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プロローグ
米国国土安全保障省サイド-02-
ロバートは呆れたようにそう言うが、実のところそこまで怒ってはいない。
彼——マスイが遅れるのは想定の範囲内であった。
しかし、マスイ以外の他のメンバーはいかにダンジョン世代とはいえ、時間にここまでルーズなものはいないはずだが……。
というかロバート以外の全員が完全に遅刻している。
しかも……一番早くきたのがあのマスイとはな……。
はあ……何か妙な……とてつもない面倒事が起こる予感がする……。
冷静なロバートの胸にふと浮かんだ不吉な予感……いや勘と言ってもよいのかもしれない。
「局長!! 大変ですよ!!」
ロバートが物思いに耽る間もなく、局長室の扉がノックもなく勢いよく開けられる。
彼の部下……マスイであった。
ボサボサ頭にヨレヨレのシャツ、分厚い度のついたメガネ……。
とても米国の安全保障に携わるエリート局員とは思えない外見である。
ロバートは、身なりを整えるということを軍人時代から徹底的に叩き込まれた。
マスイはそんなロバートとは対極にいる男である。
しかし、ロバートはマスイに対して、だらしのない身なりのことはおろか、遅刻のことも何も言わない。
半ば諦めているということもあるが、ロバートがマスイに求めている能力とはそうしたものではないからだ。
現実主義者のロバートはただ唯一、ダンジョン対策局の局員としての能力をマスイにも他の部下にも求めている。
そして、その意味ではこのだらしのない男はすこぶる優秀なのであった。
「マスイ。まずはノックくらいしたらどうだ? その服装からして急いできたのは十分にわかるがね……」
とはいえ、深夜に叩き起こされて随分と待たされたロバートとしては、嫌味の一つもいいたくなる。
しかし、マスイはそんなロバートの言葉を意に介さない……というよりこの男にはそういう機微に疎いから嫌味にすら気づいてもいないだろう。
「それどころじゃないですよ! 局長! 昨日の日本のS級冒険者パーティー『ダンジョンの支配者たち』の配信を見ましたか!?」
「いや……見ていないが……」
「何やってるんですか! すぐに見てください!」
マスイはぶっきらぼうにそう言うと、自身のスマートフォンをロバートに突きつける。
仮にも米国の政府高官ともあろう者が、ダンジョン配信を見ていないことを理由に部下から詰問される……。
いや……だがこれがダンジョン出現以降の世界なのだな……。
ロバートは色々な思いをつめこんだ深いため息をつきながらも、マスイが指し示す動画を見る。
そう彼は……生粋の現実主義者なのだ……。
そして、その動画を見はじめて一分もしないうちにロバートはマスイの態度のことなどもはや忘却の彼方に飛んでいってしまった。
動画を最後まで見た時、ロバートは背筋が冷たくなるのを感じた。
言葉——日本語——はまったくわからないが、それでも映像だけで十分すぎるほど、その異常さをロバートは感じた。
それでも、ロバートは表面上はまったく動じていない素振りを見せながら、マスイに質問する。
「確かにこれが本当ならとんでもないことになるな……そう本当ならばな……裏は取れてるのか?」
ロバートはそう言いながら実のところこの動画は本物だとほぼ確信していた。
というのも、今ロバートはダンジョンという存在を初めて認識した時以来、実に25年ぶりのあの奇妙な感覚に襲われているからだ。
そう……なにかとてつもないことが起こっているという……あの感覚に……。
それにダンジョンに関しては異常な情熱を持つこの男——マスイ——が、そんなフェイク動画に引っかかる訳がないという思いもあった。
「あたりまえですよ! この動画に合成や不審な手が加えられた形跡は一切ありません。正真正銘の本物ですよ。僕が徹夜で確認したんだから間違いありません」
「……フェイクだったらよかったのだが……いや……まあいい。それでこの男はいったい何者なのだ?」
「それがさっぱりわかりません。まったく情報がない。少なくとも言えるのは著名な冒険者ではないということしか……」
「これほどの異能を持つ冒険者が今まで一切表に出てこなかったというのか。どこかの……いやこのダンジョンの所在は日本か……それなら日本の軍関係者ではないのか?」
「ご先祖様を悪くはいいたくはないですがね……あの平和ボケの国でそれは考えにくいですよ。なにせ未だに公式には軍を持たず、ダンジョンにも軍関係者が介入するのを公式に禁止しているくらいです」
マスイは大げさに両手を広げて苦笑いを浮かべる。
その態度は彼の外見とは裏腹に非常にアメリカ人らしい振る舞いであった。
「公式……にはな。しかし、ダンジョン出現以来、どの国も公式、非公式を問わず自国の軍関係者をダンジョン攻略に投入するのは今や暗黙の了解だ。日本においても例外ではないのではないかね?」
「だとしても……かの国が我々ステイツにまでその情報を隠すことができますかね。ご存知のとおり、日本にはあらゆるところに我々の関係者が根を張っています。それはダンジョン関係者も例外ではない」
「ふむ……結局のところ、この男の正体は不明……アンノウンなままか」
ロバートはそうつぶやくと一人立ち上がり、窓から並木通りを見る。
