この過酷な異世界は君だけには優しい~不死の力で生き抜く英雄~

東雲潮音

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第一章【プロローグ:旅立ち】

第一章4【シュウとミラ】

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 ここからが実質的な物語のスタートです。
 よろしくお願いいたします。

 ━ ━ ━ ━ ━ ━ 


 一人の少年が家の椅子の上で本を読んでいる。少年が読んでいる本は「勇者エルクの英雄譚」という本で、この村だけでなく、人族《メンヒ》の王国全体で愛されている本だ。

 小さな子から老人まで、老若男女が知っているこの本は彼の愛読書であり、これまで幾度となく読み返し、セリフを一言一句まで暗唱できるほどだ。

 「ねー、シュウー」

 そんな少年に声をかける少女がいる。瞳も髪も綺麗な紅であり、髪は胸元まで達する長さだが、後ろで一本に結ばれている。整った顔とは裏腹に、活発そうな雰囲気を出す彼女にとってはその美しい髪も鬱陶しいのだろう。

 「おーい、シューウーくーん」

 そんな他の男子だったら見惚れてしまうような瞳や髪を無視して、少年━━シュウは本を読み続ける。

 そんな彼に嫌気がさしたのか、少女は大きく助走を取り、

「だーかーらー、無視すんなー!!!」

「ぶっ!!!」

 屋内にも関わらず、豪快なドロップキックを脇腹に喰らったシュウは変な声を出しながら椅子から転げ落ちる。そうして漸く本から目を放し、少女に意識を向けるのだった。

「いってー、なにすんだよ。いつも言ってるけどさ、もう少し普通に声をかけられないの、ミラさん?」

「さっきから!何度も声をかけてるのに!無視するシュウが悪いんでしょ!」

 大きな声で不機嫌なそうに叫ぶ少女━━ミラに対して不満そうに声をかけるシュウ。一見すると、喧嘩のように見える光景だが、彼らが幼馴染である事を知ってる人からすれば、いつも通りの光景なのであった。


*****************************************


「それで、なにか用?」

「おじさんとおばさんから頼み事で、今日の夕飯の買い物に行くんだけど手伝ってくれない?」

「うん、わかった」

 短くミラに返答して、買い物に行く準備をする。きっと今日は父さん、母さん、ミラ、それとミラの母親のフランおばさんと一緒に晩御飯を食べるのだろう。

「シュウ、準備できた?」

「あー、ちょっと待って」

 棚の奥から少し大きめのローブを取り出して、顔を隠す。これで準備万端だ。

「よし、それじゃあ行こうか」

 自分━━シュウが新たな人生を歩みだしてから約3年が経過していた。現在は神歴351年、自分とミラは14歳で、エスト村に暮らしている。

 あの病からの回復は両親だけでなく、治癒魔導士のダルさんも本当に驚いていて、今でも自分がこうして生きていることが信じられないらしい。それもきっと、自分がシュウだけではなく、所謂前世のような記憶を持っているのが関係しているのだろうか?

 この世界━━ヴェーダとは異なる世界で生まれ、過ごし、そして死亡した向井勇翔としての記憶は今でもはっきりと残っている。そのためヴェーダと勇翔の世界では大きく異なる事も多く、たまに自分の中にいる勇翔が反応することがある。

 例えば勇翔がいた世界、確か地球と言ったが、あそこでは勇翔は大きな都市に住んでいたし、生活も大きく違っていた。

「あ、シュウ、あれみて。冒険者が魔物を担いでるよ」

「うわー」

 ヴェーダと地球で大きく異なるのが魔物の存在だ。自分の種族である、人族(メンヒ)を脅かす存在であり。危険な生き物。神々が作ったと言われているが、なんであんな生き物を作ったのかは疑問である。

 猫や犬など、生き物は基本的に好きなシュウだが、魔物だけは例外だ。

「あんなに大きな魔物を倒せるなんて、やっぱり冒険者は凄いね」

「俺だっていつかはあんな魔物、簡単に倒せるようになってやるさ!」

「でもシュウはさー、私よりも弱いよねー」

「ぐっ!」

 ミラがニヤニヤしながら煽ってくるが、悔しいことに反論できない。ミラの実力は、エスト村の自分達の年代では1番であり、自分に至っては下から数えた方が早いほどだ。

 勇翔の記憶曰く、異世界転生だと基本的に特殊な能力を持って無双?するのが定番らしいのだが、なぜこんなにも理不尽なのか。

「俺達が冒険者になるまでは、後2年だろ?それまでに強くなってやるさ」

「まあ、頑張って私と一緒に冒険できる位には強くなってほしいな」

「心配するなって。なんたって、俺は将来━━」

「英雄になるんだっけ?」

「━━そうだよ」

 ニヤニヤしながらシュウの言葉を先に言うミラ。だがそこにはシュウの夢を嘲笑うような意図は一切無い。

「でも、いいよねー。英雄はともかく、騎士様とかに私も迎えに来てほしいよ」

「ミラは相変わらず騎士様が好きなんだな」

「えー。だって素敵じゃない?私がピンチの時に颯爽と現れて、救ってくれる騎士様。はぁ、でもこの村には私より強い子はいないしー」

 がっかりとした様子で溜息をつくミラ。彼女は幼い頃によんだ本に出てきた騎士に憧れを抱き、未だにそれを持ち続けている。

 傍から見たら恥ずかしいと思うかもしれないが、シュウ自身も英雄願望という、不相応な夢を持ち続けているため、それを嘲笑うことはしない。

「だったらさ、」

「え、なに?」

「俺が、英雄になって、ミラを……その……守ってやるよ」

「━━━━━━」

 途切れ途切れ、消え入りそうなシュウの発言を聞き、ミラは啞然としたように表情を失って、俯き、立ち止まる。そのまま暫く止まっていた彼女を心配して、シュウは声をかけようとするが、

「━━ぶっ!あははははは!シュウが!私を守る!?あははははは!!!」

「な、なんだよ」

「そんな冗談、面白すぎて笑っちゃうよ!あははははは!」

「うるさいな!別にいいだろ、英雄は皆を守るもんなんだよ!」

 人目も気にせずに笑い続けるミラに反論するシュウだが、彼女が笑うのも無理はないだろう。それほどに2人の実力差は明白だった。

「あー、お腹痛い。笑った、笑った。まあ頑張って私を守ってね。未来の英雄さん」

 笑いすぎて傷んだお腹をさすりながら笑顔をみせるミラ。彼女に気付かれていないが、耳の先まで真っ赤になった顔をフードに隠したシュウ。

 そんな2人が会話をしているうちに目的の店に到着した。

「じゃあ食材を買おっか。シュウはどうする?」

「俺は、外で待ってるよ。俺が中に入ると面倒だろ」

「……そっか、わかった。すぐ買い終わるから少し待っててね」

 ミラは一瞬、悲しい顔をしたがすぐにいつも通りの笑顔に戻り店の中に入っていった。
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