スリーピング・サーガ~世界が眠りに堕ちる前に~

秋月流弥

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第6章:【スカピー火山のドラゴンの逆鱗】

35.決闘

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バジル婆さんはドラゴンにかけていた呪いを解除した。
「ほい!」
「う、動けるー!」
呪いを解いてもらったドラゴンは自由の身体を堪能した。
「鼻ほじほじ!」
「汚ねーことやってんじゃねぇまた整わせるぞ」
「ありがとう婆さん!  そしてすまなんだ!」
「まったく……しょうもない理由で悪事をしおって」
「だって、せっかく訪れてくれたのに手土産なしは可哀想じゃろ」
「私らは可哀想だと思わないのかい」
その会話にデジャヴを感じた。
「でも盗みは盗みだからね。村の人たちが許しても私は許さないよ」
「え、呪いを解いてくれたから許してくれたのかと……」
「んなワケないだろ。私の金のカナブンお釈迦にしといて」
「す、すまん。そ、そうだ。詫びに婆さんのヨガにつきあってやるぞ!  ここなら火山だし気軽にサウナが楽しめる!」
「私をミイラにするつもりか!?  乾涸びるわ!」
たしかに。
別の迎えが来られたら困る。
「来るならあんたがこっちに来るんだね」
「え?」
「村の噴水がある公園。朝十時。時間厳守だよ」
「ワシも一緒にヨガやっていいのか!?」
「だめ」
「えッ」
「……今はエアロビにハマっとる。お前にエアロビの真髄を叩き込んでやる」
「婆さん……!」
「なんだい文句あるかい」
「ない!  明日からさっそく行く!」
無事呪いも解け仲直りもできたドラゴンはご機嫌で婆さんを背に乗せ村へ送ってやった。


「さて、おまたせ」
火山に帰ってきたドラゴンは四人に向き直り首の下を撫でる。
容易く逆鱗をかぽっと外すとドラゴンは言う。
「先程話した内容は覚えているか?  約束通り逆鱗は渡そう。“戦って勝った方”が逆鱗を手にいれる。それでいいか?」

クッキー作りを始める際、ドラゴンはダミ子たちに逆鱗について話をした。
『逆鱗だが、ドラゴンが持つ逆鱗は一つしか存在しない。共同戦線してもらった先言いづらいが、逆鱗はどちらかにしか手に入らない』
だから逆鱗が外せた際は互いに戦って勝った方に逆鱗を渡すことにする。

『なら僕が戦います』
『なら俺が戦おう』

その声は同時だった。
マースとタイムは自分が代表として戦うことをドラゴンに宣誓した。

「ああ。正々堂々あと腐れなく戦おう」
「同じく」
「ではこの場を貸そう。健闘を祈る」
ドラゴンが退いた先に大きな闘技場があった。
長方形に広がる平地の周りを囲むようにマグマの海。落ちたらおしまいだ。浮き出る大きめの溶岩は咄嗟の足場にするためか。
「本当に、こんなところで戦うのか」
スカピー火山は元来ドラゴンの魔窟。
挑戦者も迎える程戦闘に適したバトルフィールドだ。
マースとタイム、両者がそれぞれフィールドの端に立つ。

全員に緊張が走る。
お菓子作りの時は気がつかなかったが凄い熱気だ。場内の温度は非常に高く汗は止めどなく溢れる。立ってるだけでも酸欠になりそうだった。

二人は黙って互いの動きが出るのを待つ。

「……」
「……」

煮え滾るマグマに足元の小石が落ちた。
それが合図、両者は咄嗟に杖を構えた。
「『紫雷の槍サンダー・ボルト』!」
「『遠雷の渦ライジング・ストーム』!」
轟音が鳴り響く。
一閃の光の槍が竜巻に吸い込まれ霧散する。
「『無限重力グラヴィトン』!」
唸るような低い地鳴りがし、圧殺するような重力の塊がタイムを潰そうとする。
「『天壌の加護エンゼル・フェザー』!」
新たな魔法で重力を相殺。更に詠唱を続け反撃をする。
「『制裁の弾丸ジャッジメント』!!」
針のように鋭い光の矢が幾千もマースの上に降り注ぐ。
「『姫騎士の盾セイント・ウォール』!!」
光のバリアを張り頭上の矢を弾き跳ばす。
「あまい!」
防ぎ終えたと思ったところで背後に忍ばせておいた残党の矢がマースを目掛ける。
「ッ!」
避けるも足場を崩しマグマの海へ身が倒れそうになる。
「『風神の息吹エアフライ』!」
マースは咄嗟に足元に風の束を造りマグマ中に聳える岩石に足を置いた。
攻撃。防御。攻撃。避ける。攻撃。
両者のし烈な戦いが続いていた。

「すげー……これが魔法使いの戦い」

ダミ子とオレガノはドラゴンに張られた結界の中で二人の戦いを見ていた。
「ほぼ決闘じゃん」
「まあ決闘かもね。少なくとも兄さんは本気でマースに挑んでる」
「意外だ。お嬢ちゃんはてっきりマースくんの応援すると思ってた」
「もちろんマースがんば!  っていいたいトコだけど……それとこれは別かな。私たち一応ネムーニャの使命背負ってるし、個人の恋情より国の命運が優先って格好いいこと言いたいけど、」
オレガノは自分の兄の方を見て頬笑む。
「マースがいなくなってから兄さんずっと修行してた。『俺がヤツを越えるんだーッ!』って修行に手を抜いた日なんてなかった。そんな姿見てると、やっぱ兄さん頑張れって思っちゃう」

