大人しい村娘の冒険

茜色 一凛

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マイがくれたもの

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 空は真っ黒になり、所々星が光り始めていた。街を歩けば淡いピンクの街灯が目立つ、マッチング酒場が見えてきた。私たちは何とか待ち合わせの八時に間に合った。

 ドアの前には胸元の開いたバニーガールが筋骨隆々の冒険者の肩にもたれ掛かり酔いつぶれ、その冒険者の馬車にお店のバニーガールを乗せようとしている。

 まさか誘拐じゃないよね?こういったお店に近づくことが無かったので何が起こっているのか理解できない。

「こんなとこに入るの?」
「いかにもボッタクられそうなバーだよな」

 私の言葉にユウキが顔を顰めながら反応する。
当初の予定通り勇者を罠にはめて衛兵に捕まえてもらう。そんな簡単にことが運ぶんだろうか。


その3時間前。

 私とユウキ、マイは三人でパンツを盗みに行くことにした。それがないと始まらないのだ。目をつけたのは夕暮れ時でもう洗濯物なんか干してない。何軒も回ってようやく見つけたのはおそらくシスターの家っぽかった。

 なぜなら、洗濯物にシスターの紺の修道着がかかっていたからだ。驚くべきことにパンツは白く紺の修道着の横にかけられていたから映えて見えた。

「よっしゃあー! やっと見つけたな!」

 ユウキはよっぽど嬉しかったのか大きな声をあげるから私はその口を両手ですぐに塞いだ。でもその気持ちも分からなくもない。

 もう50軒ぐらい歩き回ってたから疲れ切っていた。まるでその修道女のパンツは私たちにとっては砂漠の中のオアシスそのもののように思えた。今思えば作戦決行日が唐突過ぎたのだ。

「ほんと疲れたし、でも見つかってよかったわ。そもそも、こんな盗人みたいなことしなくても雑貨屋で買ってきたら良かったんじゃないの?」

「新品だと怪しまれるだろ。こんな作戦上手くいくのか? 他に何かいい作戦ないのか?」

 ユウキはいざとなると逃げ腰になってしまう。誰も危険を犯したくは無い。私だってこんな作戦間違ってると思うけど、一矢あの勇者に報いたい気持ちが勝ってた。

「やるしかないよ。もうキョウコにはブツを取りに行くと伝えてあるし。作戦を変更する訳にはいかないの。ユウキあとは頼んだよ」

「あんまり乗り気じゃないけど行ってくる」

 ゆうきは外にかけてあるパンツに腰を低くして近づくが、手をかけた瞬間、私の隣にいたマイが大声を張り上げている。何してんのよ。

「ドロボーっ! パンツ、ドロボー!」

 そのマイの声に気づいたおばちゃんがドタバタと外に飛び出し勇者に変身したユウキの姿を追いかける。手に家から持ってきた柄の長い箒を掴み、すごい剣幕で振り回しながら追っかけていく。

「ごめんなさあああああい」

「あのさ、マイっ、これはどういうことなの?」
「……ごめん。なんかストレス溜まってるみたいだわ」

 このままでは約束の時間に間に合わなくなる。

「なんで邪魔するんだ? 分かってんのか? あの勇者をはめるためにやってんのに。何が不満なんだよ?」

「マイごめん。私も少し心配なの?マイはどうしたいの? あなたとは蟹の素材を取りに船に乗り込んだり危険な冒険もしたわ。気持ちのいい人だってことは私っ、十分分かってるつもりよ。なんで言ってくれないの? 私にはわかんないよ」

 いつも堂々としてるマイが俯く。

「分からない……」

「分からないって、もう時間ないし、どうするんだよ。もう夕方だし、洗濯物干してる人も居ないんじゃないのか?まあいいや次やったらほんと怒るよ?」

 それから10軒ほど周り街の片隅にある古民家から洩れる光に照らされた軒先にかかるリボン付きのピンクのパンツを発見した。

「よしっ、行ってくる。多分最後の一枚だと思うし」

 ユウキは振り向きざまにキメ顔すると民家にむかむかって、ゆっくりと近づく。 

 突風が吹き、パンツが揺れる。

 私とマイは少し離れたところからその様子を伺っている。ユウキが背伸びをして掴もうとするものの、風が強くパンツが手を掠めなかなか上手く掴まらない。

「もうっ、何なんだよ。ここまで来たのに……」

 ユウキはボヤきながらも、懸命に手を伸ばす。

 あともう少しだよ。頑張って。あっ。

「やったっ……」

 ユウキがパンツに触れかけたとき。

「ドロボー、下着ドロー! 勇者がドロボーだああああ!」

 戸がガラッと開き、50代ぐらいのおばちゃんが木刀を持って現れる。この街の人ってどこからそんな武器を持ってくるのよ?

