スリーピング・サーガ~世界が眠りに堕ちる前に~

秋月流弥

文字の大きさ
36 / 39
第6章:【スカピー火山のドラゴンの逆鱗】

36.友達

しおりを挟む
「……う、」
「あ、目、覚めた?」

ダミ子は膝の上に乗せたタイムの顔を覗きこんだ。
「薬剤師……どうして……俺はいったい……?」
「殴り合いの果てに気を失ったんだ。まったくとんだ泥試合だったよ君たち」
「そうだ……マースは……?  ッ……!」
「まだ動くな。治療中だから」
タイムの頬に消毒をあてる。痛みに顔をしかめつつも二の腕に貼られたそれに気づき、さらに顔をしかめた。
「なんか、身体中にダサいシールが貼られてるんだが……」
「私の開発したスペシャル絆創膏【トンでも絆創膏】だ。これを貼れば傷の治りが早まる」

腕と足、今顔に貼られた。身体のいたるところに微妙に可愛くないブタの絵が描かれた絆創膏が貼られている。
「こんな恥ずかしいもの貼ってられるか……とる」
腕に貼られた絆創膏を剥がそうとすると、

ブギィィィ……

ブタの嫌な悲鳴みたいなものが絆創膏から鳴った。
「う、なんて不快指数の高い音」
「剥がし対策だ」
「……そんなことよりマースは? 
アイツはどうなった」

「無事だよ~。兄さんといいとこ競るくらいのブタさんの数」
オレガノが歩いてきた。傍らには同じくブタの絆創膏まみれのマースが立っていた。先に治療を終えていたらしい。
「でも兄さんの方が重症かな?  倒れたのも先だったし」
「オレガノ……俺は負けたのか」
「ほんの僅差だよ。運良く僕の倒れる時間が遅かっただけだ」
タイムの問いにマースが答えた。
「私が魔法で治すって言ったんだけどマースが拒んだんだよね。これはただのすれ違いの喧嘩。反省を含めて自然治癒で治すって」
ね、と隣のマースに目配せをする。「……ああ」
「友達同士の喧嘩なら両成敗だろ」
「え……」
横たわるタイムの側にマースはしゃがみこむ。
「悪かったな。お前の気持ちに気づけなくて。僕、学院で友達もいなかったから喧嘩の仕方もわからなかったんだよ」
「マース……」
「お前の本音が聞けてよかった。タイムはあの頃から僕の友達でいてくれたんだな」
そう言ってマースはタイムに手を差し出した。
「フン。なんのことだか」
そう言いながらも差し出された手をとる。
取り合う手には、キャッチーなブタの絵。
「「ダセーペアルック」」
互いの姿を見て二人は吹き出すように笑った。
「……」
「タイム?」
タイムは白目を剥いていた。
「また気絶かよ!」
「勝負ありだな」
ドラゴンは交互に二人を見て勝敗を言い渡した。


「勝負の結果から、逆鱗は勝者マースに渡す。異論はないかね」
「ああ」
タイムの同意を聞きドラゴンは首肯くと、逆鱗をマースの手に渡した。

【スカピー火山のドラゴンの逆鱗を手に入れた!】

「たしかに」
「これで、残すは【イバラの森の魔女の涙】のみ……」
「あーあ。これでミッション失敗かあ」
「ネムーニャ皇帝がさぞ不機嫌になるだろうな」
「あー憂鬱~」

そうか。
逆鱗が手に入らなかったということは、もう秘薬を作ることは不可能。自動的にタイムたちのミッションはここで終わりを迎えるということだ。

なんともいえない気持ちになるダミ子の心情を読み取ったのかオレガノは大袈裟に手を挙げて言った。

「わーウッザ。もしかして私らに同情してる?  言っとくけど全然嬉しくないから。私たちに同情なんておこがましいのよ」
「まったくだ。おいグゥスカの薬剤師。俺たちに後ろめたい感情があるなら必ず秘薬【メザメール】を完成させることだな」
「タイム……オレガノも、二人とも、ありがとう」
「元気でな」
「ああ。タイムとオレガノも元気で」
「マース~!  また会いに行くからね!  今度はミッションじゃなくプライベートで会おうね~!」
「近い。近いよオレガノ……うん。また会おう」

名残惜しそうにいつまでもハグをするオレガノを引き剥がし、タイムたちは火山から上空へ飛び立っていった。

「……行ってしまったな。騒がしいが、なかなか愉快な兄妹だった」
「はい。いなくなるとちょっと淋しいや」

「私たちの旅も最終局面だな」

残すのは一つ。

「【イバラの森の魔女の涙】……か。ここからが難解なんだよな」

「地図にも載ってないから後回してしまいましたもんね。どうやって探すか……」
「ん?  イバラの森と言ったか?」
ドラゴンがその名前に反応した。
「【イバラの森】ならここからずっと奥へ行った北の森の更に奥にある森がそうだぞ」
「知ってるのか!?」
「ああ。塔までは行けなかったが」
「塔?」
「イバラの森の先に塔がある。そこに魔女は住んでるらしい。らしいというのも、イバラの森が出現した数十年前からワシは魔女の姿を一回も見たことがない。本当にいるのかも疑わしい。そういう意味では得体の知れない相手だ。用心しといた方がいい」
「なんだか怖いですね」
「世の中得体の知れないものが一番怖いからな」
最後の材料もこれまでと同様、きっと一筋縄ではいかないだろう。
それでも自分たちは何とか材料を手に入れた。乗り越えてきた。
「ここまで来たんだ。あともう少し、頑張ろう」
「はい。最後までダミ子さんをサポートします!」

いよいよ、最後の材料集めが始まる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...