異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi

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第一章

鈴羽サイド-07-

 日夜戦闘訓練をしていて、経験も多分にある冒険者である鈴羽の動きは確かに目も止まらぬ素早いものであるが、あくまでもそれは鍛え抜かれたアスリートの領域から抜け出ていない。

 

 つまり、人知を超えた異能のそれではない。

 

 これならば鍛え抜かれた冒険者……自分ならばたやすく避けられる……。

 

 フフフ……二見、あなたはそう思っているのでしょうね……。



 一見すれば、鈴羽はおよそスキルを発動していないように思えるが、実のところ既に鈴羽は戦闘系スキル——『未来の残影』——を発動していた。

 

 その効果は、対象の将来の動きを予測することである。

 

 地味に聞こえる『未来の残影』だが、その効果は対戦闘……特に一対一において極めて有能である。



 なにせ相手が次にどのように動くかを把握することができるのだから。



 鈴羽の視界には、二見の数秒後の動きが既に映っていた。



 仮に二見がどんなに早く動くことができても、どこに向かうかわかっている鈴羽にとって、それは問題ではない。

 

 鈴羽は、先回りをして、二見の死角から足を狙う。



 そして、スピードがのったまま二見に襲いかかる。

 

 とった!



 鈴羽が、そう自身の勝利を確信した瞬間——しかし、彼女の視界から二見の姿は消えていた。



 な!? どこに……。



 鈴羽が、あっけに捉えられていると、彼女の真後ろから声が聞こえる。



「あの……鈴羽さん。やっぱり花蓮さんに遠慮してるんじゃ……」

 

 鈴羽が驚いて、後ろを振り返ると、そこには二見がいた。



 鈴羽は、瞬間、後ろに素早く飛んで、二見と距離を取る。



 い、いったい何故……この男が突然背後に……。



 いや……そもそも、なぜこの男は、「未来の残影」と違う動きをしたの……。



 もしや……わたしもこの男の特殊魔法の影響下に入ってしまったというの……。



 鈴羽は、想定外の事態に混乱し、様々な疑惑が次々と浮かんでは消える。



 しかし、戦闘経験豊富な彼女は、このような予想外の事態においては、動きを止めることがなりよりも致命的になることを熟知している。



 鈴羽はすぐに頭を切り替える。



 考えても無駄だわ。

 情報が少なくすぎる……それならば、もう一度……。



 先ほどは驕りもあり、油断していたのかもしれない。



 今度はもうそんな油断はしない。



 正真正銘の全力……一瞬もこの男の動きを見逃さない。 



 鈴羽は、意気を上げて、全力で二見に飛びかかる。



 ついで、彼女は二見の動きを片時も見逃さんと、その一挙手一投足を見据えて、最新の注意を払いながら「未来の残影」を発動させる。



 鈴羽の視界には、今現在の二見とそこから動き出している二見の残像がしっかりと焼き付いている。



 よし……確実に動きを見切ったわ……これで……終わりよ。二見!



 鈴羽の「未来の残影」は今度こそ確かに有効に発動された。



 読みどおりの場所に二見はいて、鈴羽はその全力の一撃を確かにお見舞いすることができた——



 が……しかし、鈴羽の攻撃はまったく二見に通じなかった。



 いや……正確に表現するのならば、二見は彼女の攻撃をまるで子供をあやすかのようにただ掴んで止めたのであった。



 な……ば、馬鹿な……。



 鈴羽があっけに捕らわれていると、二見は申し訳なさそうな表情で、



「いやそんなに手加減してもらわなくとも大丈夫ですから……」

 

 と真意不明な発言をしている。

 

 二見のそのとぼけた態度は今の鈴羽にしてみれば不気味にしか思えなかった。

 

 鈴羽は、思わず



「は、離しなさい!」

 

 と、情けない声を上げてしまう始末であった。

 

 当然、鈴羽は、そう叫ぶ前に懸命に二見の腕から逃れようとしていたが、どんなに力を入れても、握られたその腕はビクともしなかった。

 

 な、なんて……力なの……これも幻影だというの……いえ……そんなはずはない。



 この圧倒的な実感は間違いなく——

 

 今、二見から何らかの攻撃を受けていたら、無防備な鈴羽は大ダメージを受けていただろう。

 

 しかし、二見はご丁寧に鈴羽の言葉どおりにその腕をぱっと放すだけであった。

 

 自由になった鈴羽は、二見から距離を大きく取る。



 気づいた時には、いつの間にか鈴羽は、部屋の隅——窓に張り付くほどに二見から離れていた。



 そして、気づいた時には額もブラウスも汗でびっしょりと湿っていた。



 それなのに鈴羽の体はちっとも熱くなく、まるでどこかの倉庫の冷凍室にいるかのように心底冷え切っていた。



「その……鈴羽さん。自分から言っておいてなんですが……事情があって本気になれないようならやっぱり止めましょうか?」

 

 二見は、そう言うと、何故だが不明だが申し訳なさそうな表情を浮かべている。

 

 二見の言動も意図も先ほどからさっぱりわからない。

 

 その二見の理解不能な言動と強さに鈴羽の頭は混乱し、今では冷や汗が止まらぬほどに恐怖を感じてしまっている。

 

 この男は……いったい何なのだ……。

 

 まさか……この男もわたしと同じダブルホルダーなのか……いやしかしたとえそうであっても、これほどのデタラメな強さは説明が……。

 

 そして、鈴羽の脳裏には昨日の動画が浮かぶ。

 

 そんなことがあるはずはない……あれは幻影だ……フェイクに決まっている。

 

 もしも……あれが真に現実を映したものならばこの男は——。

 

 鈴羽は一人首を振る。

 

 認める訳にはいかない……あんなものが真実だったら、わたしは……いえ世界中の冒険者たちの常識が覆ってしまう……。

 

 実のところ鈴羽はこの時点で既に二見の実力も昨日の動画も真実であると本能的に認めてしまっていた。

 

 だが、それでも鈴羽は花蓮のためにも引くわけにはいかなかった。

 

 この男は……危険すぎる……花蓮様のためにもなんとしても排除しなければ……どんな手段を使っても!
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