と、扉をノックする音が聞こえる。
彼——マスイが遅れるのは想定の範囲内であった。
しかし、マスイ以外の他のメンバーはいかにダンジョン世代とはいえ、時間にここまでルーズなものはいないはずだが……。
というかロバート以外の全員が完全に遅刻している。
しかも……一番早くきたのがあのマスイとはな……。
はあ……何か妙な……とてつもない面倒事が起こる予感がする……。
冷静なロバートの胸にふと浮かんだ不吉な予感……いや勘と言ってもよいのかもしれない。
「局長!! 大変ですよ!!」
ロバートが物思いに耽る間もなく、局長室の扉がノックもなく勢いよく開けられる。
彼の部下……マスイであった。
ボサボサ頭にヨレヨレのシャツ、分厚い度のついたメガネ……。
とても米国の安全保障に携わるエリート局員とは思えない外見である。
ロバートは、身なりを整えるということを軍人時代から徹底的に叩き込まれた。
マスイはそんなロバートとは対極にいる男である。
しかし、ロバートはマスイに対して、だらしのない身なりのことはおろか、遅刻のことも何も言わない。
半ば諦めているということもあるが、ロバートがマスイに求めている能力とはそうしたものではないからだ。
現実主義者のロバートはただ唯一、ダンジョン対策局の局員としての能力をマスイにも他の部下にも求めている。
そして、その意味ではこのだらしのない男はすこぶる優秀なのであった。
「マスイ。まずはノックくらいしたらどうだ? その服装からして急いできたのは十分にわかるがね……」
とはいえ、深夜に叩き起こされて随分と待たされたロバートとしては、嫌味の一つもいいたくなる。
しかし、マスイはそんなロバートの言葉を意に介さない……というよりこの男にはそういう機微に疎いから嫌味にすら気づいてもいないだろう。
「それどころじゃないですよ! 局長! 昨日の日本のS級冒険者パーティー『ダンジョンの支配者たち』の配信を見ましたか!?」
「いや……見ていないが……」
「何やってるんですか! すぐに見てください!」
マスイはぶっきらぼうにそう言うと、自身のスマートフォンをロバートに突きつける。
仮にも米国の政府高官ともあろう者が、ダンジョン配信を見ていないことを理由に部下から詰問される……。
いや……だがこれがダンジョン出現以降の世界なのだな……。
ロバートは色々な思いをつめこんだ深いため息をつきながらも、マスイが指し示す動画を見る。
そう彼は……生粋の現実主義者なのだ……。
そして、その動画を見はじめて一分もしないうちにロバートはマスイの態度のことなどもはや忘却の彼方に飛んでいってしまった。
動画を最後まで見た時、ロバートは背筋が冷たくなるのを感じた。
言葉——日本語——はまったくわからないが、それでも映像だけで十分すぎるほど、その異常さをロバートは感じた。
それでも、ロバートは表面上はまったく動じていない素振りを見せながら、マスイに質問する。
「確かにこれが本当ならとんでもないことになるな……そう本当ならばな……裏は取れてるのか?」
ロバートはそう言いながら実のところこの動画は本物だとほぼ確信していた。
というのも、今ロバートはダンジョンという存在を初めて認識した時以来、実に25年ぶりのあの奇妙な感覚に襲われているからだ。
そう……なにかとてつもないことが起こっているという……あの感覚に……。
それにダンジョンに関しては異常な情熱を持つこの男——マスイ——が、そんなフェイク動画に引っかかる訳がないという思いもあった。
「あたりまえですよ! この動画に合成や不審な手が加えられた形跡は一切ありません。正真正銘の本物ですよ。僕が徹夜で確認したんだから間違いありません」
「……フェイクだったらよかったのだが……いや……まあいい。それでこの男はいったい何者なのだ?」
「それがさっぱりわかりません。まったく情報がない。少なくとも言えるのは著名な冒険者ではないということしか……」
「これほどの異能を持つ冒険者が今まで一切表に出てこなかったというのか。どこかの……いやこのダンジョンの所在は日本か……それなら日本の軍関係者ではないのか?」
「ご先祖様を悪くはいいたくはないですがね……あの平和ボケの国でそれは考えにくいですよ。なにせ未だに公式には軍を持たず、ダンジョンにも軍関係者が介入するのを公式に禁止しているくらいです」
マスイは大げさに両手を広げて苦笑いを浮かべる。
その態度は彼の外見とは裏腹に非常にアメリカ人らしい振る舞いであった。
「公式……にはな。しかし、ダンジョン出現以来、どの国も公式、非公式を問わず自国の軍関係者をダンジョン攻略に投入するのは今や暗黙の了解だ。日本においても例外ではないのではないかね?」
「だとしても……かの国が我々ステイツにまでその情報を隠すことができますかね。ご存知のとおり、日本にはあらゆるところに我々の関係者が根を張っています。それはダンジョン関係者も例外ではない」
「ふむ……結局のところ、この男の正体は不明……アンノウンなままか」
ロバートはそうつぶやくと一人立ち上がり、窓から並木通りを見る。
と、扉をノックする音が聞こえる。
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