HEAVEN'S GATE IN THE SKY.

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  一番ふるい記憶に、史彦はいる。
「父親同士が友人だったから、子どもの頃は史彦の家で遊んだ」
 目を閉じればそこには史彦の家のサンルームが浮かぶ。一緒にミニチュアの電車が走るのを見ているのだ。春だったろうか、心地よい日ざしに溢れていた。近くのテーブルに、父と史彦の父親が座り談笑している。
「そのころは史彦の母さんも元気で、俺は父さんと一緒に暮らしていた」
 思い出の中の史彦の母親は、いつも柔和なほほ笑みを浮かべている。癖のない長い髪を後ろで一つにまとめ、白いブラウスが子供の目からもよく似合っていると感じていた。
 雄高の父は当時大学で講師をしていた。史彦の父親は先代から引き継いだ不動産業の経営者で、二人は学生時代からの古いつき合いの友人だったという。
「いまはもう二人ともいないけど……」
「碓氷のところは母子家庭だったな。灰智は両親がそろっているはず」
 さすがに安騎野はクラス担任らしく、それぞれの家庭事情は頭に入っているらしい。雄高は首を横に振った。
「史彦の母さんはそれから間もなく病気で亡くなって、今いるのは新しく来た人だ」
 史彦の実母は若くして病死し、そして雄高の父は六年前母と別れた。
 あのサンルームも取り壊され、後添いの連れ子と新たに生まれた娘たちの勉強部屋に取って代わられた。
「もう、ないんだ。あの場所は。俺と史彦の中にしか存在しない。特別そのことを話し合うわけじゃない。けど、子ども時代の同じ思い出を持っている史彦を特別に感じるのは自然なことじゃないのかな」
 例えて言うなら、一つの貴石を二つに割り、雄高と史彦で持っているようなものだ。ふだん、それをあえて見せ合ったりはしない。けれど、何かの拍子にその頃の何げない出来事を話すとき、その思い出にあいづちをうつ史彦がなによりも大切に感じるのだ。
 あの頃の史彦は明るく笑った。感情の起伏がはげしくて、くるくる変わる表情が今でも思い出される。だから、高校で再会した史彦が、あまりにも内にこもっていることに雄高は驚いた。
 そうか、と安騎野は空を見つめた。新しいビールを取り出すと、雄高に渡した。
「奴に触れたいと思わないのか。俺に呼び出される前に、いっそのことやっちまおうとか考えなかったのか?」
 雄高はまた首を振った。手の中のほどよく冷えたビールのプルに、震える指を雄高はかけた。
「そんな……でも」
 きっと違う。そう思いたい。なにより史彦に嫌われたくない。
 史彦は自分にだけは明るく笑う。そう雄高は信じている。あの笑顔を守るためならなんでもしよう、と。けれど、それを自分は裏切りという行為ですべてを壊してしまったのだ。目の前にいる安騎野のせいで。
 しかし、それを招いたのは自分の奥ふかくにある、史彦に向ける暗い情念が原因だったのかもしれない。雄高はそれから目を逸らし続けてきた。
 ……安騎野がしたように、史彦を力ずくでも抱きたいと思っていたことに。
 たとえば史彦に触れることで、口づけしたり体を交えたりすることで、ふたりの関係はどう変わるのだろうか。嫌われて、もう会えなくなるくらいなら、このままのほうがよっぽどいい。だから、違うのだと祈るような気持ちでいるのだ。
 正直、安騎野からの呼び出しが来るまでの何日か、雄高は気が狂いそうだった。安騎野に言われるまでもなく、奴の手に落ちるぐらいなら、いっそのこと自分が……と思い詰めた。
「もし、お前がそう考えていたのなら、俺たちは同罪だな」
 史彦のことを思う純粋な気持ちはある。けれど、一方で犯したいという自分の中の衝動の強さに襲われることもあるのだ。気持ちのうえで文彦を犯していたなら、雄高もまた安騎野と同じ獣だ。雄高はそのことを突きつけられ、自分の罪深さに涙がにじんだ。 
 なにも答えず雄高はビールをあおった。一息で缶を空けた。雄高には、史彦の大切さを安騎野に分からせるほど説得力のある言葉を知らなかった。
 アルコールになれていない雄高は、空っぽの胃袋にビールを流し込んだせいで、瞬く間に酔いが回った。目の周りが火照り、町の騒音が遠のいたように感じられる。
