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第19話 魔法のような科学
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何だ……あの反応は?
ともあれおとなしく部屋に戻っていた方がよさそうだ。
せっかく命を繋ぎ止めたのに、ここでもまたいらぬトラブルに巻き込まれて、危険な目にはあいたくない。
部屋に戻って、中を見渡すと、妙なことに気づく。
あらためて自分が寝ていたベッドを見るとどうも違和感を覚える。
先ほどは気づかなかったが、離れて見ると、どうもベッドには見えない。
ベッドというより、長方形に切り出された石づくりの祭壇のようだ。
何だこれは?
首をかしげていると、部屋の扉が開き、声を掛けられる。
「まさか……生きていたとはね……」
振り返ると、そこにはアニサがいた。
その顔は、影人の回復を喜んでいるといった様子は微塵も感じられない。
というより、警戒心を露わにしたような顔つきだった。
別に抱きしめられて、感謝される……なんてことまでは期待していなかったが、こんな顔をされるとは思っても見なかった。
「……はい。なんとか。この通り、体も大丈夫ですし」
と、一歩前に出ると、アニサはこちらから逃げるように、後ずさりする。
「……あなた何者なの?」
いよいよ様子がおかしい。
「いったいどうしたんですか?」
アニサはなおも冷たい視線をこちらに送ってくる。
「昨日ここにあなたを運び込んだ時、手の施しようがないくらいの傷を負っていた。その時、あなたの心の音は間違いなく止まっていたはず。だから、私たちは、死の洗礼をした。それなのに、今になって急に目覚めるなんて……」
おそらく心臓の音がほとんど聞こえなかったのは、仮死状態に陥っていたからだろう。
ナノ医療システムが自動的に体内の覚醒を最低限度にとどめて、影人を一種の冬眠状態——仮死状態——にさせたのだろう。
そうした処置は重傷を負った時によく行われることであった。
つまるところ医療システムのおかげで、助かったとはいえ影人はそれほどの重傷を負ったのだ。
あらためて、影人は背筋が冷たくなってしまった。
影人が黙って考え込んでいると、アニサがさらに怪訝な視線を送ってくる。
まずは……この状態をなんとかしないとな。
しかし、なんと説明すればよいのか……
この世界の住民に真実——体内のナノ医療システム——を説明しても、魔術師の類と思われるだけだ。
「その……なんとか回復することができただけですよ。これもあの……か、神の御慈悲のおかげです」
とってつけたような言い訳を並べて、なんとかごまかそうとする。
が、アニサは、こちらの言葉はまるで耳に入っていないのか、
ただじっと一点を見つめている。
そして、ふと何かに気づいたかのように、こちらに急接近してきて、着ている肌着を脱がそうとしてくる。
「ちょ、ちょっと……。どうしたんですか?」
服がたくし上げられて、肌が露出すると、アニサは、戸惑いと驚きが入り混じったような表情を浮かべる。
「……昨日はたしかに刺し傷が何箇所もあったはず。あんなに深い傷が一日で消えるなんて……ありえないわ」
アニサは両腕を組み、威嚇するようにこちらに向き直る。
そして、こちらをじっと見据えてくる。
「……もう一度聞くわ? あなた何者なの? あんな致命傷をどうやって治したの?」
「……ただの放浪者ですよ。傷は……偶然……そう神の奇跡で——」
「いい加減にごまかすのはやめなさい。何か理解できないことが起きたら、全て神のせいにするほどわたしは愚かな人間ではないわ。それに……そんなことを頭の硬い上の連中に話したら、あなた……神の奇跡どころか魔術を使ったと思われて火炙りにされるわよ」
火炙りになるのは、ごめんだ。
だが、この状況をどう説明すればよいのか。
そもそも、傷が治った仕組みや理論なんてのは、こっち本当の意味では理解していない。
認識していることと言えば、体内に無数に存在するナノサイズの機械が自動的に傷を修復してくれたという曖昧なものだ。
もっとも、刺されたことなんて今の今までなかったから、これほどの傷まで治してくれるほどの性能があったとは知らなかったのだが……。
最先端の研究をしている科学者だって、一つ一つの細かな機械について、どういう仕組みで動いているか説明しろと言われてもお手上げだろう。
当然、影人のような一般人がそんなものを理解して、説明できるはずがない。
既に大多数の人間にとって、身の回りを取り巻く科学技術の中身は、ブラックボックスで、魔法とたいして変わらない存在になっているのだから。
「その……ちょっと事情がありまして。実は、故郷で体にちょっとした医術を施してもらったので。えっと……だから……たいていの傷なら治るんですよ」
嘘はいっていない。
ただ、ちょっと、いやかなり話しを省略しているだけだ。
他になんて説明すればいい……。
とはいえ、そんなシドロモドロの説明でアニサを納得させることができるはずもなく、眉根を寄せて、こちらを睨んでくる。
「医術ですって? 魔術の間違いじゃないの? そんな医術、聞いたことがないわ。教会圏の国々でも、いえ異教徒の国でも、そんな話しは噂ですら聞いたことがないわ。そもそもあなたの故郷はいったいどこなの?」
ともあれおとなしく部屋に戻っていた方がよさそうだ。
せっかく命を繋ぎ止めたのに、ここでもまたいらぬトラブルに巻き込まれて、危険な目にはあいたくない。
部屋に戻って、中を見渡すと、妙なことに気づく。
あらためて自分が寝ていたベッドを見るとどうも違和感を覚える。
先ほどは気づかなかったが、離れて見ると、どうもベッドには見えない。
ベッドというより、長方形に切り出された石づくりの祭壇のようだ。
何だこれは?
