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第一章
鈴羽サイド-01-
「ふ……フフフ……。まさかそんな提案をしてくるとは想定外でした。いいでしょう。あなたがもし私に勝つことができたのなら、あなたが花蓮様の側にいることを認めてあげましょう。まあ……ありえないことですが……」
「い、いや……勝ち負けではなくただ立ち会いを——」
「繕いの言葉は結構です。やるのかやらないのかはっきりしてください」
「えっと……か、花蓮さんはこのことは——」
「ああ……花蓮様にはしっかりと説明をしておきますのでご心配にはお呼びません。体調不良であなたは帰られました……とね。それに花蓮様は後1時間は協会との話し合いで戻っては来ない予定です」
鈴羽さんは、俺の言う事など最早聞く耳持たないと言った様子である。
意外とこの人冷静に見えて、熱くなると周りが見えなくなるタイプかもしれないな……。
「ふう……わかりました」
「どうやら諦めは良いようですね。安心してください。治療費はわたしの方が持ちます。ただ……純粋な花蓮様の無垢な心をもてあそんだ報いはそれ相応に受けてもらいますが……」
鈴羽さんは表情一つ変えずにそんな物騒なことを言い出す。
そして、その後に嬉しそうにその端正な顔を微笑ませながら言う。
「フフフ……正直に言ってあなたの方から闘うことを提案してくれたのは有り難いです。おかげで……思う存分あなたに報いを与えることができるわ」
鈴羽さんの顔は今や先程までの冷静な表情から一変させて、その目と表情には明らかな怒りが宿っていた。
「美しく純粋で完璧な花蓮様の肌に触れていいのは、長年仕えているわたしだけで良いのです。それをあなたのようなどこの馬の骨かわからぬ者が……」
鈴羽さんはそう言うと、敵意から今度は殺意までに格上げした視線を俺に送ってくる。
この人……熱いというより、ちょっとヤバい人かもな……。
まあ……ここまで忠誠心を持ってもらえる花蓮さんはある意味凄いと言えるが……。
「さあ……それではさっさとはじめましょうか。花蓮様が戻る前に、後片付けもしないといけませんし」
はあ……女性とはなるべく闘いたくないが……そうも言ってはいられないか。
それに……正直なところ俺も興味がある。
こちらの世界に戻ってから対人戦は一度もしたことがない。
鈴羽さんのような腕の立つダンジョン冒険者の力はどれほどのものなのか……。
そして、俺はこの世界でどれほどの立ち位置にいるのか……。
そういう物差しとして、やはり実戦……それもある程度の腕前の持ち主との……をするのが一番わかりやすい。
俺は不謹慎ながらも少しだけワクワクしながら、スーツ姿の男装の麗人を見据えて、久しぶりの対人戦に備えて準備をする。
◆◆◆◆鈴羽サイド——昨日の夕方……
鈴羽が、これほどまでに後悔したことは25年間の人生で一度もなかった。
なぜ自分は花蓮様のお側にいないのか……。
鈴羽は、動画で花蓮の悲鳴を聞いた瞬間、屋敷を飛び出し、猛スピードでバイクを飛ばし、ヘリポートへと急いでいた。
今更ダンジョンまで行って、さらにそこから最下層まで向かっても、花蓮の救出には間に合わないことは十分わかっていた。
それでも何もしないでただ動画を見ているなんてことは到底できなかった。
夕暮れ時の首都高速は渋滞していたが、鈴羽はかまわず車の隙間を神業的な操作で抜けていき、ほとんど減速することなく進んでいく。
そんな非常に集中を要する状況にもかかわらず、鈴羽は花蓮のことを考えていた。
いや正確に言うと、花蓮の現状を考えると、どうにも冷静ではいられなくなってしまうから、鈴羽は、あえて最早変えることができない過去へ意識を向けていた。
花蓮が所属する「ダンジョンの支配者たち」が、前人未到の最下層への挑戦を行うと決めた時、鈴羽は当然のことながら内心では猛烈に反対していた。
国内で並ぶものがいない名家である西条家の当主である花蓮自らなぜそのような危険なことをするのか。
鈴羽でなくとも誰でも反対するのに決まっている。
だが、花蓮の性格は20数年間近くにいる鈴羽はよくわかっていた。
一度決めたことは最後までやり通すし、どんな人間の反対もものともしない芯の強い女性である。
それは、花蓮の魅力の一つであり、現に鈴羽もそんな主人だからこそここまで忠誠を尽くすことができるのだが……。
それが結果として今回のような事態を招いてしまった。
わたしはもっと強硬に反対の意思を花蓮様に伝えるべきだった……。
たとえそれでわたしが花蓮様から嫌われようとも……花蓮様がご無事であればそれだけで十分なのに……。
そもそも花蓮が、「ダンジョンの支配者たち」に加わることを認めるべきではなかったのだ。
美月は信頼できるにしても、あの男——「雷鳴の狂戦士」こと加賀美龍太——が信用に値する人間ではないことは十分にわかっていたはずなのに……。
花蓮は鈴羽と二人きりパーティを組んで、長年冒険者としての活動を行ってきた。
しかし、花蓮が実績を積み、冒険者としての活動に注力するようになるにつれて、ある問題が発生する。
それは、西条家の運営と冒険者との両立である。
花蓮は西条家の当主として、様々な決定や活動をしなければならない立場にある。
それは社交的な付き合いから西条家の傘下にある無数の企業の意思決定まで幅広くある。
花蓮とさらに実務を統括する立場にある鈴羽の二人がダンジョンにいて、長時間不在となるのはその運営に大きな支障をきたすことになってしまう。
