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第4話 少女との出会い
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そうは言われても、安心できない。
なにせ、もう街からは大分離れてしまっているのだ。
石畳で舗装されていた街道もいまやすっかりむき出しの大地になっている。
既に『街の近く』とはとても言えない。
こんなところで、誰かに襲われたら、間違いなく助けは期待できない。
もっとも、万が一野党に襲われても、相手が一人ならば切り抜けられる自信はある。
しかし、相手が集団だった場合は……。
いくら強化されていない人間が相手とはいえ、武装した複数の者たちと立ち回った際に、自分の能力がどこまで通用するかははっきり言って未知数だ。
影人の疑惑の視線に気づいたのか、ガラはさらに念押しをするかのように言った。
「本当にもうすぐそこだ。安心しろ」
そう言われてから、さらに十数分後、ようやく目的地に着いたらしい。
結局、門から出てかれこれ小一時間は歩いた。
先導していたガラが、「あそこだ」と顎を降る。
指し示された方向に顔を向けると、遠くの鬱蒼とした茂みの奥になにやら家らしきものが見える。
影人の視覚でも言われなければ家だと認識できないくらい、その家屋は周りの背景に溶け込んでいた。
街道から外れて、茂みの奥にある家を目指して、歩く。
茂みと言っても、それらの背は、腰の高さほどまであり、かつ野放図に生えているため、掻き分けて行くにしても、大分骨が折れる。
さらに、近くに水源でもあるのか、地面は、湿地帯さながらに泥濘んでいるから始末に負えない。
その水源を糧にしているのか、羽虫が無数に湧いて、影人の前をブンブンと勢いよく飛んでいる。
近づくに連れて、本当にこの場所が目的地なのかという疑念が強まっていった。
というのも、視界にある家は、明らかに人が住んでいるような気配を感じられなかったからだ。
都市内の家もオンボロではあるが、それでもそこで住民が日々暮らしている生活感が端々に漂っていた。
しかし、いま目の前に広がる家……というより廃墟にはまるでそういった温もりは感じられなかった。
その家は、周りの草木に外壁のほとんどを侵食され、内部まで入り込まれており、どこが入り口なのかもわからないほどだった。
「本当にここなのか?」
影人の問いかけに、ガラは無言のまま、ただ虫を追い払いながら、雑草を掻き分けて、玄関らしき場所へと足を運ぶ。
「ここは……俺が対応するからお前はそこにいろ」
「えっ……お、おい」
影人の返事を待たずして、ガラは半開きになっている扉の間に体を入れて、家の中に入ってしまう。
影人はしばし、あっけにとらわれた後、どうしたものかとあたりを見渡す。
そして、その場を行ったりきたりしながら、この状況を考えてみる。
どう考えても、ガラの行動はおかしい。
貸した金の回収業務の一環でこの家に来たとは到底思えない。
用心棒役の影人をおいて、ガラ一人で対応しているのがその証だ。
それに、こんな都市から離れた場所に住んでいる者に、ガラが金を貸す訳がない。
どう考えても、リスクの方が大きくて、見返りが少ない行為を、商売上やるとは思えないからだ。
となると、商売以外のこと……なにかガラの私事に関係することなのかもしれない。
単に金をもらって用心棒をしているという間柄、つまりガラと影人は、雇用関係があるだけに過ぎない。
だから、ガラが何をしようと影人にはまるで関係ない。
しかし、それでも……嘘をつかれるのはどうも気に食わない。
そういう感情がふつふつと湧き上がっていることに、驚いてしまう。
どうやら自分は思っていた以上に、ガラのことを信用していたようだ。
考えてみれば、ガラは、この世界に来て、いや今までの人生で、初めてAIのサポートなしに、自ら考えて、直接関係を築いた相手だ。
予測できない関係というものは、こういう感情が付随するものなのか。
知識としては知っていたが、経験したのは初めてだった。
ここで、ガラが戻ってくるまで、言われたとおり、待っているべきか……。
だが、好奇心と苛立ちを抑えることはできそうになかった。
影人の足は、ガラが先ほど入っていた扉へと向かう。
家の中は、外観に比べれば、いくらかマシな程度には片付いていた。
それでも、人が住んでいる気配はしない。
とうの昔に朽ち果てた木造りの椅子や机が何個か無造作に脇に置かれていて、ほこりを被っている。
端の方に目を向けると、地面に直に置かれている皿があった。
その皿だけは、ほこりをかぶっておらず、人が使用した形跡があった。
どうやら最近住み着いた住民がいるようだ。
部屋を見渡すがガラは見当たらない。
奥の方から何やら話し声が聞こえてきた。
ガラと住民は、奥の部屋にいるようだ。
特に隠れるつもりはなかったので、ギシギシと床を踏み鳴らしながら、声のする方へ歩を進める。
一定の距離まで近づくと、ガラが足音に気付き、こちらの方に顔を向けてくる。
「お、おい!」
ガラが慌てた様子で、こちらに近寄ってくる。
影人は、向かってくるガラを無視して、部屋の奥にいる住民に目を向ける。
若い女だった。
年は20代に見えるが、この世界の文明水準を考えると、もしかしたらもっと若い……10代後半かもしれない。
なにせ、もう街からは大分離れてしまっているのだ。
石畳で舗装されていた街道もいまやすっかりむき出しの大地になっている。
既に『街の近く』とはとても言えない。
こんなところで、誰かに襲われたら、間違いなく助けは期待できない。
もっとも、万が一野党に襲われても、相手が一人ならば切り抜けられる自信はある。
しかし、相手が集団だった場合は……。
いくら強化されていない人間が相手とはいえ、武装した複数の者たちと立ち回った際に、自分の能力がどこまで通用するかははっきり言って未知数だ。
影人の疑惑の視線に気づいたのか、ガラはさらに念押しをするかのように言った。
「本当にもうすぐそこだ。安心しろ」
そう言われてから、さらに十数分後、ようやく目的地に着いたらしい。
結局、門から出てかれこれ小一時間は歩いた。
先導していたガラが、「あそこだ」と顎を降る。
指し示された方向に顔を向けると、遠くの鬱蒼とした茂みの奥になにやら家らしきものが見える。
影人の視覚でも言われなければ家だと認識できないくらい、その家屋は周りの背景に溶け込んでいた。
街道から外れて、茂みの奥にある家を目指して、歩く。
茂みと言っても、それらの背は、腰の高さほどまであり、かつ野放図に生えているため、掻き分けて行くにしても、大分骨が折れる。
さらに、近くに水源でもあるのか、地面は、湿地帯さながらに泥濘んでいるから始末に負えない。
その水源を糧にしているのか、羽虫が無数に湧いて、影人の前をブンブンと勢いよく飛んでいる。
近づくに連れて、本当にこの場所が目的地なのかという疑念が強まっていった。
というのも、視界にある家は、明らかに人が住んでいるような気配を感じられなかったからだ。
都市内の家もオンボロではあるが、それでもそこで住民が日々暮らしている生活感が端々に漂っていた。
しかし、いま目の前に広がる家……というより廃墟にはまるでそういった温もりは感じられなかった。
その家は、周りの草木に外壁のほとんどを侵食され、内部まで入り込まれており、どこが入り口なのかもわからないほどだった。
「本当にここなのか?」
影人の問いかけに、ガラは無言のまま、ただ虫を追い払いながら、雑草を掻き分けて、玄関らしき場所へと足を運ぶ。
「ここは……俺が対応するからお前はそこにいろ」
「えっ……お、おい」
影人の返事を待たずして、ガラは半開きになっている扉の間に体を入れて、家の中に入ってしまう。
影人はしばし、あっけにとらわれた後、どうしたものかとあたりを見渡す。
そして、その場を行ったりきたりしながら、この状況を考えてみる。
どう考えても、ガラの行動はおかしい。
貸した金の回収業務の一環でこの家に来たとは到底思えない。
用心棒役の影人をおいて、ガラ一人で対応しているのがその証だ。
それに、こんな都市から離れた場所に住んでいる者に、ガラが金を貸す訳がない。
どう考えても、リスクの方が大きくて、見返りが少ない行為を、商売上やるとは思えないからだ。
となると、商売以外のこと……なにかガラの私事に関係することなのかもしれない。
単に金をもらって用心棒をしているという間柄、つまりガラと影人は、雇用関係があるだけに過ぎない。
だから、ガラが何をしようと影人にはまるで関係ない。
しかし、それでも……嘘をつかれるのはどうも気に食わない。
そういう感情がふつふつと湧き上がっていることに、驚いてしまう。
どうやら自分は思っていた以上に、ガラのことを信用していたようだ。
考えてみれば、ガラは、この世界に来て、いや今までの人生で、初めてAIのサポートなしに、自ら考えて、直接関係を築いた相手だ。
予測できない関係というものは、こういう感情が付随するものなのか。
知識としては知っていたが、経験したのは初めてだった。
ここで、ガラが戻ってくるまで、言われたとおり、待っているべきか……。
だが、好奇心と苛立ちを抑えることはできそうになかった。
影人の足は、ガラが先ほど入っていた扉へと向かう。
家の中は、外観に比べれば、いくらかマシな程度には片付いていた。
それでも、人が住んでいる気配はしない。
とうの昔に朽ち果てた木造りの椅子や机が何個か無造作に脇に置かれていて、ほこりを被っている。
端の方に目を向けると、地面に直に置かれている皿があった。
その皿だけは、ほこりをかぶっておらず、人が使用した形跡があった。
どうやら最近住み着いた住民がいるようだ。
部屋を見渡すがガラは見当たらない。
奥の方から何やら話し声が聞こえてきた。
ガラと住民は、奥の部屋にいるようだ。
特に隠れるつもりはなかったので、ギシギシと床を踏み鳴らしながら、声のする方へ歩を進める。
一定の距離まで近づくと、ガラが足音に気付き、こちらの方に顔を向けてくる。
「お、おい!」
ガラが慌てた様子で、こちらに近寄ってくる。
影人は、向かってくるガラを無視して、部屋の奥にいる住民に目を向ける。
若い女だった。
年は20代に見えるが、この世界の文明水準を考えると、もしかしたらもっと若い……10代後半かもしれない。
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