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第20話 過去への憧れと新たな仕事
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追求されればされるほど、ボロが出てしまうが、一度話をはじめた以上、どこまでも作り話を続けるしかない。
「故郷は……ここよりはるか東方の海を隔てたさらに先にあります。そこでは古の帝国の失われた秘術や技術を継承していまして——」
自分で話しておきながら、バカバカしくなってしまう。
それほど、荒唐無稽な話だ。
だが、意外にもこれが功を成した。
アニサは、俯きながら、「帝国の? それなら……いえ……でもこんな医術が」とブツブツと言っている。
やはり、この地方の住民の古代帝国への畏敬の念は相当なものがあるようだ。
いや……そもそもこの街の住民は何故か過去の時代を過度に理想化する傾向がある。
いわく昔の世界は、今よりはるかに技術が進んでいて、人々の生活は豊かだったと思っている。
その象徴がはるか昔に滅んだ古代帝国らしいのだ。
そして、帝国が滅び、長い黄昏の時代が到来した……そう思っているようなのだ。
もっとも、現代世界を知っている影人からすればその古代帝国の技術にしても大したものだとは到底思えないのだが……。
アニサは、しばらくして何かを決心したように、こちらの方に向き直る。
「いいわ。とりあえずだけど……その話しを信じることにするわ。あなたが何者であろうとも、あの傷から回復したのは事実なのだから」
「ありがとうございます。あとこのことは……内密にしてもらえると……」
「ええ……黙っておいてあげるわ。どうせこんな話を真面目に上に報告したところで、せいぜい魔術だの何だの言われて、醜聞に利用されるのが関の山だしね。実際に目にしたわたしだって、今でも信じられないのだから。それに……あなたには命を助けてもらったという借りがあるわけだしね」
そうだ。
そもそも、あの襲撃はいったい何だったんだ。
そのせいで、命を落としかけて、感謝されるどころか、助けたその本人から詰問されて、こんな冷や汗をかく羽目になっているのだ。
「こっちの話ばかりで、肝心なことを忘れていましたけど、あの襲ってきた奴らは何だったんです?」
あの二人は、明らかにアニサを狙っていた。
完全にこちらは巻き添えをくらった形だ。
襲われた理由くらい話してもらってもいいだろう。
「おおかた教条主義者たちに雇われた奴らでしょうね。今、この街の教会内部は、今度の司教の選出を巡ってゴタゴタしているから。でも、まさかあんな白昼堂々襲ってくるとは思わなかったけれど。まあ……それだけあいつらも追い詰められているのかもね」
詳しくはわからないが、ようは……教会内部の権力闘争に巻き込まれたというわけか……。
まあ……これだけ大きな組織なら、様々な派閥があって当然だろう。
脅迫状を送ってきた奴らも、もしかしたら、アニサが言う教条主義者たちなのかもしれない。
「それで……と言ってはなんだけれど、一つ仕事を頼まれてくれるかしら? 単純な仕事よ。この内部のゴタゴタがおさまるまで、私の護衛をしてくれないかしら?」
まさか、仕事を依頼されるとは思わなかった。さっきまでは、散々こちらを問い詰めてきたのに、今度は一転して、自分を守ってくれとは随分と都合の良い話しだ。
そんな感情が顔にも現れたのだろう。
アニサは、こちらが乗り気ではないと察したのか、機嫌を取るように、上目遣いで、声のトーンも大分甘えた口調で、話してくる。
「ねえ……もちろん……十分満足する報酬を出すわ。それに、四六時中、一緒にいてくれという訳ではないのよ。修道院にいる時は、さすがに奴らも手が出せないでしょうし。移動する時に、付いていてくれればそれでいいわ」
こうして今更ながら、マジマジとアニサの顔を見ると、やけに美人に見える。
生還できたという興奮が刺激となり、そう思わせているのだろうか。
いや今はそんなことはどうでもいい……。
