未来に住む一般人が、リアルな異世界に転移したらどうなるか。

kaizi

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第5話 異世界において病気になるとどうなるのか。

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 少女は戸惑いの視線をこちらに投げかけていた。
 すぐに、ガラに、肩を荒々しくつかまれ、部屋の外へと連れ出された。
 
「おい!外にいろと言っただろ!」
 
 影人は、視線を部屋の奥にいる少女へと向けた。

 

 
「あれが客なのか?」
「……ちっ、お前意外と詮索好きだったんだな……」
「街の外の……離れたところまで連れてかれて、こんな家に立ち寄れば誰だって気になるだろ」
「……確かに黙っていたのは悪かった。だが……金はちゃんと払う。門の外まで来た手間賃として、今回はいつもより多めに払うつもりだったんだ。だから、これ以上……詮索するな」
 
 影人は、ガラの予想以上の剣幕に、気圧されてしまっていた。
 正直、ちょっとした興味本位と騙されていた腹いせにちょっと困らせてやろうと覗いてみただけなのだ。
 しかし、どうやら、ガラの態度から察するに、影人が立ち入ろうとしている問題は、かなり深刻な事柄のようだ。
 中途半端な心根で関わってよいものではないらしい。
 出ていこうかと足をちょうど外に向けたところで、少女がガラに話しかけてきた。

「お父さん。その人は……」
「いや……こいつは……」

 少女に声をかけられて、ガラの緊張が解けてしまったようだ。
 ガラは、ふうと息を吐くと、影人の肩にかけていた手を離した。
 そして、じっとこちらの目を見てくる。
 その眼差しは真剣そのものだ。

「まあ……いい。ここまで知られて、下手に隠したままだと、かえって面倒なことになりそうだ」

 ガラは、少女の方を振り返り、一刻間を置いた後、再び影人の方を向き、顎を傾ける。

「おい。こっちで話すぞ。」

 ガラに促されて、入り口の方に移動し、外へと出る。

「お前のことはそれなりには信用している。だから、この家まで連れて来たんだ。だが、こっちの事情まで話す気はなかった。けど、お前は自分から足を突っ込んできた。だから、これから、俺が話すことは当然、黙っててもらう。誰にもいうなよ」

 ガラは苛々しげに、体にまとわりつく小虫を手で追い払い、先ほどより、さらに迫力を増した視線をこちらに向けてきた。
 影人は、軽い気持ちで、この家に立ち入ってしまったことを後悔し始めていた。
 実際、ガラに見咎められた際に、部屋から出ていくつもりだったのだ。
 
 それなのに、どういう訳か、あっという間に後戻りできない状況になっていた。
 ガラの迫力を前に、影人はただ重力の赴くままに首を力なく縦に振ること以外できなかった。

「あ、ああ……わかったよ」
「よし……いいだろう。と言っても、さっきので、だいたいの事情はもうわかってるだろう? あそこにいる子は俺の子で、今は……見てのとおり、病にかかっている。だから、ここで匿っているんだ」

 その後、説明がまだ続くものと思って、影人はただ黙って話に耳を傾けていた。
 が、いくら待ってもガラは話の続きを言わない。
 ただ、じっと探るようにこちらを見てくるだけだ。
 しばらく間が空いた後、沈黙に耐えきれず、影人の方から切り出す。

「……それで他には?」
「……他に話はねえよ。これで全部だ」
「そう……なのか」

 影人はすっかり拍子抜けしていた。
 肩透かしもいいところだ。ガラの態度から、何かよっぽどの事情があるのかと思いきや、単に病気の娘を看病しているだけだったのだから。

 ガラに娘がいたことは初耳だったし、何故街から離れたこんなところに一人で住まわせているのかは不明だが、それ以外は、別に変なこともない。
 要はどうってこともないような話だ。

 ガラが、こんなことを何故かたくなに隠そうとしていたのか、不思議でならない。
 影人の間の抜けた態度に気づいたのか、ガラが怪訝そうな表情を浮かべる。

「おい……お前今の話わかってるのか?」
「え? ああ、しっかり聞いていたよ。病気の娘さんを看病しているんだろう? でも、何だってこんな場所に一人で住まわせてるんだ?」

 ガラは、あっけにとらわれた様子で、目をパチクリさせていた。
 そして、やれやれとこれ見よがしに大げさにかぶりをふって、ため息をついた。

「お前が世間知らずだとは知っていたが……これほどとはな……。本当どこから来たんだか」

 随分と、小馬鹿にしたような言い草だった。
 その態度に苛立ちがつのり、思わず、声が上ずる。

「……何が言いたいんだ? はっきり言ってくれよ」
「言ったとおりだ。いいか? 俺の仕事は何だ? 金貸しだ。そして、その娘が病にかかった。悪いことに、ついこないだも近くの街で流行り病で、かなりの人数が死んだばかりだ。まあ……娘の病気は実際、大したことはない。だが、街の奴らは病にたいして今は大分過剰になっている。そんな時に、俺みたいな金貸しが、病気の娘を連れていると知られてみろ。天罰だのなんだの言われて、街の奴らに吊し上げにあっちまう。下手すりゃ憂さ晴らしに、リンチにあいかねない」

 ガラは今までの鬱憤を発散するかのように、早口で影人にまくしたててきた。
 影人は、ガラの話から、自分なりに必死に頭を働かせて、考えをまとめようとしていた。
 
 どうやら、この街では影人が思っていた以上に、金貸しは嫌われているらしい。
 しかし、それだけの理由で、人々がリンチのようなことまでするものなのか……。

 影人は、いまだに当惑していたが、ガラは、そんなのはお構いなしといった様子で、誰に話すでもなく、言葉を紡いでいた。

「くそ……やっとこの街の生活にも慣れてきたんだ。けっこうな金も払って、正式な居住権も獲得したんだ。それなのに……」
 
 ガラはこのことを、これまで誰にも言うことができずにいたのだろう。
 予期せずとはいえ、影人に話したことがきっかけで、今まで内に抑えてきた恐怖、怒り、そんなごちゃまぜになった様々な感情が、堰を切ったように溢れ出てきて、止まらない様子だった。

 影人は、ガラがここまで感情的になっている様子をはじめて見た。
 冷静で合理的な人間……というのが、これまでのガラの印象だった。

 そういった特徴は、影人がついこないだまで生活していた世界を思い出させるものだった。
 だから、ガラの元で働くことにしたのだ。
 
 だが、今影人の目の前にいるガラは、狼狽し、取り乱している。
 こんなに感情的になっている人間を生で見るのは影人にとっては、数えるほどしかない。
 
 大の大人が、公の場で感情的になり、大声を上げるなど、前の世界では考えられない行為だ。
 ひとしきりに言い終わって、少し落ち着いたのか、ガラは再び影人の正面に顔を向き直した。
 そして、バツが悪そうに、片手を頭でかく。

「……まあなんだ……。このことは絶対人に知られちゃならねえって訳だ。わかったな!」
「あ、ああ……わかっ」

 入り口の扉にひょっこりと浮かぶ小さな顔に気付いて、思わず言葉を止めた。
 先ほど、奥にいた少女だ。
 酷く不安そうな表情でこちらから隠れるようにわずかに顔を覗かせている。
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