この過酷な異世界は君だけには優しい~不死の力で生き抜く英雄~

東雲潮音

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第二章【冒険者と復讐者】

第二章9【パーティー】

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「……」

 ギルドでの会話後、シュウはランクアップの手続きを終え、自分達は依頼の受注を済ませ、レゴン村の近くにある湖へと向かっていた。レゴン村はヴァイグルの近くにある村で、付近に魔物は本来余りいないはずなのだが、ここ最近は魔物の出現頻度がかなり増加しているようだった。

「……」

 ギルドを出てからというものの、パーティー内の空気は余りにも重かった。シュウはいつも通りの無言なのだが、彼の話しを聞いてからルカとアイリスの2人も時折シュウの方を見つつ、気まずそうにしている。

「……気にしないでくれ、過去の話、だから」

「……シュウ」

 沈黙を破ったのはまさかのシュウだった。彼は気にするなと言うが、自分達からすると気にしない方が無理がある。特に彼女達からすると、今回の話は衝撃的だっただろう。彼女達もシュウがエストの虐殺の被害者だとは思いもしなかったはずだ。

「あ、あの、シュウ君」

「なんだ」

 シュウが沈黙を破ったことでタイミングを掴んだのか、アイリスがその場に立ち止まり、シュウに気まずそうに話しかける。
 彼女はしばらく悩んでいたが、意を決したのか勢いよく頭を下げた。

「ご、ごめんなさい!!!」

「なにがだ」

 大きな声で謝罪をするアイリス。シュウの返事に顔を上げる。その瞳は涙で潤んでいた。

「わ、私、その、宿にいた時に、シュウ君の事を何も知らずに、シュウ君の家族の事を聞いてしまって。本当に、ごめんなさい」

「わ、私も悪かった!!!シュウの傷に勝手に触れるようなことを聞いて、本当に、悪かった!」

 アイリスに続き、ルカもシュウに謝罪をする。

「大丈夫だ」

「……トビはさ、この事を知ってたんだよね?」

「うん、そうだね」

「これで、わかりました。どうしてトビがシュウ君をパーティーに入れたかったのかが。力になってあげたいですよね」

 彼女達も彼の過去を知ったことで自分と同じ気持ちを持ったようだ。でもそれは、

「でもシュウ、勘違いしないでほしいんだ。僕達は君の事を憐れんだり、同情したりして力を貸そうと思ったわけじゃない」

「……」

 そうだ、これは彼を憐れんでいるのではない。彼は魔族達に故郷を破壊された後、魔の森の中で独りで、周りとの関りを避け、仇を討つため特訓を続けてきた。そして彼は、自分を助けた。

 シュウという人間は、人との関わりを避けようとしながらも、冒険者一人を見捨てることすらできない優しい人間だ。

「君が、優しい人だから、僕は力になりたいと思ったんだ」

「そうですね!私も、シュウ君の力になりたいです」

「そうね。英雄エルクが好きな奴に悪い奴はいないわ」

「……」

 何も言わないシュウだが、そんなシュウにルカが肩を組み、

「わかるでしょ、シュウ?エルクが最後に魔族の城に行く前に言った言葉。大丈夫、僕達だったらどんな苦難でも━」

 そのままルカが続きを促すようにシュウ、笑いかけ、彼が続ける。

「━必ず乗り越えられるさ、だろ」

「そういうことよ!」

 ルカが笑い、自分達も何時の間にか先程までの重い空気を忘れ、笑顔になっていた。もう大丈夫だ。自分達は、これから強いつながりを持ったパーティーになれる。心配はいらない。



 * * * * *



「ここが、依頼の湖ですか?」

「村で話を聞いた限りそうみたいだね。なんでも湖の中に魔物が棲みついていて住人たちは困ってるみたいだよ」

「一見、魔物なんかいなさそうな綺麗な湖よね」

 呑気なことを言うルカだったが、離れて見ている限り、この湖は平和そのものだった。レゴン村の村長に話を聞いたところ、湖畔に近づいた村人や、漁師がいままで見たことのない魔物に襲われ死傷者がでているらしい。

「しかも、あそこにあるのってシュルルク古城でしょ?景色も良くて素敵な場所じゃない」

 ルカが遠くの森の中でそびえ立っている城を指指す。

「あの古城ってこの辺だと有名なんですか?たまに話を聞きますけど」

 自分もアイリスと同じで聞いた事はあった、それでもヴァイグルに長くない自分達はあの古城についてはあまり知らなかった。

「そうね、ヴァイグル周辺だと結構有名じゃないかしら。あっちの森は魔族領に近くて立ち入り禁止だから古城には行けないんだけどね」

 彼女が指をさす方向は魔族領だ。正確に言うと魔族領と人族領の間には広い平原があり、その平原によって2つの領土は実質分断されている。
 いつ頃かは判明していないが、調査隊によって魔道具や武器の破片が発見されたため、過去に人族と魔族の戦闘があったのではないかとされている。

