スリーピング・サーガ~世界が眠りに堕ちる前に~

秋月流弥

文字の大きさ
31 / 39
第6章:【スカピー火山のドラゴンの逆鱗】

31.スカピー火山

しおりを挟む
雪の降る道を馬車に揺られていた。
アンゼリカ地方からスカピー火山前まで五万ゴールド。
無事に馬車の資金を手に入れることができたダミ子とマースの二人は馬車に揺られていた。
座りすぎて腰の心配をし始めた頃、北の大地に聳え立つスカピー火山の頭が見えてきた。
二人はコートを着ていた。マースはシンプルな群青のコート、モコモコの綿がついたダッフルコートがダミ子。前もってアンゼリカの街で買ったものだった。
火山近辺は空が灰色がかっていて、既に殴るように雪が降っていて超寒い。幸い雪が積もってないおかげでコックリ谷の運行は可能だった。
砂利を踏みガタガタ揺れる馬車の中でも日頃の疲れからか腰の痛みからか、ダミ子は朦朧と船を漕いでいた。
寝るなー!  雪山で寝たら死ぬぞーッ!  という台詞の代わりに、

「大変だ!  ワイバーンが出たぞ!!」

馬車の運転手の叫び声で意識を取り戻した。
窓部分の厚い布カーテンを開けると、空にワイバーンが三頭飛んでいた。巨大な翼をはためかせ、鋭い足爪を立て攻撃的な眼光でこちらを狙っている。
コックリ谷の道は細い。普通に走ってても脇からそれれば崖っぷちに真っ逆さま。なのに眼前にはワイバーン。
マジで死ぬ。ってか殺される。

「任せてください!」

隣に座る助手が頼もしい声をあげる。
マースは席から立ち上がると馬車の窓から上半身を出し、上空のワイバーンに向けて魔法を放つ。
「【サンダーボルト】!!」
紫色の光を纏う雷電は爆音と共に槍のような鋭さで飛来するワイバーンを突き抜ける。腹部を抉られたワイバーンは力なくそのまま谷底へ落ちていく。
一頭、二頭、マースは上空のワイバーンをどんどん倒していく。
「いや~助かるよ。兄ちゃんのおかげで今回は安心して運行できる!」
運転手は感謝を告げた。

「おかげで順調に来れた。そおら見えてきたぞ!」

コックリ谷を越えると、いよいよ目的地のスカピー火山のお出ましだ。
白い雪とは裏腹に火山は煮え滾るような赤い色をしていて分厚い煙がもくもく天へ向かって伸びている。
「スカピー火山には気をつけな。ろくでなしのドラゴンがいるで。度胸試しに訪れる連中もいるがもれなくボコボコにされてる」
「その逆鱗を貰いにいきます」
「正気の沙汰じゃねェ!」

スカピー火山のふもとへ到着。
さすが火山。
雪が降ってるの先程までの寒さが嘘のように全然寒くない。
というより熱帯夜のように暑い。
暑さからコートを脱ぐ。
「暑い……」
暑すぎる。ここだけ真夏の炎天下の茹だるような暑さだ。
運転手によるとスカピードラゴンが棲むドラゴンの巣は火山の頂上にあるらしい。何故土地の主ってのは天辺に棲みたがるんだ。
「降りてきてくれないかな」
「降りてくるわけないでしょ」
「だってー要は頂上まで山登りってことでしょ?  登山だよ。こんな大きな山をだよ?」
「気持ちはわかりますけど、登るしかないじゃないですか……ってダミ子さん何鞄あさってるんですか?」
どっこいしょとショルダーバッグを地面に下ろしファスナーを開けると中身をほじくりだす。
「登山のゴールは頂上じゃない。降りて帰ってくることがゴールだ」
底まで手を伸ばすとやっとブツに手が届いた。
「じゃじゃーん」
「なんですかその容器……マヨネーズ?  なんだかパワフルなイラストが書かれてますけど」
手にしたのは力士のような逞しいお嬢さんのイラストが描かれたプラスチックの容器。
「私の開発した超高カロリー栄養食【ハイカロさん】だ。少しの量で即エネルギーを得られ腹もちも永久的。遭難した時に使えるお助けアイテムだ!  これを食べて疲れと体力消耗を補おう」
「ダミ子さん登山ノリノリじゃないですか……ってさっそく齧ってる!?」
「がんばる前にもごふぉおび(ご褒美)はふぃつひょう(必要)だろ」
もぐもぐごっくん。
登山開始。

一合目で休憩。
「おえぇぇぇ……」
「早っ!」
登山開始後まもなくダミ子はマースの背に乗りぐったりしていた。
「もー~!  だから登る前に食べるなって言ったのに!」
「登山をナメていた……山道ってだけでこんなにも負担が……カロリーが胃から競り上がってくる……うぷっ!」
「初っぱなから【ハイカロさん】の食べ過ぎでしょう!?  登る前にしても五号目の休憩くらいモリモリ食べてたじゃないですか!」
「人をバカ犬みたいに言うな……しかしチョコ一粒2000カロリーは設定が多すぎた。胃がはち切れそうだうっぷ!」
「転がしましょうか。大玉転がしみたいに頂上まで」
「勘弁」
情けない上司に対しだんだん辛辣になってくる助手であった。

