スリーピング・サーガ~世界が眠りに堕ちる前に~

秋月流弥

文字の大きさ
30 / 39
第5章:英雄の街でアルバイト!

30.憩い

しおりを挟む
契約の一週間が過ぎ、ダミ子たちは給料を受け取った。
ジャスミンも店長の計らいで数日分の給料を渡された。
「嬢ちゃんはすぐにでも欲しいと思ったからよ」
「アーいいよ。給料なんかなくてもまた盗みまくるから」
「それは今言うんじゃねええ!」
野暮オオオォ!  と店長は雄叫びをあげた。

「フフ、それは冗談ヨ。給料はいらん。タダ働きでエエよ。牢獄行きならなかっただけで有難いし。レジ盗んですまなかったナ」
店長や他の従業員たちを前にジャスミンは頭を下げた。
「盗んだ身で言うのもなんだが、楽しかった。働くのイイなってちょっぴり思えた」
「……アリガト」照れ顔を見られたくないのか声は小さくうつむいたまま頭を上げない。

店長はその下がる頭にそのまま給料封筒をぽん、とのっけた。
「なーに言ってんだ。こんくらい貰っとけ。嬢ちゃんのおかげでお客さんたちチップも料理も弾んでくれたし。大盛況だったじゃねェか」

これはとっとけ。
のせられたお給料を頭上でキャッチし、ジャスミンははにかみながらも嬉しそうに「アリガト」ともう一度礼を言った。
「良かったな。もしかして初給料?」
「ウン。なんか嬉しい」
「私も」
「僕もです」
「なんだ。全員初バイト給料記念だな」
自分もずっと薬剤研究所でしか働いてこなかったため、バイト経験はなかった。
アルバイトで給料を貰うのは初めてで新鮮で嬉しい。

「またいつでも働きに来いよ」
店長と従業員たちに店頭で見送られダミー子たちはフェアリーステージを去った。
「ダミ子お姉さん、マース」
「ん?  なんだ?」
ジャスミンが二人に声をかけた。
「お給料、さっそく使いたい」

寄ったのは市場通りだった。
活気溢れる市場でジャスミンは給料で色とりどりの野菜に果実、新鮮な魚介類、さらに米を一俵購入した。
「そんなに買ってどうするんだ?」
「今日は初給料ゲット記念に、二人に我の料理をご馳走するネ!」

なんと《アジト3》は地下にあった。
これが本拠地だったらしい。
ジャスミンによると、戦争の時に使用されたシェルターを改造して作ったという。

「待ってナ。今料理を作るからー」
街でこれまた購入したフリルのエプロンをつけジャスミンは小さなキッチンに立ち食材を物色する。
「凄いな。見事なリフォームじゃないか」
「長く滞在しないから装飾は少ないんだケド」
「ベッドに丸テーブル、小型キッチンまで……よくもまあ拾い集めて……あ」
いや、盗んだのか?
「ここにあるのは拾い物ばかり。リサイクルアルよ」
察したのかジャスミンが答えた。
「秘密基地みたいでワクワクしますね!」
「ディルの漫画といい、君、こういうの大好きだな」
「ワクワクドキドキするものは誰だって大好きですよ」
少年の心を擽られたらしい。助手は興味深く部屋を見渡している。
「私は平穏がいい……」

「さ、完成!  御上がりヨー!」

「「お~っ!」」

丸テーブルの上には湯気を立てた美味しそうな料理が並べられた。
エビチリにチャーハン、水餃子。青椒肉絲に小籠包、棒々鶏……彩り豊かな品々は芳しい薫りで鼻孔をくすぐる。

「「「いただいまーす!」」」

ジャスミンの振る舞ってくれた料理はどれも舌鼓を打つほど極上な美味しさで、口の中がずっと幸せだった。

「ふーっ美味しかった~」
腹をさすり全員が幸せなため息を溢した。
「どれも美味しすぎて迷い箸しちゃいましたよー」
「な。エビチリ最高だった……君は器用なんだな。料理も躍りもできるなんて」
「どっちも趣味アルよ。ダンスや舞は妹と遊ぶ時によくしてたし、火の扱いは興味があってな。覚えるうちにレパートリーも増えたネ。知ってるカ?  中華料理は火力が命なんヨ」
食事を終えてからもジャスミンはダミ子とマースと楽しそうに喋り続けた。

ご馳走してもらったお礼に片付けはダミ子とマースが行った。

「ふぁ~眠くなっちゃった」
あくびを一つ、ジャスミンは床に敷いてあるクッションにダイブしクッションを挟むように脚を絡める。
「行儀悪いぞ。一応野郎もいるんだから」
「一応ってなんですか一応って。でもジャスミン、風邪ひくよ。毛布持ってこようか」
「……ダミ子お姉さん、マース」
「ん?」
「どうかした?」
「アリガトね」

二人に逢えて良かった。

「え……」
「先に寝てるヨ~」
そう言ってからジャスミンはぱたりと静かになった。
きっとはしゃぎ疲れたんだろう。
「まったく、自由な奴」
「起こさないように後でベッドに運んであげましょう」


自分たちは油断していた。
どうして自分たちが旅を続けているか目的を改めて突きつけられた。

ジャスミンは永眠病スリーピング・ホリックにかかっていた。

朝が来ても目を覚まさないジャスミンは死んだように眠っていた。
急いでフェアリーステージへ彼女を運び、店長は街医者を呼んだ。
どんなにダミ子たちがジャスミンに声をかけても、彼女が目を覚ますことはなかった。

眠る彼女の身柄は店の空いた部屋においてくれると店長は申し出てくれた。
ダミ子たちはよろしく頼むと頭を下げることしかできなかった。

「そういえば、嬢ちゃん店を出る前にこんなもん渡してきたんだ」

店長はジャスミンが置いていったという封筒を渡した。
それは一通の手紙だった。



~ダミ子お姉さんとマースへ~

『端金だが残りの金はオマエらに預けるネ。心配しなくて大丈夫。これは貸しアル。目覚めたら我が取り立てに行ってやるから、それまで少しでも足しにして頑張って世界を救ってくれヨ』


「……」
便箋と共に十万ゴールドが入れられていた。
ジャスミンは元から給料のうちから自分たちの分を振り分けてくれていたのだ。

受け取った手紙とジャスミンの手を握り締め、ダミ子は肩を震わせた。
マースは震える彼女の身体を支え、自身も唇を噛み締めた。

私たちは立ち止まっちゃいけない。
この先を進まなくてはならない。
ジャスミンが言ってたように、大切なのは今だから。

アンゼリカの街は今日も愉快な喧騒で包まれている。
一つの悲しみなど知らないように、気づかないように、明るい英雄譚が今日も云い継がれる。

「行こう」
絞り出すように声を出すと、ダミ子とマースは英雄の街を出た。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」 イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。 対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。 レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。 「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」 「あの、ちょっとよろしいですか?」 「なんだ!」 レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。 「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」 私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。 全31話、約43,000文字、完結済み。 他サイトにもアップしています。 小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位! pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。 アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。 2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

処理中です...