影人は、額に手を添えて、脱線した思考を、元に戻して、今考えるべき事柄に集中させる。
この仕事を受けるべきか……。
「故郷は……ここよりはるか東方の海を隔てたさらに先にあります。そこでは古の帝国の失われた秘術や技術を継承していまして——」
自分で話しておきながら、バカバカしくなってしまう。
それほど、荒唐無稽な話だ。
だが、意外にもこれが功を成した。
アニサは、俯きながら、「帝国の? それなら……いえ……でもこんな医術が」とブツブツと言っている。
やはり、この地方の住民の古代帝国への畏敬の念は相当なものがあるようだ。
いや……そもそもこの街の住民は何故か過去の時代を過度に理想化する傾向がある。
いわく昔の世界は、今よりはるかに技術が進んでいて、人々の生活は豊かだったと思っている。
その象徴がはるか昔に滅んだ古代帝国らしいのだ。
そして、帝国が滅び、長い黄昏の時代が到来した……そう思っているようなのだ。
もっとも、現代世界を知っている影人からすればその古代帝国の技術にしても大したものだとは到底思えないのだが……。
アニサは、しばらくして何かを決心したように、こちらの方に向き直る。
「いいわ。とりあえずだけど……その話しを信じることにするわ。あなたが何者であろうとも、あの傷から回復したのは事実なのだから」
「ありがとうございます。あとこのことは……内密にしてもらえると……」
「ええ……黙っておいてあげるわ。どうせこんな話を真面目に上に報告したところで、せいぜい魔術だの何だの言われて、醜聞に利用されるのが関の山だしね。実際に目にしたわたしだって、今でも信じられないのだから。それに……あなたには命を助けてもらったという借りがあるわけだしね」
そうだ。
そもそも、あの襲撃はいったい何だったんだ。
そのせいで、命を落としかけて、感謝されるどころか、助けたその本人から詰問されて、こんな冷や汗をかく羽目になっているのだ。
「こっちの話ばかりで、肝心なことを忘れていましたけど、あの襲ってきた奴らは何だったんです?」
あの二人は、明らかにアニサを狙っていた。
完全にこちらは巻き添えをくらった形だ。
襲われた理由くらい話してもらってもいいだろう。
「おおかた教条主義者たちに雇われた奴らでしょうね。今、この街の教会内部は、今度の司教の選出を巡ってゴタゴタしているから。でも、まさかあんな白昼堂々襲ってくるとは思わなかったけれど。まあ……それだけあいつらも追い詰められているのかもね」
詳しくはわからないが、ようは……教会内部の権力闘争に巻き込まれたというわけか……。
まあ……これだけ大きな組織なら、様々な派閥があって当然だろう。
脅迫状を送ってきた奴らも、もしかしたら、アニサが言う教条主義者たちなのかもしれない。
「それで……と言ってはなんだけれど、一つ仕事を頼まれてくれるかしら? 単純な仕事よ。この内部のゴタゴタがおさまるまで、私の護衛をしてくれないかしら?」
まさか、仕事を依頼されるとは思わなかった。さっきまでは、散々こちらを問い詰めてきたのに、今度は一転して、自分を守ってくれとは随分と都合の良い話しだ。
そんな感情が顔にも現れたのだろう。
アニサは、こちらが乗り気ではないと察したのか、機嫌を取るように、上目遣いで、声のトーンも大分甘えた口調で、話してくる。
「ねえ……もちろん……十分満足する報酬を出すわ。それに、四六時中、一緒にいてくれという訳ではないのよ。修道院にいる時は、さすがに奴らも手が出せないでしょうし。移動する時に、付いていてくれればそれでいいわ」
こうして今更ながら、マジマジとアニサの顔を見ると、やけに美人に見える。
生還できたという興奮が刺激となり、そう思わせているのだろうか。
いや今はそんなことはどうでもいい……。
影人は、額に手を添えて、脱線した思考を、元に戻して、今考えるべき事柄に集中させる。
この仕事を受けるべきか……。
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