「優しくしてやろうか、碓氷。共犯者のよしみで」
 顔をあげるといつの間にか安騎野が目の前に立っていた。雄高はわけが分からず、ただぼうっとかすむ目で安騎野の顔を見た。
 ひとつき前、荒々しく雄高の髪をつかんだ安騎野の手が今夜はそっと頭をなでる。指先は、そのまま雄高の顔の輪郭をなぞるようにして顎で止まると雄高の顔を心持ち上に向けさせた。
 安騎野の顔が近づく。ゆっくりと安騎野は唇を重ねてきた。部屋と同じタバコの匂いがする。両の腕が包みこむように雄高を抱いた。
 雄高は抵抗しなかった。酒に酔ったせいなのか、誰にも話したことのなかった子ども時代のことや史彦への思いを吐き出したせいか、頭の中が妙に空虚で体がだるい。
 ただ、安騎野の体の温かさが泣きたいほど心地よかった。安騎野のタバコの匂いが父を思わせた。
「今日は暴れないか」
 安騎野は雄高のカットソーのジップをおろすと、胸に唇を這わせた。アルコールのせいか、もう体が熱をおび始めている。安騎野の舌が雄高の乳首を甘く噛むと体を支えていた腕から力が抜けて雄高はよろけた。そのまま安騎野は雄高にのしかかると、右手で巧みにベルトを外した。
「あ……っ」
 すでに力をもちつつあったものに下着のうえから軽く触れられただけで、雄高は声をあげた。雄高は羞恥心でいっぱいになり、目を閉じると安騎野から顔をそむけた。
「恥ずかしがることはない。碓氷の体は正直だな。かわいいよ」
 かすかにこわばる雄高から、安騎野は服を脱がせると自分のものと合わせ、長くしなやかな指でしめつけた。
「んっ」
「我慢せずに声を出せよ。ここに住んでいるのは俺だけだ」
 手を上下させながら安騎野は雄高を挑発するように静かに笑った。手の動きが激しくなる。引けそうになる腰を安騎野は押さえつけ、さらに強く動かす。雄高のそれは、今まで経験したことがないほどいきり立ち、安騎野の手の中で堅くなった。
「!」
 雄高はたまらず安騎野の手の中で果てた。一拍おいて安騎野もわずかに体を震わせ、雄高のうえで荒い息をついた。安騎野は雄高の頭をかき抱き、首筋に口づける。 
 いつの間にか涙がにじんでいた。安騎野は息を整えながら、雄高の涙をなめとると耳もとでささやいた。
「咥えろよ、俺のを」
 えっ、と雄高は息を呑んだ。安騎野は雄高の額にかかる髪の毛をかきあげながらもう一度言った。
「咥えろよ、もっと優しくしてやるから」
 雄高はのろのろと起き上がると、安騎野に導かれるままそれに向かった。
 まだ白い液の糸を引くそれに嫌悪感を持たなかったと言えば嘘になる。けれど酒に酔い、現実味を欠いてしまった今の雄高には、ただ安騎野の言葉だけが頭にこだましていた。
 ー優しくしてやるよー
 誰かに優しくしてほしい……それはいま目の前にある。手を伸ばせば触れられる形あるものとして……。
 手を添えると安騎野を雄高は口に含んだ。ゆっくりと、ゆっくりと。
 どうすればいいか分からず、ただ夢中で口に押し込んだ。
「根元までだ」
 命じられるまま喉を奥まで広げて根元まで咥える。堅いヘアが鼻先をくすぐる。すえたような汗と精液が混じった匂いがする。
「舌も使え」
 雄高はその言葉に柔順従い、まるで犬になったようにぎこちなく舌を動かしてみる。安騎野は雄高の頭に手を置いたまま、わずかの間だまっていた。口の中で安騎野が徐々に堅くなっていくのがわかる。絡みつかせる舌が熱く脈打つ様を感じ取る。
「んっ」
 雄高はその大きさにむせると、安騎野は口から自身を引き出した。
「上手じゃないか、雄高……いいよ、すごく」
 咳き込む雄高の体に安騎野は再び手を伸ばすと、足を広げさせた。
「あっ」
 雄高の体が竦む。あのときの荒々しさが脳裏に蘇ったからだ。
 しかし、安騎野は約束を守った。雄高の中心をゆっくりと撫で始める。
「たっ」
 突然、長い指が差し入れられた。
「や、だ……」
 安騎野は手を休めなかった。指で押し広げるように、中で動かされるたびに、雄高は喘いだ。同時に雄高自身も掴まれ、先端にあてがわれた指を時折動かされただけで雄高の腰から快感が背中を駆け登った。
「ほら、柔らかくなってきた」
 安騎野が指を出し入れするたびに、雄高の体は卑しいほど反応する。自分の中心を人目にさらす恥ずかしさに身が縮む。