両者の動きに一旦区切りがついたのかマースとタイムは互いに睨み合っていた。

「マース、お前と決着をつけさせてもらう」
「久しぶりに聞いたな宣戦布告」
「懐かしんでる場合じゃないぞ? 今の俺は前までの俺と違う。俺は最強の呪文を使えるようになったのだからな」
「最強の呪文だと?」

「そうだ!  ついに我が家系最大の魔法、古に葬られし呪文……【デス・コモン】を使う時がきたのだ!」

最大の魔法。その言葉にマースは唾を呑む。
周囲に静けさが走る。
無音の世界。
タイムは目を閉じ意識を集中させると【デス・コモン】を唱えた。


「タンマ!!」


「……は?」

場が凍った。
絶妙にすっとぼけた間抜けなセリフに「ぶっ」とオレガノが吹き出す。
「タンマ!  タンマ!」
タイムは叫び続けた。
「なんだ、あの呪文?」
あれが最大の魔法、彼の切り札だと?
「そういえば聞いたことがある。遥か昔どこかの国が、巷で流行り使い倒され完全に旬を過ぎた言葉のことを“死語デス・コモン”と呼んだらしい。それを使ってしまった時の破壊力は凄まじいものらしい」
深刻な面持ちで解説をするドラゴンには悪いが。
「だ、ダサい」

「タンマ!」
「……何の呪文だか知らんがなんの効果もないのは事実」
マースは攻撃を再開しようと魔法を発動させる。
「これで終わりにしよう。【炎龍の咆哮ドラゴン・ブレス】!!」
しかし魔法は放たれなかった。
「なッ!?」
「ふふふ……やっと気づいたか。この魔法の恐ろしさを」
タイムは不敵に笑う。

「【死語デス・コモン】は全ての魔法発動を阻止することができるのだ。さあ、もう魔法は使えないぞ!  こっからは俺のターンだ!」

タイムの魔法攻撃がマースに襲いかかる。

「くッ」
マースが圧され始めた。
魔法を使えない彼はタイムの魔法をひたすら避けるだけ。
「勝負あったか」
「いや、ちょっと待って」
タイムの顔が描かれた旗を上げようとするドラゴンを制する。
「マースくん、まだ諦めてない」
マースの瞳にはまだ闘志が宿っている。
傷だらけになりながらもタイムに対し背中を見せなかった。
彼はまだ戦おうとしている。

「あ」
「どうした嬢ちゃん」
「いや、兄さんの【死語デス・コモン】ってさ、魔法を無力化する魔法でしょ」
兄の攻勢を見てるのに、オレガノは冴えない顔をしていた。
まるで気づいてはいけない何かに気づいてしまったような顔をしていた。
「あ、嬢ちゃんも気づいた?」
そう。
自分たちは気づいてしまった。

「ぐぺらッ!」
ちょうどタイムが吹っ飛ばされた。
マースは握り拳をつくってタイムに顔面パンチをお見舞いした。
簡単なことだった。
全ての魔法が封印される。
これは逆に返すと、封印されるのは魔法のみ。物理攻撃は可能、ということ。
魔法が使えないなら物理を使えばいいじゃない。
吹っ飛んだ先のタイムに更に追い討ちの往復ビンタ。
「ちょ、タンマタンマ!」
ある意味一番正しい本来の使い方をするタイムだがマースは止めない。時々摘まんだりして奴の顔面を弄ぶ。
タイムもやられっぱなしでなく、「バカー!」と物理で応戦した。
「っ!! 」
同じく顔面パンチを喰らったマースがまた一撃を加える。タイムもやり返す。
「バーカ!  ちっとも効いてないんだよさっさと降参しろ!」
「お前こそ!  自慢の顔がボコボコになる前に降参したらどうだ!」
「お前が降参しろ!」
「お前がしろ!」
物理の殴り合いによる第二ラウンドが始まった。

「ナニこれ小学生?」
「男なんて皆子供よ」

呆れた目でダミ子とオレガノは野郎同士のボコり合いを傍観する。

「バカにしやがって!  いつも澄ました顔で上に立ちやがって。ネムーニャにいた時だってそうだ!有終の美を飾ってサッと姿消して、ずっと勝った気でいたんだろう!?  残された下の者のことも顧みずに……余裕ぶっこいてさぞ気分よかったろうな!?」

「うるさい!  誰が余裕ぶっこいてるか!?  お前だって邪魔者の僕がいなくなって嬉しかったんじゃないのか!?」
「誰が繰り上げの首位で満足するか!  バーカバーカおたんこマース!」
「誰がおたんこマースだ!」
「好きな女に告白もできないヘタレ!」
「ほっとけよ!」
「バーカバーカマースのバーカ!」
「韻を踏むな!  語呂よく言ってんじゃねー!」

左頬を狙ったのにズレて鼻っぺしを殴ってしまう。

「あ、ごめ……」
鼻血を垂らす相手に思わず謝ってしまうとタイムの瞳から涙が零れた。

「た、タイム?  大丈夫か」
「うわあぁあああん!」

年甲斐もなく目の前の青年は泣き出した。
「俺は友達だと思ってたのにー!  お前が急にいなくなるから!  裏切られた気持ちで悔しかった!!  ライバルとして切磋琢磨して互いを磨き合えてると嬉しかったからっ、お前もっそう思ってくれてると思ってたのに~!!」
「タイム、お前……」
そう思ってくれてたのか、マースは呟いた。
同僚の本音を初めて聞いた。
「なのに、なのに、勝手にいなくなってんじゃねー……っ」
タイムは白目を向いて倒れた。
「タイム!」
倒れる相手を抱き起こそうとするも、マースも気絶するようにその場で倒れてしまった。
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