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第二章【冒険者と復讐者】
第二章8.5【ギルドの一室にて】
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ギルドの職員であるアカリは。彼らがいなくなった後も、冷や汗が止まらなかった。正確に言うと、彼らではなく、黒い瞳を持っている彼なのだが。
「君も、ギルドで受け付けを担当するなら、もう少し度胸を持つことだな」
自分の上司である、ギルドマスターのアンさんにも丁度自分が思っていた事を言われてしまった。これは凹む。
「はい……私としても、わかってはいるんですけど。彼が、シュウさんが良い人なのは」
シュウ・ヴァイス。黒い瞳を持つ冒険者であり、自分がかつて冒険者登録を行った人だ。最初は怖かったが、彼がいつも一緒にいた女性冒険者とのやり取りを見ていて、彼がとてもやさしい人なのは理解していたつもりだった。それでもあの瞳を見ると、どうしても身体が反応してしまうのだった。
「彼は険しい道を行く。本来なら、当時は自死の道を選んでもおかしくないような精神状態だったはずだ。それにも関わらず、あのように復讐の道を歩み、己を高めているのだからな」
アンさんが静かに笑う。この人は良い人なのか、腹黒なのか分からなくなる言動が多いため、混乱することがしょっちゅうである。その下で働く部下の気持ちにもなってほしいものだ。
「それこそが、彼のいう所の『生き残った者の務め』なんでしょうね」
「ああ、そうだな」
「あ、そういえばなんですけど、ギルドマスター」
「どうした?」
「いえ、さっきシュウさんが言っていた最後の質問あったじゃないですか」
「各都市への兵の配備の事か?心配するな、何度か演習も行っているし、問題なく機能する」
その兵の配備の件については自分も把握はしているつもりだ。その事に関してヴァイグル周辺の村から来た住民に尋ねられたことも何度もある。ただ気になるのはそこじゃなくて、
「兵の配備の指示に関して質問、というよりかは疑問があるんですよ」
「疑問だと?言ってみろ」
「その配備は女王から全権委任されているユーリ第一皇子がしたと言っていたじゃないですか」
「そうだな、彼は中々に優秀らしい」
「でもですよ?国の長が、全権をいくら第一皇子とはいえ、他の人に委任して、大丈夫なんですか?」
素朴な疑問だった。例えば血の繋がりがあり、どんなに信頼している優秀な部下だとしても、全権を委任するのは流石にやりすぎではないかと。
「なるほどな。聞いたところ、以前は国王が現女王であるリサ第一皇女に全権委任をしていたらしいぞ。なんなら彼女は天才とも言われるほどに優秀で、事実、彼女の弟であるユーリ第一皇子に政治や軍部に関しても全て、そのリサ第一皇女が彼に教育をしたらしい」
「え?それじゃあそんなに優秀だった人が。国の一番上に就いた途端、それまでやってた事を全部弟のユーリ第一皇子に任せたってことです?それって本当に大丈夫ですか?」
「確かにおかしな話だが、それで上手く機能しているのならいいじゃないか」
「た、確かにそうですけど」
「噂では、この国では王になった、途端にその人はこれまでのような事はしなくなり、全てを信頼できる者に託すようになるそうだな」
「な、何ですか、それ」
「王家の呪いなどと称されているらしいが、詳しいことなど誰も知らんよ」
政治の世界の事は理解ができないなと思うアカリだった。
「君も、ギルドで受け付けを担当するなら、もう少し度胸を持つことだな」
自分の上司である、ギルドマスターのアンさんにも丁度自分が思っていた事を言われてしまった。これは凹む。
「はい……私としても、わかってはいるんですけど。彼が、シュウさんが良い人なのは」
シュウ・ヴァイス。黒い瞳を持つ冒険者であり、自分がかつて冒険者登録を行った人だ。最初は怖かったが、彼がいつも一緒にいた女性冒険者とのやり取りを見ていて、彼がとてもやさしい人なのは理解していたつもりだった。それでもあの瞳を見ると、どうしても身体が反応してしまうのだった。
「彼は険しい道を行く。本来なら、当時は自死の道を選んでもおかしくないような精神状態だったはずだ。それにも関わらず、あのように復讐の道を歩み、己を高めているのだからな」
アンさんが静かに笑う。この人は良い人なのか、腹黒なのか分からなくなる言動が多いため、混乱することがしょっちゅうである。その下で働く部下の気持ちにもなってほしいものだ。
「それこそが、彼のいう所の『生き残った者の務め』なんでしょうね」
「ああ、そうだな」
「あ、そういえばなんですけど、ギルドマスター」
「どうした?」
「いえ、さっきシュウさんが言っていた最後の質問あったじゃないですか」
「各都市への兵の配備の事か?心配するな、何度か演習も行っているし、問題なく機能する」
その兵の配備の件については自分も把握はしているつもりだ。その事に関してヴァイグル周辺の村から来た住民に尋ねられたことも何度もある。ただ気になるのはそこじゃなくて、
「兵の配備の指示に関して質問、というよりかは疑問があるんですよ」
「疑問だと?言ってみろ」
「その配備は女王から全権委任されているユーリ第一皇子がしたと言っていたじゃないですか」
「そうだな、彼は中々に優秀らしい」
「でもですよ?国の長が、全権をいくら第一皇子とはいえ、他の人に委任して、大丈夫なんですか?」
素朴な疑問だった。例えば血の繋がりがあり、どんなに信頼している優秀な部下だとしても、全権を委任するのは流石にやりすぎではないかと。
「なるほどな。聞いたところ、以前は国王が現女王であるリサ第一皇女に全権委任をしていたらしいぞ。なんなら彼女は天才とも言われるほどに優秀で、事実、彼女の弟であるユーリ第一皇子に政治や軍部に関しても全て、そのリサ第一皇女が彼に教育をしたらしい」
「え?それじゃあそんなに優秀だった人が。国の一番上に就いた途端、それまでやってた事を全部弟のユーリ第一皇子に任せたってことです?それって本当に大丈夫ですか?」
「確かにおかしな話だが、それで上手く機能しているのならいいじゃないか」
「た、確かにそうですけど」
「噂では、この国では王になった、途端にその人はこれまでのような事はしなくなり、全てを信頼できる者に託すようになるそうだな」
「な、何ですか、それ」
「王家の呪いなどと称されているらしいが、詳しいことなど誰も知らんよ」
政治の世界の事は理解ができないなと思うアカリだった。
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