首をかしげていると、部屋の扉が開き、声を掛けられる。
「まさか……生きていたとはね……」
振り返ると、そこにはアニサがいた。
その顔は、影人の回復を喜んでいるといった様子は微塵も感じられない。
というより、警戒心を露わにしたような顔つきだった。
別に抱きしめられて、感謝される……なんてことまでは期待していなかったが、こんな顔をされるとは思っても見なかった。
「……はい。なんとか。この通り、体も大丈夫ですし」
と、一歩前に出ると、アニサはこちらから逃げるように、後ずさりする。
「……あなた何者なの?」
いよいよ様子がおかしい。
「いったいどうしたんですか?」
アニサはなおも冷たい視線をこちらに送ってくる。
「昨日ここにあなたを運び込んだ時、手の施しようがないくらいの傷を負っていた。その時、あなたの心の音は間違いなく止まっていたはず。だから、私たちは、死の洗礼をした。それなのに、今になって急に目覚めるなんて……」
おそらく心臓の音がほとんど聞こえなかったのは、仮死状態に陥っていたからだろう。
ナノ医療システムが自動的に体内の覚醒を最低限度にとどめて、影人を一種の冬眠状態——仮死状態——にさせたのだろう。
そうした処置は重傷を負った時によく行われることであった。
つまるところ医療システムのおかげで、助かったとはいえ影人はそれほどの重傷を負ったのだ。
あらためて、影人は背筋が冷たくなってしまった。
影人が黙って考え込んでいると、アニサがさらに怪訝な視線を送ってくる。
まずは……この状態をなんとかしないとな。
しかし、なんと説明すればよいのか……
この世界の住民に真実——体内のナノ医療システム——を説明しても、魔術師の類と思われるだけだ。
「その……なんとか回復することができただけですよ。これもあの……か、神の御慈悲のおかげです」
とってつけたような言い訳を並べて、なんとかごまかそうとする。
が、アニサは、こちらの言葉はまるで耳に入っていないのか、
ただじっと一点を見つめている。
そして、ふと何かに気づいたかのように、こちらに急接近してきて、着ている肌着を脱がそうとしてくる。
「ちょ、ちょっと……。どうしたんですか?」
服がたくし上げられて、肌が露出すると、アニサは、戸惑いと驚きが入り混じったような表情を浮かべる。
「……昨日はたしかに刺し傷が何箇所もあったはず。あんなに深い傷が一日で消えるなんて……ありえないわ」
アニサは両腕を組み、威嚇するようにこちらに向き直る。
そして、こちらをじっと見据えてくる。
「……もう一度聞くわ? あなた何者なの? あんな致命傷をどうやって治したの?」
「……ただの放浪者ですよ。傷は……偶然……そう神の奇跡で——」
「いい加減にごまかすのはやめなさい。何か理解できないことが起きたら、全て神のせいにするほどわたしは愚かな人間ではないわ。それに……そんなことを頭の硬い上の連中に話したら、あなた……神の奇跡どころか魔術を使ったと思われて火炙りにされるわよ」
火炙りになるのは、ごめんだ。
だが、この状況をどう説明すればよいのか。
そもそも、傷が治った仕組みや理論なんてのは、こっち本当の意味では理解していない。
認識していることと言えば、体内に無数に存在するナノサイズの機械が自動的に傷を修復してくれたという曖昧なものだ。
もっとも、刺されたことなんて今の今までなかったから、これほどの傷まで治してくれるほどの性能があったとは知らなかったのだが……。
最先端の研究をしている科学者だって、一つ一つの細かな機械について、どういう仕組みで動いているか説明しろと言われてもお手上げだろう。
当然、影人のような一般人がそんなものを理解して、説明できるはずがない。
既に大多数の人間にとって、身の回りを取り巻く科学技術の中身は、ブラックボックスで、魔法とたいして変わらない存在になっているのだから。
「その……ちょっと事情がありまして。実は、故郷で体にちょっとした医術を施してもらったので。えっと……だから……たいていの傷なら治るんですよ」
嘘はいっていない。
ただ、ちょっと、いやかなり話しを省略しているだけだ。
他になんて説明すればいい……。
とはいえ、そんなシドロモドロの説明でアニサを納得させることができるはずもなく、眉根を寄せて、こちらを睨んでくる。
「医術ですって? 魔術の間違いじゃないの? そんな医術、聞いたことがないわ。教会圏の国々でも、いえ異教徒の国でも、そんな話しは噂ですら聞いたことがないわ。そもそもあなたの故郷はいったいどこなの?」
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