサ猫どれだけ人に助けられてるのよ。

 ていうか。

「えーピグ太も私と同じ理由(死因?)でキューピッドやってるってこと? 似た者同士じゃん私たち。ピグ太ってお人好し?」
「なれなれしくすんな。それより任務だ」
「任務って縁結びだよね。カップル成立っていってもどうやって標的を見つけるの」
「俺は鼻が効く。これで恋の匂いを嗅ぎ付ける」
「恋って匂いあるんだ。ていうか豚なんかの嗅覚でわかるわけないでしょ」
「豚ナメんな! トリュフだって豚が見つけてるんだぞ!!  つーか俺は豚の妖精だ」
 くんくん、と鼻をひくつかせ探索を開始。
 すると尻尾の先端のハートがピーンとアンテナのように立つ。
「発見! この真下から恋の気配」
「真下って……あ」
 見下ろすと学校があった。
 しかもこの学校、今日から自分が通うはずの高校だった。
「ここ私の高校じゃん!」
 私が叫ぶとピグ太は豆のように小さな瞳を光らせる。
「なるほど。恋ある場所といえば多感な年頃の高校がベストってことか。ここなら獲物がわんさかいる。行くぞ」
「ちょちょちょ、ちょっと待って」
「ああん?」
「私が通う学校って言ってるじゃん。同じ中学から進学してる子もいるの。私がこんな格好で学校に現れたら次から恥ずかしくて学校通えないよ」
「神の爺さんも言ってただろ。誰もお前が倉本実桜だってわかんねーよ」
「そうだけど」

 赤の他人ならこの際いい。

 ただ、私にはどうしてもこの姿を見られたくない相手がいる。
 あの人だけには。

「なんだモジモジして。見られたくない相手でもいるのか」
 察しの良い相方に私は顔を赤らめ話す。
「す、好きな先輩がいるのよ。佐島さとうにしき先輩っていって、片想いなんだけど。いくら正体が私だってわからなくても、先輩には恥ずかしくてこんな姿見られたくない」

 中学生の頃から憧れていた錦先輩。
 弓道部のエースで袴が似合う和風男子。先輩が卒業する時私は告白出来なくて、高校生になったら告白しようと彼を追ってここを選んだ。絶賛片想い中なのだ。
「お前の恋路とか興味ねー。さっさといくぞ」
「え」
 私が話し終わる頃にはピグ太は裾に掴まる前足を離し下に落下していった。
「ちょ、あんた落ちる落ちる!」
 飛行して追いかけるも凄い速さで垂直落下する子豚。
 もうすぐ地面という地点で彼の尻尾がバネのように伸び地面に着くと大きく 二、三回跳ね見事着地した。
「体操選手かっての」
 思わず十点と書かれた札を挙げたくなった。


 ピグ太を拾い腕に抱え着地した地点を見渡すとここは校舎と校舎の間にある中庭のようだ。近くに渡り廊下がある。
「ここだと行き来する生徒が多いから人通りの少ないとこに移動しよう」

 そう言った矢先、

「キューピッド!?」

 突然の声に振り向くとそこには一番見られたくない人の姿。
 黒髪に柔らかな眼差しが清廉さを感じさせる憧れの彼。

 錦先輩。
 なんで先輩が私たちを発見するの!

 固まる私にピグ太があぁ例の男か、と一言。
「その姿、愛のキューピッドに決まってる!」
 目を輝かせこちらに近づいてくる先輩。
 うわーこんなコスプレ姿恥ずかしいから見ないでくれ勘弁VS憧れの人から私に歩み寄ってくれるなんて幸せ!  対決の結果後者が勝利。
「いかにも。私が人々の縁を結ぶ愛の使者・キューピッドですっ」
 ぶりっ子ポーズで答えてしまう。
「やっぱり!」
「そうですぅ。この子がマスコットのピグ太です」
 隣で嘔吐くマスコットの首根っこを掴み可愛く両腕で抱える。
「イケメンさんはなにか恋でお悩みですか?」
「ああ。ぜひキューピッドさんたちに僕の恋を叶えてほしくて」
 先輩が私を見つめ手を握る。

「僕と彼女との恋を叶えてほしい」

(え、先輩好きな人いるの!?)
 ガガーンとショック。
「僕は中学の頃から好きな女性がいて、卒業式で彼女に告白しようと思ったのに尻込みしてしまって。彼女と高校が同じになった今こそ告白したいんだ」
「へえ……中学から片想い」

 あれ。
 それって当時の私と同じじゃない。
 先輩も私と一緒の状況だったってことは。

 もしかして、

(先輩の想い人って私?)
  
「きゃーどうしよ! 相思相愛両想いじゃない!」
 嬉しさに身悶える私。
「もちろん協力します。その恋、私がズキューンと叶えちゃいますっ!」
「良かった。これで生徒会長との恋が叶う!」
「せ、生徒会長?」
「うん。生徒会長の紅手鞠べにてまりさん。美人で文武両道で僕の憧れの女性なんだ」
 口から抜け出た魂をピグ太が再び口にねじ込んだ。


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