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プロローグ
美月サイド-04-
「いいのよ……美月……そんな慰めはいらないわ……そんなことより……あなたは——」
「わたしは大丈夫です! あのモンスターも冒険者の人が退治してくれたから……だから、花蓮さんも——」
「……あのモンスターを……世界にはすごい人たちが……いるのね……でもよかったわ……美月が無事なら——」
花蓮はそう安堵の表情を浮かべる。
が、すぐに花蓮の状態は急変し、突然ゴホゴホと咳込み、血を吐き出す。
「花蓮さん!」
「……美月が無事なだけでわたしは満足よ……」
花蓮はそうどこか諦念したような表情を浮かべる。
「ダメ! 花蓮さん。そんな——」
美月が大粒を涙を流して叫んでいると、
「ちょっと……失礼するよ」
突然、例の初心者の男が後ろからヌッとやってきて、倒れている花蓮の前に座り込む。
美月は突然のことに反応ができなかった。
「あの……何を……」
美月は未だに半信半疑なところもあるが、今ではこの男の実力を徐々にではあるが信じはじめている。
だがそれは戦士としての実力である。
この男がどんなに優れているとしても、それは戦士の技能なのだ。
つまるところこの男が今の花蓮に出来ることは何もない。
優れた戦士であり、同時に優れたヒーラーであるというようないいとこ取りはできない。
それが25年間の歳月の中、徐々にわかってきたダンジョン由来の異能——スキル——の経験則である。
美月は、深刻な事態にもかかわらず無遠慮に二人の間に割って入ってきた男に思わず不審な目を向ける。
が……男は美月の怪訝な視線に気づいていないのか、彼女を無視して、花蓮の体に手を当てて、
「えっと……花蓮さん……。そのごめんちょっとだけ我慢して」
そう言うと、突如として花蓮の身体が目をくらむようなまばゆい光を放ちだす。
美月は光の強さはまるで違うもののそうした光に見覚えがあった。
これは花蓮のようなヒーラーが使う——
「こ、これは回復魔法! ど、どうしてあなたが!?」
光が収束し、美月が再び花蓮の肉体を視界に捉えた時、驚くべき光景が広がっていた。
折れ曲がっていた足はもとに戻り、花蓮の肌を深くえぐっていた無数の裂傷が消えていた。
「……あなた……いったい……」
美月はただ呆然とするよりなかった。
それはとうの花蓮も同じらしく、その瞳を見開いて驚愕の表情を浮かべている。
いつも冷静な花蓮のこんな顔を見るのはかれこれ十数年来の付き合いになる美月にしてもはじめてのことであった。
それだけ花蓮にしても……いやヒーラー——魔法使い——である花蓮だからこそなおさら衝撃が大きかったのだろう。
ゲームの魔法のような回復魔法は存在しない。
それがダンジョンが出現して、初めて回復魔法が発見されて以来の常識だ。
だが、美月の前にはそうした嘘みたいな回復魔法が顕現している。
それも初心者のF級冒険者……戦士であるはずの男が使っているのだ。
やがて、花蓮がゆっくりと上体を起こしながら、自分の身体をまじまじと見つめている。
花蓮の顔色は目に見えて良くなり、むしろ普段よりもその肌色も艷やかに見えるくらいだ。
先程まで虫の息だったなどとは実際に眼前で見ていた美月ですら信じられないような変わりようである。
「その……すまない。この魔法……というか俺の回復魔法にはちょっと欠点があって……女性にはあまり使いたくなかったんだけど……」
と、男は突然バツが悪そうな声を出して、何故か顔を背けている。
未だに唖然としている美月は男の言っている意味がわからなかった。
「いや……その着ている衣服が消えるというか……」
そこまで言われて美月はようやく男が言わんとしていることに気づいた。
傷ひとつない艶が良い、真っ白い花蓮の肌が目に入る。
そして、それを隠すものが何もなく——
「キャッ!」
花蓮が顔を真っ赤にして、短い悲鳴を上げて、両手で身体を慌てて隠す。
花蓮はまるで無垢な乙女のように恥じらいの表情を見せている。
「ち、ちょっと……う、後ろを向いてください!」
美月は慌てて男の前に立つ。
「い、いや本当にすまない。こればっかりは未だに制御できないんだ」
男は背を向けながら、申し訳なさそうにそう言いながら、美月と花蓮から離れる。
花蓮は美月と二人になると、男の方をチラチラと見ながら、確認するように言う。
「美月……あの方は……たしか先程の初心者の方……ですよね」
「えっと……そのはずなんですけど……そのなんて説明したらいいのか……あの人がモンスターを一人で撃退してくれて……」
「あ、あの方が!? 一人であんな凶悪なモンスターを……。でも今魔法も……」
「そ、そうなんですよ! わたしももう意味がわからないというか……」
美月は思わずそう本音が口をついていた。
男の行動一つ一つが美月のいや……冒険者の常識をことごとく破壊していくから、美月はずっと誰かにこのありえないことを話したかったのだ。
花蓮に話して自分が見ていたことが幻覚や妄想の類いではないと安心したかった。
花蓮は、しばらく神妙な面持ちで無言のまま下をむいている。
どうやら何やら考えているようだ。
やがて、花蓮が、お淑やかながらも凛々しい口調で言う。