 安騎野は、雄高からあふれ出た透明な液体に濡れた指先を見せると、次は充分に堅くなった自分をあてがった。
「やっ」
 雄高は瞬間、安騎野の体を押し返し逃げようとした。安騎野は雄高の肩を痛くない程度に押さえた。
「大丈夫だ。丁寧にしてやるよ」
 その言葉を、やさしげに見える瞳を信じてもなお、胸の鼓動が速まり雄高は体を堅くした。開ききった足の合う場所に指よりも数段太くて堅いものが、ゆっくりと雄高を押し開き侵入してきた。
「……くっ……ん」
 雄高は唇をかみしめ、その大きさに耐えようとした。
「あっ」
 雄高は安騎野の肩にきつく爪を立てた。
「い、たっ……!」
 初めての時よりも数段、安騎野を大きく感じる。少しでも動くと繋げた部分に鋭い痛みが走る。内蔵全体が押しあげられ、体がはちきれそうだ。
「力抜けよ、息を吐け」
 ふるえる息を雄高は吐いた。指から力を抜くように意識したが、ただ震えるばかりだった。体全体を圧迫するような異物感は無くならない。痛みと、もっと別の感覚と、ふたつの間を振り子のように揺れた。
「動かすぞ」
「や、やだ……だめ」
 安騎野は涙を流す雄高を無視して、腰を動かし始めた。突きあげられるたびに、雄高はたまらず声をあげた。
「あっ、うっ」
 自分が自分でなくなったように、痛みと快感に身を任せ、むせび泣きながら雄高の体は床のうえで波打った。体を内側からかき乱される。まるで、自分をばらばらに壊されるような安騎野の攻めを受けて雄高は喘いだ。
「いたいよ」
 涙で潤んだ瞳で安騎野を見れば、行為に熱中する安騎野が視界に入る。日ごろほとんど感情のゆれを見せない安騎野が雄高のうえで激しく動いている。
「だから、力を抜け」
 額に汗を浮かべた安騎野が右目だけ開けた。
「ちがう、背中が……」
 雄高の背中は、剥き出しの板のささくれが直にあたり痛みを覚えていた。
「……うえになれ」
 事情を飲み込むと安騎野は体をつなげたまま、雄高を自分のうえに乗せた。
「いいだろう、碓氷。全部見える、おまえのもの……。しっかりと俺を咥えている。見てみろよ」
 雄高はそこを見た。安騎野が深々と刺さっている。感じる、自分の深いところに、とても深いところに安騎野があることを。
 いきなり雄高は体を垂直に立て、自ら安騎野を更に深く受け入れてみた。
「あぅ」
 いままでにない感覚に雄高は声をあげて、瞬間いきそうになってしまった。そのまま安騎野の腹に手をつくと、恐る恐る腰を動かして今まで知らなかった快感を貪った。それに安騎野は瞬間驚きの色を見せたが、あとは雄高の自由にさせた。
「ああっ」
 雄高のそそり立つモノに安騎野が手をのばし、親指の腹で下からじわりと撫でられると、先端の割れ目から透明な蜜がとめどなく流れ出し、安騎野との結合部を濡らした。ぐちゅぐちゅと、湿った音と雄高の声が混じり合う。
「いいよ、最高だ、碓氷」
 安騎野も時折声をあげ、雄高の腰に手を添えると動きを合わせた。雄高は快楽の階段をのぼり詰めていく。まだ、まだ、もっと、もっとそのうえまで……。
「っう」
 突然視界は白く弾けて雄高は達し、安騎野の上下する胸に雄高の体は落ちた。
「さっさと一人でいくなよ」
 安騎野はぐったりとしたままの雄高をうつ伏せにすると、後ろから入り直した。失いかけた意識が、貫かれた衝撃で一気に戻る。
「ん、っ」
 雄高の腰を高く抱え、安騎野は再び雄高を責め立てた。頭の芯は痺れたままだ。
 熱く堅いもので貫かれるたび、雄高の脳裏を史彦の姿がかすめる。
 こんなときに……どうして。史彦にはもう会えない。きっともう会えない。雄高は引き返せない領域に踏み込んでしまったことに今更気づいた。
「うっぁ」
 安騎野が鋭く叫んだ。雄高の中に安騎野は全てを放った。雄高の中からあふれ出たものがぬめりながら内股を伝わっていく。
 安騎野は上気した頬を雄高によせ、再び唇を重ねた。
 満たされてゆく……胸に開いた空虚な穴がゆっくりと温かいもので満たされてゆく。雄高も安騎野の唇を求めた。
 二人はそのまま足を絡ませ、抱き合った。
 真夏の夜に。
 お互いの温もりを逃がさぬように。

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