「私のパンツに何してんだあああああああー!」

 マイっ、なんでなのよ。何回も妨害して……もしかして何か理由でもあるの? 

「私は嫌なの! 勇者を嵌めるにしてもユウキがそんなことすることが許せない! 誰のか分からないような女物のパンツを盗む姿なんて見たくもない。もういいっ、そんなに必要ならこれ持ってきな」

そう言うと、マイは網タイツを脱ぎ出す。そしてスカートの中にモゾモゾと手を入れると、ゆっくりと脱いだ。

「マジか?」

 あまりのことにユウキは絶句してしまう。

 私にはこんなこと出来ない。こうして目撃者を何人も意図的に作る形になってようやく私たちが酒場に着いたのは夜の八時少し前。

 この酒場は外観にバニー姿の女性の看板がかけられ、ライトで淡くピンクに光っているのだからとても目立つ。

 外から窓越しに中を覗くと、お客は男性客が多く、玄関の貼り紙を見ると1時間5000ジュエルと書かれている。平均的な時給は1000ジュエルだと聞いたこともあるし、なんてぼったくりな店なんだろう。

 入るのが少し躊躇われたけど、三人でドアノブを回して中へと入る。店の前にいた柄の悪い冒険者の馬車はバニーガールの履くハイヒールを片方残したままどこかへと行ってしまった。

 中に入ると店員がキョウコのいる席に私たちを通す。そちらを振り向くと、テーブル席のキョウコは笑顔でこちらに手を振っている。

 何してんのよ。あまりめだったら駄目じゃないの。
 ユウキはキョウコを連れて、トイレへ行き、そこでマイのパンツを渡したようだ。

 それから三十分後くらいに勇者が現れ、ソファーに座りセクシーな女性を横に座らせ談笑している。お酒を飲んで少し気持ちよくなっている様子を少し離れた場所から見ていた。

 それから二時間もすると、

「いいから、いいからっ、座れ座れっ。勇者号に乗って宇宙まで行こうぜ!」

 勇者は完全に出来上がって無理やりバニーガールを膝の上に座らせようとしていた。
 その隙に、後ろから勇者のテーブルに回り込んだキョウコが勇者の脱ぎ捨てた上着のポケットにこっそりブツをいれた。

 上手くいったわ。あとは衛兵を呼びに行って、騒ぐだけね。

「アタシが呼んでくるわ! そのブツ私の私物だしね!」

 マイはテーブルから立ち上がると急いで外へ飛び出していった。あとは衛兵が来るまで勇者を監視してこの店内から逃さないようにすること。

 夜の10時になるとこの店の名物でもあるバニーガール達がステージにあがりダンスや歌を披露し、お客さんがお捻りをステージに向かって投げ始めた。勇者も紙に包んだ硬貨を満足そうに投げていた。

「今夜はあの子に決めようか!」

 勇者はステージの端っこで不慣れなダンスをする1人のバニーガールを指さす。

 その女性はその指が自分を指されたことを知ると青ざめその場にへたりこんでしまった。

「うーん……俺なんかしたか? まあいいや、そろそろ帰るか。その前にトイレ、トイレっと」

 まずい勇者が帰っちゃう。

「ユウキ見てきて。もう少しでマイが衛兵を連れてくると思うから足止め出来たら、しといて」

「また、俺なの?」

「うん。あなたのマイが頑張ってるのよ。ひと肌脱いだでしょ。1枚というか……」

「あーもうっ、わかったよ」

 ユウキはトイレへ行く勇者の後を付けた。

 マイっ、早くしてー。もしダメなら私も何か勇者を足止めする方法考えないと。

 そんなことは露知らず、店内はバニーガール達がそれぞれのテーブル席に付き再び談笑が始まる。
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