しょうもない上司を背負い助手は五号目、六号目と山を登り続け(たまにマースの口にハイカロさんを投入し)頂上へ到着。
「着きました~。はあ疲れたあ」
「早っ!?」
登山開始四時間で上司一人を背負ったまま休憩なしで助手は頂上へ到着した。
「バケモノか君は!?」
笑顔でさっぱり汗を拭うこの男にダミ子は恐怖を感じた。

頂上を進んでいくと、金色の道が敷かれていた。

いや、道に見えていた金色は金貨だった。
他にも宝石や装飾された剣や盾、アクセサリーなどの財宝がわんさか転がっている。
「すごい数の財宝……」
「盗品だろうか」
盗品なんだろうな。
運転手の話によると相当乱暴者のドラゴンらしいし。
「しかしすげぇレベル上がったな私らの旅。盗賊退治から始まり漫画家アシスタント、バイトの次がドラゴンの棲む火山って」
「ダミ子さん、あれ、」
つんつん、と隣のマースが白衣の袖を引っ張った。
「あれ、ドラゴンじゃないですか」

ゴゴゴゴゴ……金色の道の先。
煮え滾るマグマの海の波が両脇で揺れ、中央にある陸地に翡翠色の大きな何かがいる。
たぶん、絶対ドラゴン。
近づく旅に翡翠の頭角が大きくなっていき、ゴゴゴゴゴと気迫を効果音にしたような地響きが迫ってくる。
緊張と畏れで口内の唾液が溜まりそれを嚥下する。

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……

ドラゴンの全貌が見える距離にまで迫ると、

「「へ?」」

ダミ子とマースは拍子抜けな声をあげた。
大きく上へ伸ばされた太く大きな頑丈な前足。もう片方の前足は何故か頭を抱えていた。
地面に食い込むほど鋭い爪を持つ後ろ足は何故か片足を宙に浮かべ、もう片足でバランスを取っている。
なんか、シェー、みたいな。
ドラゴンは変なポーズをとっていた。

「だから無理なんじゃって!」

急にドラゴンに話しかけられたと思いびくっとするもドラゴンの視線はこちらを見てなかった。
ドラゴンはもっと地面の方の目先を見ている。
目先の相手と、誰かと話してる?
「先客がいるのか?」
「運転手さんの言ってた度胸試しの挑戦者ですかね」

ドラゴンの口調からなにやら相手とモメてるようだった。
「だから~今のワシの状態では無理なんじゃって!  できないんだって!」
「……なんか思ってたドラゴンとイメージが違うな」
「そうですね……怖くないに越したことはないですけど。ていうかなんであんなポーズなんでしょう?」
緊張もとけたところでズカズカと前へ進んでいくと、二人の人間のシルエット。口論の相手は完全に最近見知った顔だった。

「だーから何故誇り高きネムーニャ人の我々が下々の民衆の村に使いを頼まれなければならない!」

「逆鱗は外すのコツがいるんじゃ!  普通の人間じゃ取り外せないの。逆鱗の持ち主であるワシにしか外せない。でもワシこんな姿だから外せんの。呪いを解いて貰わなきゃ逆鱗は外せんのじゃ」
「だからって我々に呪いを解かせるお使いをしろだと!?  貴様我々を愚弄する気か!」
「もー話にならん小僧じゃな~!」
ワーワーギャーギャー。
「だいたいなんだその呪いは!?  ふざけたポーズしおって!  我々をおちょくっているのか!?」
「【ヨガの呪い】じゃ!  村のふもとの村に棲む呪い師にかけられた!  動く度にヨガのポーズをとらされる。もう三年ヨガやってる。助けてくれ!」

口論をする人物の隣に立つもう一人は対照的にのんびりと手鏡を見ながら御髪を整えていた。

「めんどくさいねー兄さん。もう頭ごともってっちゃう?」
「殺される……!  ヨガのポーズのまま死んでしまう……!」
杖を構える二人にドラゴンはユニークなポーズで脅えていた。

「……その辺にしといてやれタイム」

マースは目の前に立つ人物、もとい元同僚の名前を呼んだ。
「マース!?  グゥスカの薬剤師も!!」
「やーお久しぶり(アンゼリカで会ったばかり)」
「ロングタイムノンシ~(貴方たち街にいたわよね)」
「ノンシ~(やっぱバレてたか)」
「ぬああッ!?  まーた追い付かれたああぁ~っ!」
タイムは膝から崩れ落ちた。
「マース捕獲~ふがふが」
「オレガノくっつくな!  暑い暑いから!」

またまたタイムとオレガノと再会したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...