「美月。あの方をこちらに連れてきてください」
「わたしは大丈夫です! あのモンスターも冒険者の人が退治してくれたから……だから、花蓮さんも——」
「……あのモンスターを……世界にはすごい人たちが……いるのね……でもよかったわ……美月が無事なら——」
花蓮はそう安堵の表情を浮かべる。
が、すぐに花蓮の状態は急変し、突然ゴホゴホと咳込み、血を吐き出す。
「花蓮さん!」
「……美月が無事なだけでわたしは満足よ……」
花蓮はそうどこか諦念したような表情を浮かべる。
「ダメ! 花蓮さん。そんな——」
美月が大粒を涙を流して叫んでいると、
「ちょっと……失礼するよ」
突然、例の初心者の男が後ろからヌッとやってきて、倒れている花蓮の前に座り込む。
美月は突然のことに反応ができなかった。
「あの……何を……」
美月は未だに半信半疑なところもあるが、今ではこの男の実力を徐々にではあるが信じはじめている。
だがそれは戦士としての実力である。
この男がどんなに優れているとしても、それは戦士の技能なのだ。
つまるところこの男が今の花蓮に出来ることは何もない。
優れた戦士であり、同時に優れたヒーラーであるというようないいとこ取りはできない。
それが25年間の歳月の中、徐々にわかってきたダンジョン由来の異能——スキル——の経験則である。
美月は、深刻な事態にもかかわらず無遠慮に二人の間に割って入ってきた男に思わず不審な目を向ける。
が……男は美月の怪訝な視線に気づいていないのか、彼女を無視して、花蓮の体に手を当てて、
「えっと……花蓮さん……。そのごめんちょっとだけ我慢して」
そう言うと、突如として花蓮の身体が目をくらむようなまばゆい光を放ちだす。
美月は光の強さはまるで違うもののそうした光に見覚えがあった。
これは花蓮のようなヒーラーが使う——
「こ、これは回復魔法! ど、どうしてあなたが!?」
光が収束し、美月が再び花蓮の肉体を視界に捉えた時、驚くべき光景が広がっていた。
折れ曲がっていた足はもとに戻り、花蓮の肌を深くえぐっていた無数の裂傷が消えていた。
「……あなた……いったい……」
美月はただ呆然とするよりなかった。
それはとうの花蓮も同じらしく、その瞳を見開いて驚愕の表情を浮かべている。
いつも冷静な花蓮のこんな顔を見るのはかれこれ十数年来の付き合いになる美月にしてもはじめてのことであった。
それだけ花蓮にしても……いやヒーラー——魔法使い——である花蓮だからこそなおさら衝撃が大きかったのだろう。
ゲームの魔法のような回復魔法は存在しない。
それがダンジョンが出現して、初めて回復魔法が発見されて以来の常識だ。
だが、美月の前にはそうした嘘みたいな回復魔法が顕現している。
それも初心者のF級冒険者……戦士であるはずの男が使っているのだ。
やがて、花蓮がゆっくりと上体を起こしながら、自分の身体をまじまじと見つめている。
花蓮の顔色は目に見えて良くなり、むしろ普段よりもその肌色も艷やかに見えるくらいだ。
先程まで虫の息だったなどとは実際に眼前で見ていた美月ですら信じられないような変わりようである。
「その……すまない。この魔法……というか俺の回復魔法にはちょっと欠点があって……女性にはあまり使いたくなかったんだけど……」
と、男は突然バツが悪そうな声を出して、何故か顔を背けている。
未だに唖然としている美月は男の言っている意味がわからなかった。
「いや……その着ている衣服が消えるというか……」
そこまで言われて美月はようやく男が言わんとしていることに気づいた。
傷ひとつない艶が良い、真っ白い花蓮の肌が目に入る。
そして、それを隠すものが何もなく——
「キャッ!」
花蓮が顔を真っ赤にして、短い悲鳴を上げて、両手で身体を慌てて隠す。
花蓮はまるで無垢な乙女のように恥じらいの表情を見せている。
「ち、ちょっと……う、後ろを向いてください!」
美月は慌てて男の前に立つ。
「い、いや本当にすまない。こればっかりは未だに制御できないんだ」
男は背を向けながら、申し訳なさそうにそう言いながら、美月と花蓮から離れる。
花蓮は美月と二人になると、男の方をチラチラと見ながら、確認するように言う。
「美月……あの方は……たしか先程の初心者の方……ですよね」
「えっと……そのはずなんですけど……そのなんて説明したらいいのか……あの人がモンスターを一人で撃退してくれて……」
「あ、あの方が!? 一人であんな凶悪なモンスターを……。でも今魔法も……」
「そ、そうなんですよ! わたしももう意味がわからないというか……」
美月は思わずそう本音が口をついていた。
男の行動一つ一つが美月のいや……冒険者の常識をことごとく破壊していくから、美月はずっと誰かにこのありえないことを話したかったのだ。
花蓮に話して自分が見ていたことが幻覚や妄想の類いではないと安心したかった。
花蓮は、しばらく神妙な面持ちで無言のまま下をむいている。
どうやら何やら考えているようだ。
やがて、花蓮が、お淑やかながらも凛々しい口調で言う。
「美月。あの方をこちらに連れてきてください」
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