「それに、親がいう事を聞かない子供に怒る時に言う決まり文句があってね。悪い事すると━、あっ」

「どうかしたんですか?ルカちゃん?」

「え、えーっと、そのー」

 何かを言いかけたルカが、途中で何かに気付いたかのように、気まずそうにシュウの方をちらちらと見ている。あの古城とシュウに何か関係があるのだろうか。

「悪い事をすると黒い瞳の悪魔にシュルルク古城に連れていかれて、食べられる」

 シュウが珍しく自分から言葉を発する。それがルカが言おうとしたことだろうか。彼女が言いよどんだ理由はそれか。

「黒い瞳の悪魔、ですか」

「そ、そうやってこの辺の親は子供に言うのよ。で、でも別にシュウの事をそう思ってるってわけじゃなくてね!」

 呟くアイリスに、焦って取り繕うようにルカが言う。王都でも黒い瞳は災いを呼ぶと言われているが、地域によって色々な黒い瞳に関しての別称があるようだ。
 シュウは事件などの厄介事に巻き込まれやすい体質なのだろうか。こんなことは到底本人には言えないが、そう思ってしまった。

「まずは、その魔物達をおびき寄せないといけないね」

「私があそこで泳いでこよっか?」

「ルカちゃん……それは流石に危険だよ」

 不用意に湖畔に近づこうとするルカを呆れながらアイリスが止める。ルカは少し勢い任せな所があるので、良くアイリスに止められることが多い。
 話を聞く限り、この湖に潜む魔物はワニのような見た目をしていると聞いているので、Dランクの魔物のブルーアリゲーターだと思うのだが。

「流石に僕達も水中に引きずり込まれたら危険だ」

「じゃあ、魔法で何とかするの?シュウ、魔法使う?」

 ルカがシュウを見る。彼女の言う通り、シュウの魔法を使えば魔物を湖の中から引きずりだせるかもしれない。だが、シュウは首を振る。

「札は消耗品だ、出来れば使うのは避けたい」

「そんな事を言う割には、私との模擬戦だと普通に使っていたじゃない」

 続けて「魔法を使わないと私に勝てなかったってことなのー?んー?」とルカはシュウを挑発するが、シュウは静かに溜息をつくと、

「使わなくても勝てた。ただ訓練にもならない模擬戦は面倒だったから早く終わらせたかった」

「ちょっと!それ、どういうことよ!!!」

 シュウの返答に怒ったルカが、犬のように彼に向かって吠えているが、彼は無言で彼女の怒声を無視している。

「ははは……それじゃあ、僕らでやろうか、アイリス」

「はい、そうですね」

 シュウとルカを見て苦笑いをしながらアイリスと2人で作戦を練る。彼女の水魔法と、自分の風魔法があれば魔物達を湖から引きずりだすことは可能だ。

「それじゃあ、シュウとルカは向こう岸に行って待機してて」

「わかったわ」

「……」

 こちらの指示に従い、2人は向こう岸へと移動していく。移動中にもルカがシュウに向かって叫んでいるが、彼は殆ど無視しつつ、たまに短く返答しているようだ。

「しかし、意外でしたね。ルカちゃんが、あんなにシュウ君と仲良くなるなんて」

 アイリスがそんな2人を遠目で見ながら言う。初対面の時、シュウの事を一番警戒していたのはルカだった。そんな彼女が、今ではあんなに親しげに彼に話しているのは、その時から考えると信じられない光景だった。

「共通して好きな物があるってのはルカにとっても大きかったんじゃないかな」

「英雄の物語ですか。でも、小さい時は、みんな憧れますよね。私も昔は世界で一番の魔法使いになるってよく言ってましたよ」

「わかるよ、その気持ち」

 少し恥ずかしそうにアイリスが言う。自分もそうだった。

 昔は王都で一番強い騎士になると意気込んでいた。それでも、成長していくと現実を見ずにはいられなくて、自分には無理だという事を実感する。今はCランク冒険者になり、もう少しすればBランクになることもできるだろう。だが子供の時のように一番強い騎士などといった事は、もう言う事ができない。そういう意味では、今でも英雄の物語が好きなあの2人には、少し憧れる気もする。

「よし、それじゃあ、始めようか」

「はい、そうですね」

 集中をし直し、魔力を高める。

「アイリス、お願い」

「いきます!」

 アイリスが水魔法で、湖の波に干渉し、波を引き起こす。ただしこの波は通常の波とは異なり、表面だけでなく、底の水も動かすように操作する。そうすることで、異変を察知した魔物が水面に現れるはずだ。

「トビ、出てきましたよ」

「まかせて」

 湖の底から上面に魔物が姿を現した。予想通りブルーアリゲーターだ。魔物達がいる水面に向かって強力な風魔法を放ち、向こう岸へと吹き飛ばす。

「シュウ、ルカ!!!そっちは任せたよ!!!」

「トビ!!!こちら側にも数匹来ますよ」

「うん、大丈夫。アイリスは援護をお願い」

 異変を察知したブルーアリゲーター達が湖の中から出てくる。それでも数を向こう岸とこちら側で分割できたため、そこまで数は多くない。

「行くぞっ!」

 剣を構えてトビアスは魔物達に斬りかかる。彼らは水中では素早いが、陸地に出してしまえば、動きは多少は遅くなる。それでも奴らに噛みつかれたら、最悪手足を食い千切られてしまうので細心の注意を払わなければいけない。

