5 / 680
4 悪魔の交渉②
しおりを挟む
「1億2000万、ですか」
父がぐったりとソファの背もたれに沈み込んだ。
「そんな大金は、とても…」
母も額を押さえて、じっとうつむいてしまっている。
くそ・・・、ひとの弱みにつけこみやがって・・・!
僕は、すべての元凶が自分だということも忘れて、目の前のこの美青年が憎くてたまらなくなった。
それにしてもー。
庶民に1億2000万もの大金を請求するなんて、なんて冷酷非道なやつだろう。
心の底からそう思う。
そんな大金を払える人間が、この日本に何人いるっていうんだ?
「もう少し、なんとかなりませんか?」
悲鳴混じりの声を上げたのは、佐代子姉さんだった。
きりっとした美しい横顔が、涙で濡れている。
「もう少しとは?」
翔が、その時初めて姉の存在に気づいたとでもいうように、おもむろにこうべをめぐらせた。
「その…2000万くらいなら、なんとか…」
真正面から見つめられ、目を逸らす姉。
声が、尻すぼみに小さくなった。
2000万。
僕は思わず、姉の青ざめた横顔を見た。
それを、僕のために?
結婚資金にでもしようと、貯金していたのだろう。
2000万でも、僕らには大金だ。
それでも、相手の提示した請求額との落差に恥ずかしくなったに違いなかった。
「面白い。あなたは、賠償金を1億も値切ろうと?」
天野翔と名乗った美青年が、笑った。
何かとんでもなく気の利いたギャグでも聞いたかのような、ふざけた笑い方だった。
「値切るだなんて、そんなつもりは…」
真っ赤になって、姉が絶句した。
「もちろん、弟がすべて悪いのはわかっています。おじいさまには、大変申し訳ないとも思っています。でも、現実問題として…」
ややあって、気を取り直したように言いかけた姉を、翔が遮った。
「わかりました。そうですね。ここはひとつ、その弟さんとふたりで話をさせていただけませんか。場合によっては、何かお手伝いできることがあるかもしれないし」
「弟と、ですか?」
姉があっけにとられたように、翔と僕を見比べた。
両親と、ふたりの弁護士の視線も、いちどきに僕に集中する。
翔はにこやかに微笑みながら、僕のほうを見ている。
気のせいか、その切れ長の眼には、何か得体の知れぬ光が宿っているようだ。
こいつ、何を考えているのだろう?
事故の元凶である僕をなじって、鬱憤を晴らそうとでもいうのだろうか?
でも、今更そんな子供っぽいことをして、いったい何になる……?
僕は、ただ呆然と翔の美しい顔を見つめ返した。
堕天使のように美しい、その顔を…。
父がぐったりとソファの背もたれに沈み込んだ。
「そんな大金は、とても…」
母も額を押さえて、じっとうつむいてしまっている。
くそ・・・、ひとの弱みにつけこみやがって・・・!
僕は、すべての元凶が自分だということも忘れて、目の前のこの美青年が憎くてたまらなくなった。
それにしてもー。
庶民に1億2000万もの大金を請求するなんて、なんて冷酷非道なやつだろう。
心の底からそう思う。
そんな大金を払える人間が、この日本に何人いるっていうんだ?
「もう少し、なんとかなりませんか?」
悲鳴混じりの声を上げたのは、佐代子姉さんだった。
きりっとした美しい横顔が、涙で濡れている。
「もう少しとは?」
翔が、その時初めて姉の存在に気づいたとでもいうように、おもむろにこうべをめぐらせた。
「その…2000万くらいなら、なんとか…」
真正面から見つめられ、目を逸らす姉。
声が、尻すぼみに小さくなった。
2000万。
僕は思わず、姉の青ざめた横顔を見た。
それを、僕のために?
結婚資金にでもしようと、貯金していたのだろう。
2000万でも、僕らには大金だ。
それでも、相手の提示した請求額との落差に恥ずかしくなったに違いなかった。
「面白い。あなたは、賠償金を1億も値切ろうと?」
天野翔と名乗った美青年が、笑った。
何かとんでもなく気の利いたギャグでも聞いたかのような、ふざけた笑い方だった。
「値切るだなんて、そんなつもりは…」
真っ赤になって、姉が絶句した。
「もちろん、弟がすべて悪いのはわかっています。おじいさまには、大変申し訳ないとも思っています。でも、現実問題として…」
ややあって、気を取り直したように言いかけた姉を、翔が遮った。
「わかりました。そうですね。ここはひとつ、その弟さんとふたりで話をさせていただけませんか。場合によっては、何かお手伝いできることがあるかもしれないし」
「弟と、ですか?」
姉があっけにとられたように、翔と僕を見比べた。
両親と、ふたりの弁護士の視線も、いちどきに僕に集中する。
翔はにこやかに微笑みながら、僕のほうを見ている。
気のせいか、その切れ長の眼には、何か得体の知れぬ光が宿っているようだ。
こいつ、何を考えているのだろう?
事故の元凶である僕をなじって、鬱憤を晴らそうとでもいうのだろうか?
でも、今更そんな子供っぽいことをして、いったい何になる……?
僕は、ただ呆然と翔の美しい顔を見つめ返した。
堕天使のように美しい、その顔を…。
10
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる