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第一章
鈴羽サイド-06-
そういう訳で、鈴羽は二見を排除する機会を伺い、じっと待っていた。
花蓮が二見の部屋に一人で行くこともしぶしぶ同意したし、車内であろうことか二人が体を寄せ合っているのにも辛うじて耐えきった。
もっとも、その時には、さすがの鈴羽も我慢の限界に来ていて、その場で二見の腕をへし折ってやろうかと何度も思ったが、それでもなんとかこらえた。
そして、ついに二見と二人きりになり、鈴羽は今まで溜めにためた鬱憤をこの憎き男に晴らすべく行動を開始するのであった。
その際に、鈴羽にとっては喜ばしい誤算が起きた。
なんと二見の方から冒険者同士の闘いを提案してきたのだ。
鈴羽にとっては二見の提案は願ってもないことであった。
いくら二見に諜報員としての疑いがあろうとも、法治国家の日本でかつ一応民間人である鈴羽が、あからさまに暴力を行使することは許されない。
だが、二見の方から闘いを希望しており、しかもお互いにスキルを持つ冒険者同士ならば話しは別だ。
決して褒められたことではないが、スキル保有者同士の闘いについては、司法、警察機構も半ば放任している。
スキル保有者が一般人にその刃を向けた際には断固とした処置がなされるし、その対処のための専門部隊も設立されている。
が……異常な能力を持つ者——スキル保有者——同士の闘い、ましてや双方同意の下の私闘については、警察もあえてリスクを犯してまで介入しないし、捜査も面倒だからおざなりにされている。
スキル保有者自体……その能力故か変わり者が多いし、公式、非公式問わず何らかの機関に属している者も多い。
そういった者同士が同意の上で私闘に興じるのならば、あえて司法機関が踏みこむ領域ではないという現実的な判断がなされている。
もっとも……さすがに生き死にの事態にまで発展し、それが公にされた場合は、司法機関も動かざるを得ないが、大抵は双方とも秘密裏に処理されることを好むためそういう事態はあまり起きていない。
つまるところ、鈴羽は花蓮をチャームしたこの憎き男を好きなだけ成敗することができる……という訳だ。
鈴羽は、思わず顔がほころんでしまったが、すぐに顔を引き締める。
そして、二見の様子を慎重に伺う。
二見はおよそ緊張している素振りを見せずにゆったりと鷹揚にかまえている。
その余裕しゃくしゃくの表情は鈴羽の怒りにさらに火をつけるのに十分であったが、鈴羽は感情を抑えて彼我の状況を分析する。
二見は、自分の戦闘能力を侮っているに違いない……。
鈴羽は、そう確信し、内心でほくそ笑んでいた。
鈴羽が既に仕掛けた罠に二見は見事にハマってくれたのだから……。
鈴羽は、先ほど二見の前でこれ見よがしに「アイテムボックス」を使用してみせた。
そのため、二見は鈴羽が特殊魔法の使い手だと間違いなく認識したはずだ。
ついで、二見はこう考えたはずだ。
この女が特殊魔法の使い手ならば戦闘系統のスキルは保有していない。
それならば特殊魔法にさえ気をつければ脅威ではないと……。
スキルについては未だにその全容は解明されていないが、いくつか経験則的にわかっていることがある。
それは基本的に同一系統のスキルしか身につけることができないということだ。
戦技のスキルを持つものは戦技のみ、回復魔法ならば回復魔法のみ……といった具合だ。
特殊魔法はその名の通り、より一層通常スキルよりイレギュラーな存在であるからか、使い手は原則として固有の特殊魔法しか習得することができないとされている。
この経験則に従って、二見は鈴羽のことを「特殊魔法」しか使えないと判断し、鈴羽の戦闘能力を甘く見積もったに違いない。
戦闘系のスキルを保有していない以上、互いに訓練された者同士が戦えば、男の自分に分があると……。
だが、こうしたスキルの経験則には例外もある……。
鈴羽は二見を視界にとらえながら、つとめて冷静に話す。
そうしなければ、思わず高笑いしてしまいそうだったからだ。
「二見さん。手合わせする前に、一つだけ教えてさしあげます。フフフ……わたしはダブルホルダーですから、戦闘系スキルも保有していますよ」
これで二見の済ました顔も驚愕と恐怖……そして絶望に変わるだろうと、鈴羽は確信していた。
スキルを保有している者自体がそもそも稀——レア(R)だが、ダブルホルダー……異なる系統のスキルを2つ保有している者……はより一層稀——スーパーレア(SR)——である。
協会が認識している範囲では、ダブルホルダーは国内でもせいぜい十数名レベルであり、そのいずれもがS級冒険者として登録されている。
一孤児であった鈴羽が、日本有数の名家である西条家に養子として迎えられた理由がここにある。
さらに言えば、鈴羽は、ダブルホルダーの中でも、特殊魔法+戦闘系スキルという組み合わせであるから、さらに稀——ダブルスーパーレア(SSR)——である。
鈴羽が、自分がダブルホルダーであることを二見にあえて言ったのにはもちろん理由がある。
何も言わずにあっさりと倒してしまうだけでは鈴羽の気持ちがおさまらないからだ。
さあ……絶望に歪ませた表情を見せなさい! 二見敬三!
花蓮様をたぶらかした報いをじっくりと味合わさせてあげるわ!
鈴羽は、口角を上げて、顔をゆがませながら、二見の表情を伺う。
が……しかし、二見はポカーンとした顔を浮かべているだけだ。
あまりの事態に状況が飲み込めず唖然としているのだろうか……しかしそれにしては……あまりにも間が抜けすぎている顔である……。
「えっと……鈴羽さん。自分はまだよくこっちの冒険者のことはわかっていないから、変なこと聞くけどさ……。ダブルホルダーって何?」
これには鈴羽が、思わず口をあんぐりと開けてしまった。
こ、こいつ……ふざけているの……いや……これは奴の心理戦の一種か……。わたしがダブルホルダーだと信じていないのね。それならば——
「ふ、フフフ……、さすがは諜報員ですね。こんな時でも心理戦を仕掛けてくるなんて……ですが、これでもまだとぼけていられますか!」
鈴羽はそう言うと同時に、二見の元へと勢いよく飛び出す。
花蓮が二見の部屋に一人で行くこともしぶしぶ同意したし、車内であろうことか二人が体を寄せ合っているのにも辛うじて耐えきった。
もっとも、その時には、さすがの鈴羽も我慢の限界に来ていて、その場で二見の腕をへし折ってやろうかと何度も思ったが、それでもなんとかこらえた。
そして、ついに二見と二人きりになり、鈴羽は今まで溜めにためた鬱憤をこの憎き男に晴らすべく行動を開始するのであった。
その際に、鈴羽にとっては喜ばしい誤算が起きた。
なんと二見の方から冒険者同士の闘いを提案してきたのだ。
鈴羽にとっては二見の提案は願ってもないことであった。
いくら二見に諜報員としての疑いがあろうとも、法治国家の日本でかつ一応民間人である鈴羽が、あからさまに暴力を行使することは許されない。
だが、二見の方から闘いを希望しており、しかもお互いにスキルを持つ冒険者同士ならば話しは別だ。
決して褒められたことではないが、スキル保有者同士の闘いについては、司法、警察機構も半ば放任している。
スキル保有者が一般人にその刃を向けた際には断固とした処置がなされるし、その対処のための専門部隊も設立されている。
が……異常な能力を持つ者——スキル保有者——同士の闘い、ましてや双方同意の下の私闘については、警察もあえてリスクを犯してまで介入しないし、捜査も面倒だからおざなりにされている。
スキル保有者自体……その能力故か変わり者が多いし、公式、非公式問わず何らかの機関に属している者も多い。
そういった者同士が同意の上で私闘に興じるのならば、あえて司法機関が踏みこむ領域ではないという現実的な判断がなされている。
もっとも……さすがに生き死にの事態にまで発展し、それが公にされた場合は、司法機関も動かざるを得ないが、大抵は双方とも秘密裏に処理されることを好むためそういう事態はあまり起きていない。
つまるところ、鈴羽は花蓮をチャームしたこの憎き男を好きなだけ成敗することができる……という訳だ。
鈴羽は、思わず顔がほころんでしまったが、すぐに顔を引き締める。
そして、二見の様子を慎重に伺う。
二見はおよそ緊張している素振りを見せずにゆったりと鷹揚にかまえている。
その余裕しゃくしゃくの表情は鈴羽の怒りにさらに火をつけるのに十分であったが、鈴羽は感情を抑えて彼我の状況を分析する。
二見は、自分の戦闘能力を侮っているに違いない……。
鈴羽は、そう確信し、内心でほくそ笑んでいた。
鈴羽が既に仕掛けた罠に二見は見事にハマってくれたのだから……。
