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「ここの問題を、小森さん……あ、いけない、卯月さんだった。お願いします」
担任教師が小さく間違いを訂正したことから始まった。
黒板に書かれた問題を解く彼女を見て担任は申し訳なさそうに謝る。
「卯月さんごめんなさいね。名簿まだ直してなくて。他の先生にも伝えておくから、卯月さんからもどんどん遠慮なく言ってね」
「はい」
一言、卯月桃はそう言った。
澄んでいるのに冷たい声。
それは美しいのにどこか温度を感じない彼女の容姿とも一致していた。
チョークを置き、自分の席に戻る彼女を見て、クラスメイトの誰かが呟いた。
「また“ナナシ”の親離婚したんだ」
「また卯月の姓に戻ってる。小森になってからまだ一年だぞ。今回も短い結婚だったな」
「ばか。それじゃナナシが結婚してたみたいじゃん」
「どっちにしろ親が結婚離婚繰り返してたらナナシも近い未来そうなるだろ。同じだよ」
クラスの中から小声で不躾な意見が飛び交った。
“ナナシ”
卯月桃につけられたあだ名。
彼女の母親が再婚離婚を繰り返すことで、たびたび変わる名字が安定しないことからつけられた彼女の呼び名である。
「俺ナナシと小学校同じでさ。ナナシって小学時代六年間で名字が三回も変わってんだよ。二年の時が初瀬で五年が佐藤、そんで六年の時が今別れたての小森」
「うそ。そんなに?」
「中学入ってからも伝説つくれそうだよな。最短記録でも目指すか。なーナナシ」
ったく。中学生にもなってガキな連中だな。
赤の他人である俺が心ないクラスメイトの言葉に苛立ちを覚えるも、とうの本人である卯月は表情筋一つ動かすことなく完全無視で教科書に目をおとしていた。
「……」
「……!」
ずっと後ろから見つめていた俺の視線に気づいたのか彼女は一瞬振り返り俺と視線を交えるも、何事もなかったように再び教科書へ視線を戻す。
“ナナシ”と呼ばれる彼女。
ナナシと呼ばれようが小学生の頃から離婚再婚を繰り返してようが俺には関係ない。
中学で出会ったただのクラスメイトのうちの一人。
俺にとって卯月桃はそれだけで終わる関係だった。
「ナナシの次の名字はなんだろうなー」
「よし次の名字当てた奴に給食のプリン!」
「プリンって来週だろ!」
でも俺は知っている。
彼女の名字が明日から片瀬桃になることを。
片瀬悠樹。
俺と同じ名字になることを。
俺の父親と彼女の母親は今日役所に結婚届けを提出する。片親同士の再婚だ。
そう。
明日から俺たちは義理の兄妹になる。
担任教師が小さく間違いを訂正したことから始まった。
黒板に書かれた問題を解く彼女を見て担任は申し訳なさそうに謝る。
「卯月さんごめんなさいね。名簿まだ直してなくて。他の先生にも伝えておくから、卯月さんからもどんどん遠慮なく言ってね」
「はい」
一言、卯月桃はそう言った。
澄んでいるのに冷たい声。
それは美しいのにどこか温度を感じない彼女の容姿とも一致していた。
チョークを置き、自分の席に戻る彼女を見て、クラスメイトの誰かが呟いた。
「また“ナナシ”の親離婚したんだ」
「また卯月の姓に戻ってる。小森になってからまだ一年だぞ。今回も短い結婚だったな」
「ばか。それじゃナナシが結婚してたみたいじゃん」
「どっちにしろ親が結婚離婚繰り返してたらナナシも近い未来そうなるだろ。同じだよ」
クラスの中から小声で不躾な意見が飛び交った。
“ナナシ”
卯月桃につけられたあだ名。
彼女の母親が再婚離婚を繰り返すことで、たびたび変わる名字が安定しないことからつけられた彼女の呼び名である。
「俺ナナシと小学校同じでさ。ナナシって小学時代六年間で名字が三回も変わってんだよ。二年の時が初瀬で五年が佐藤、そんで六年の時が今別れたての小森」
「うそ。そんなに?」
「中学入ってからも伝説つくれそうだよな。最短記録でも目指すか。なーナナシ」
ったく。中学生にもなってガキな連中だな。
赤の他人である俺が心ないクラスメイトの言葉に苛立ちを覚えるも、とうの本人である卯月は表情筋一つ動かすことなく完全無視で教科書に目をおとしていた。
「……」
「……!」
ずっと後ろから見つめていた俺の視線に気づいたのか彼女は一瞬振り返り俺と視線を交えるも、何事もなかったように再び教科書へ視線を戻す。
“ナナシ”と呼ばれる彼女。
ナナシと呼ばれようが小学生の頃から離婚再婚を繰り返してようが俺には関係ない。
中学で出会ったただのクラスメイトのうちの一人。
俺にとって卯月桃はそれだけで終わる関係だった。
「ナナシの次の名字はなんだろうなー」
「よし次の名字当てた奴に給食のプリン!」
「プリンって来週だろ!」
でも俺は知っている。
彼女の名字が明日から片瀬桃になることを。
片瀬悠樹。
俺と同じ名字になることを。
俺の父親と彼女の母親は今日役所に結婚届けを提出する。片親同士の再婚だ。
そう。
明日から俺たちは義理の兄妹になる。
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