 頭を剣で突き刺し、一体倒す。背後からもう一体のブルーアリゲーターが迫ってくるが問題は無い。

「当たって!」

 アイリスが氷柱を放ち、目を突き刺す。視界を失わせてしまえば。恐れることはない、一気に接近して。二体目も討伐した。後、残るは一体。ここは、

「アイリス、一緒に魔法で!」

「はい!」

 アイリスと共に魔法を放つ。自分が風魔法で相手を斬りつけ、彼女がブルーアリゲーターの頭上に出現させた大きな氷柱を落とす。風に斬られ、氷柱に突き刺された三体目のブルーアリゲーターも息絶え、これで討伐完了だ。あとは、

「ふぅ……シュウとルカは大丈夫か?」

 魔物の討伐を無事に確認してから、向こう岸で魔物達と戦う2人を見る。実力面では彼らなら問題ないと思っているが、不安点は1つだけあって、

「わぁ、ルカちゃんとシュウ君、凄いですね」

「……あ、ああ、あれは、予想してなかったな」

 先に向こう岸を見ていたアイリスが感嘆の息を漏らす。自分も遅れて彼らを見たが、彼女がそう言った理由をすぐに理解した。



 * * * * *



「おらぁ!まだまだいけるわよ!」

 両手に装備した籠手を使いトビアスがこちら側に吹き飛ばしたブルーアリゲーターを相手に声をあげながら、ルカは内心驚いていた。

「魔法を使う。一歩横に」

「よっしゃ!」

 声をかけられ一歩横に移動すると同時に魔法で雷が放たれる。雷は致命傷には至らないが、ブルーアリゲーターを痺れさせ、動きを一時的に封じる。その隙に距離を詰め、脳天に踵落としを喰らわせ討伐。

「やばっ!」

 ルカが一体討伐して一瞬油断したのを逃さずもう一体のブルーアリゲーターが飛び込んでくる。反応が遅れたが何とか対応して━

「……」

 その瞬間ルカとブルーアリゲーターの間に土壁が出現し、魔物の噛みつきは壁を砕く結果に終わる。シュウがルカの横に入り、防御したのだ。

「……行くぞ」

「え、ええ」

 何事もなかったかのように、走り出すシュウ。残すはあと一体。それにルカもついていき、

「俺が囮になる」

「了解!」

 シュウが先にブルーアリゲーターに接近し、攻撃を誘う。シュウを噛みつこうとして飛び込むブルーアリゲーターだが、ギリギリで躱され空を噛む。

「くらえっ!」

 攻撃を外したブルーアリゲーターは勢いよく蹴りを喰らい、宙を舞う。そこにシュウがタイミングを合わせて飛び込み、

「……死ね」

 剣で首を刎ねる。

 こうして一度はシュウに守られたが、ルカは難なく魔物達の討伐を終えたのだった。

「うそでしょ」

 一人静かに呟く。彼女が思っていたことは単純だった。彼女もトビアスと同様に不安な点をもっていたのだが、まさかシュウとの共闘がこんなにもやりやすいとは。

 昨日から正式にパーティーに加入した冒険者シュウ。第一印象は本当に最悪だったが、色々あり、彼が良い人だというのはよく理解したつもりだ。模擬戦で手合わせをしたから、実力があるのも分かっていたし、この程度の魔物相手に苦戦をすることはないとも思っていた。それでも彼女が驚きを隠せなかったのは、彼の連携力だった。

 シュウはこれまで半年間独りで森にいた。そのためその間は当然ながら誰かと共闘などしていなかったにも関わらず、この連携である。彼は自分に細かく指示をしながら、時には援護、囮をしながらも、魔物に止めを刺して見せた。

「シュウ……あんた、凄いわね」

「……」



 * * * * *



「ルカちゃんとシュウ君、凄いですね!完璧な連携だったじゃないですか!」

「僕も反対側から見てて驚いちゃったよ」

 こちら側に戻ってきたシュウとルカの2人にアイリスが少し興奮しながら声をかける。彼女ほどではないが自分も驚いていた。

「まあ、シュウの指示で楽に討伐できたかな」

 笑いながらルカがそういうが、やっぱり連携はシュウが彼女に合わせる形で行っていたのか。ルカは実力はあるが、指示を出すのは苦手なタイプだ。

「シュウ君は、以前は誰かと一緒にパーティーを組んでたんですか?」

「ああ、同じ村の奴と2人でな」

「あ、す、すいません、また余計なことを、」

「気にしないでくれ」

 シュウが言っている同じ村の冒険者。きっと以前ギルドで調べた際にリストに載っていた、同じ日に冒険者登録を行った彼女の事なのだろう。

「それじゃあ、依頼も終えたし、ヴァイグルに戻ろうか」

「そうですね」

「そうね」

「……」

 このパーティーが4人になってから初の依頼だったが、負傷もなく終えることができた。それにシュウが連携を取るのが上手だというのも良く分かった。上々のスタートと言えるだろう。
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