そのため、花蓮と鈴羽は話し合いの結果、鈴羽は、冒険者活動を休業し、西条家の運営に専念することになったのだ。
「い、いや……勝ち負けではなくただ立ち会いを——」
「繕いの言葉は結構です。やるのかやらないのかはっきりしてください」
「えっと……か、花蓮さんはこのことは——」
「ああ……花蓮様にはしっかりと説明をしておきますのでご心配にはお呼びません。体調不良であなたは帰られました……とね。それに花蓮様は後1時間は協会との話し合いで戻っては来ない予定です」
鈴羽さんは、俺の言う事など最早聞く耳持たないと言った様子である。
意外とこの人冷静に見えて、熱くなると周りが見えなくなるタイプかもしれないな……。
「ふう……わかりました」
「どうやら諦めは良いようですね。安心してください。治療費はわたしの方が持ちます。ただ……純粋な花蓮様の無垢な心をもてあそんだ報いはそれ相応に受けてもらいますが……」
鈴羽さんは表情一つ変えずにそんな物騒なことを言い出す。
そして、その後に嬉しそうにその端正な顔を微笑ませながら言う。
「フフフ……正直に言ってあなたの方から闘うことを提案してくれたのは有り難いです。おかげで……思う存分あなたに報いを与えることができるわ」
鈴羽さんの顔は今や先程までの冷静な表情から一変させて、その目と表情には明らかな怒りが宿っていた。
「美しく純粋で完璧な花蓮様の肌に触れていいのは、長年仕えているわたしだけで良いのです。それをあなたのようなどこの馬の骨かわからぬ者が……」
鈴羽さんはそう言うと、敵意から今度は殺意までに格上げした視線を俺に送ってくる。
この人……熱いというより、ちょっとヤバい人かもな……。
まあ……ここまで忠誠心を持ってもらえる花蓮さんはある意味凄いと言えるが……。
「さあ……それではさっさとはじめましょうか。花蓮様が戻る前に、後片付けもしないといけませんし」
はあ……女性とはなるべく闘いたくないが……そうも言ってはいられないか。
それに……正直なところ俺も興味がある。
こちらの世界に戻ってから対人戦は一度もしたことがない。
鈴羽さんのような腕の立つダンジョン冒険者の力はどれほどのものなのか……。
そして、俺はこの世界でどれほどの立ち位置にいるのか……。
そういう物差しとして、やはり実戦……それもある程度の腕前の持ち主との……をするのが一番わかりやすい。
俺は不謹慎ながらも少しだけワクワクしながら、スーツ姿の男装の麗人を見据えて、久しぶりの対人戦に備えて準備をする。
◆◆◆◆鈴羽サイド——昨日の夕方……
鈴羽が、これほどまでに後悔したことは25年間の人生で一度もなかった。
なぜ自分は花蓮様のお側にいないのか……。
鈴羽は、動画で花蓮の悲鳴を聞いた瞬間、屋敷を飛び出し、猛スピードでバイクを飛ばし、ヘリポートへと急いでいた。
今更ダンジョンまで行って、さらにそこから最下層まで向かっても、花蓮の救出には間に合わないことは十分わかっていた。
それでも何もしないでただ動画を見ているなんてことは到底できなかった。
夕暮れ時の首都高速は渋滞していたが、鈴羽はかまわず車の隙間を神業的な操作で抜けていき、ほとんど減速することなく進んでいく。
そんな非常に集中を要する状況にもかかわらず、鈴羽は花蓮のことを考えていた。
いや正確に言うと、花蓮の現状を考えると、どうにも冷静ではいられなくなってしまうから、鈴羽は、あえて最早変えることができない過去へ意識を向けていた。
花蓮が所属する「ダンジョンの支配者たち」が、前人未到の最下層への挑戦を行うと決めた時、鈴羽は当然のことながら内心では猛烈に反対していた。
国内で並ぶものがいない名家である西条家の当主である花蓮自らなぜそのような危険なことをするのか。
鈴羽でなくとも誰でも反対するのに決まっている。
だが、花蓮の性格は20数年間近くにいる鈴羽はよくわかっていた。
一度決めたことは最後までやり通すし、どんな人間の反対もものともしない芯の強い女性である。
それは、花蓮の魅力の一つであり、現に鈴羽もそんな主人だからこそここまで忠誠を尽くすことができるのだが……。
それが結果として今回のような事態を招いてしまった。
わたしはもっと強硬に反対の意思を花蓮様に伝えるべきだった……。
たとえそれでわたしが花蓮様から嫌われようとも……花蓮様がご無事であればそれだけで十分なのに……。
そもそも花蓮が、「ダンジョンの支配者たち」に加わることを認めるべきではなかったのだ。
美月は信頼できるにしても、あの男——「雷鳴の狂戦士」こと加賀美龍太——が信用に値する人間ではないことは十分にわかっていたはずなのに……。
花蓮は鈴羽と二人きりパーティを組んで、長年冒険者としての活動を行ってきた。
しかし、花蓮が実績を積み、冒険者としての活動に注力するようになるにつれて、ある問題が発生する。
それは、西条家の運営と冒険者との両立である。
花蓮は西条家の当主として、様々な決定や活動をしなければならない立場にある。
それは社交的な付き合いから西条家の傘下にある無数の企業の意思決定まで幅広くある。
花蓮とさらに実務を統括する立場にある鈴羽の二人がダンジョンにいて、長時間不在となるのはその運営に大きな支障をきたすことになってしまう。
そのため、花蓮と鈴羽は話し合いの結果、鈴羽は、冒険者活動を休業し、西条家の運営に専念することになったのだ。
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