鈴羽は、先ほど二見の前でこれ見よがしに「アイテムボックス」を使用してみせた。
そのため、二見は鈴羽が特殊魔法の使い手だと間違いなく認識したはずだ。
ついで、二見はこう考えたはずだ。
この女が特殊魔法の使い手ならば戦闘系統のスキルは保有していない。
それならば特殊魔法にさえ気をつければ脅威ではないと……。
スキルについては未だにその全容は解明されていないが、いくつか経験則的にわかっていることがある。
それは基本的に同一系統のスキルしか身につけることができないということだ。
戦技のスキルを持つものは戦技のみ、回復魔法ならば回復魔法のみ……といった具合だ。
特殊魔法はその名の通り、より一層通常スキルよりイレギュラーな存在であるからか、使い手は原則として固有の特殊魔法しか習得することができないとされている。
この経験則に従って、二見は鈴羽のことを「特殊魔法」しか使えないと判断し、鈴羽の戦闘能力を甘く見積もったに違いない。
戦闘系のスキルを保有していない以上、互いに訓練された者同士が戦えば、男の自分に分があると……。
だが、こうしたスキルの経験則には例外もある……。
鈴羽は二見を視界にとらえながら、つとめて冷静に話す。
そうしなければ、思わず高笑いしてしまいそうだったからだ。
「二見さん。手合わせする前に、一つだけ教えてさしあげます。フフフ……わたしはダブルホルダーですから、戦闘系スキルも保有していますよ」
これで二見の済ました顔も驚愕と恐怖……そして絶望に変わるだろうと、鈴羽は確信していた。
スキルを保有している者自体がそもそも稀——レア(R)だが、ダブルホルダー……異なる系統のスキルを2つ保有している者……はより一層稀——スーパーレア(SR)——である。
協会が認識している範囲では、ダブルホルダーは国内でもせいぜい十数名レベルであり、そのいずれもがS級冒険者として登録されている。
一孤児であった鈴羽が、日本有数の名家である西条家に養子として迎えられた理由がここにある。
さらに言えば、鈴羽は、ダブルホルダーの中でも、特殊魔法+戦闘系スキルという組み合わせであるから、さらに稀——ダブルスーパーレア(SSR)——である。
鈴羽が、自分がダブルホルダーであることを二見にあえて言ったのにはもちろん理由がある。
何も言わずにあっさりと倒してしまうだけでは鈴羽の気持ちがおさまらないからだ。
さあ……絶望に歪ませた表情を見せなさい! 二見敬三!
花蓮様をたぶらかした報いをじっくりと味合わさせてあげるわ!
鈴羽は、口角を上げて、顔をゆがませながら、二見の表情を伺う。
が……しかし、二見はポカーンとした顔を浮かべているだけだ。
あまりの事態に状況が飲み込めず唖然としているのだろうか……しかしそれにしては……あまりにも間が抜けすぎている顔である……。
「えっと……鈴羽さん。自分はまだよくこっちの冒険者のことはわかっていないから、変なこと聞くけどさ……。ダブルホルダーって何?」
これには鈴羽が、思わず口をあんぐりと開けてしまった。
こ、こいつ……ふざけているの……いや……これは奴の心理戦の一種か……。わたしがダブルホルダーだと信じていないのね。それならば——
「ふ、フフフ……、さすがは諜報員ですね。こんな時でも心理戦を仕掛けてくるなんて……ですが、これでもまだとぼけていられますか!」
鈴羽はそう言うと同時に、二見の元へと勢いよく飛び出す。
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