50 / 153
第一章
陸上自衛隊特殊作戦群サイド-04-
事前に聞いていた話しではあったが、麻耶は現場に同行したい旨を希望していた。
いや……希望というよりは命令か……。
麻耶は自身の部屋で何やら束になったレポートを忙しそうに見ていた。
そして、麻耶は綾音を横目で見るなり、
「三尉、今回については……わたしも同行します」
そうあっさりと言う。
無駄だと思いつつも綾音は、翻意を促すために進言する。
「会長。いくらあなたとはいえ……危険です。我々だけで行動したいのですが」
「現場にはわたしの……友人たちがいるの。彼女たちを可能な限り危険な目にはあわせたくないわ」
「……対象に洗脳されている疑いがある二名の民間人の女性ですか……。会長のご友人だったとは……。心中お察しいたします。ですが……我々も最大限、民間人に危害が及ぶような行動はさけます。ですから——」
麻耶は綾音の言葉を遮り、
「三尉、あなたたちの実力は十分信用しています。でもそれと今回のことは別だわ。このことはわたしの信念の問題です」
と、きっぱりと言う。
麻耶はじっと綾音の目を見る。
綾音は麻耶の様子を見て、これ以上話しても、説得するのは不可能だとすぐに察した。
綾音も譲らない性格ではあるが、麻耶はそれ以上である。
それに麻耶の過去を知る綾音にとっては今回の彼女の行動はある意味で当然とも思えた。
大切な人間を失うことを何よりも怖れている麻耶……。
そんな彼女にとって、友人たちの保護を他人に全て委ねるのは耐えられないことなのだろう。
綾音もその心情は痛いほどわかってしまうから、それ以上は何も言えなかった。
麻耶もまた綾音と同様に22年前の悲劇を引きずっているのだから……。
綾音は、ふうとため息をひとつつく。
部下たちには余計な気苦労をかけてしまうな……。
「会長のご意向はわかりました。ですが、可能な限り、会長は対象から離れていてください。我々が対象を確保してから、ご友人たちと話していただければ——」
「ええ。わかっています」
と、麻耶は素直にうなずく。
が……綾音は内心では麻耶がそんなタマの女性ではないとも思っていた。
綾音は、今回の麻耶の強引な行動について、かねてからの懸念事項を払拭するためのものだと考えていた。
つまり、国内において野放図に行われている外国の工作員——たいてい彼らは異能者だ——の諜報活動に歯止めをかけること——。
そのために、対異能者に対する陸自部隊の実戦投入という既成事実をつくる……そんな思惑である。
むろんしたたかな麻耶のことだからそれも大きいのだろうが……。
もしかしたら、友人たちを救いたいという思いの方が強かったのかもしれない。
それならば、なおさらモニター越しの後方で待機……なんてことを麻耶はしないだろう。
綾音は今度はあえて聞こえるくらいの大きなため息をつく。
「あら? どうしたの? 三尉? なにか心配ごとでも?」
「いえ……特には」
麻耶はやや含みを帯びた笑みを浮かべながら、綾音を見る。
「フフ……そう。ならいいわ」
麻耶は綾音の懸念もよくわかっているはずだ。
それでいながら、麻耶は結局行動してしまうのだ
まったく……この人は確信犯だから困る……。
そう心の中で愚痴りながらも、綾音は麻耶に対して悪い感情は持っていない。
というのも、麻耶はダンジョン協会の会長という立場でありながらも、常に現場目線で事に当たることを綾音はよく知っているからだ。
だからこそ綾音も麻耶のこうした危険な行為をしぶしぶながら受け入れてしまうのだが……。
「ところで……三尉。その格好は何なの?」
麻耶が眉根を寄せて、怪訝な顔をしている。
「なにか問題でもありますか? 私服ですから人目も引いていないと思いますが……」
今の綾音は、制服姿ではなく私服姿である。
綾音がわざわざ制服から私服に着替えてきたのにはむろん理由がある。
協会の事務所に陸自の制服姿で乗り込むのは色々と人目をひいてしまうからだ。
協会と陸自の関係はある意味で公然の秘密に近いものがある。
が……それでも堂々と協会内で陸自の制服姿で歩き回っていらぬ波風を立てる必要はない。
この国では「建前」が何よりも重要なのだし。
てっきり麻耶も同じ考えだと思っていたのだが……。
麻耶は綾音の全身を上から下まで見た後で、呆れたようなため息を漏らす。
「はあ……三尉。あなたも若い女性なのだから……。もう少しなんというか……おしゃれをしたらどうなの?」
確かに今の綾音の服装はお世辞にも洒落たものではない。
デニムのジーンズにTシャツといった出で立ちである。
それにショートカットの髪をキャップでまとめているから、女性らしさは皆無である。
今の綾音を見たら、女性ではなく男性と思うかもしれない。
「はあ……ですが、わたしはこういう服しか持っていませんし」
綾音は当たり障りのない受け答えをする。
が……しかし、内心ではそれを麻耶には言われたくないと思っていた。
麻耶は綾音と違いフォーマルな服装を一応している。
そして、綾音は麻耶と会うときはたいてい同じ格好をしている。
綾音は以前麻耶が、『服を考えるのが手間だから同じ服を何着も持って着回しているのよ』と言っていたことを思い出していた。
それでも、麻耶のスタイルの良さと美貌によって、周りからはお洒落なキャリアウーマンに見られるのかもしれないが……。
それはなにか違う気がする。
釈然としない顔を浮かべていたのが悪かったのか、さらに麻耶が言う。
「三尉、あなたもいい年をした女性なのだし、少しは将来のことも考えたらどうなのかしら。そんな格好ではますます男がよりつかないでしょ」
いや……希望というよりは命令か……。
麻耶は自身の部屋で何やら束になったレポートを忙しそうに見ていた。
そして、麻耶は綾音を横目で見るなり、
「三尉、今回については……わたしも同行します」
そうあっさりと言う。
無駄だと思いつつも綾音は、翻意を促すために進言する。
「会長。いくらあなたとはいえ……危険です。我々だけで行動したいのですが」
「現場にはわたしの……友人たちがいるの。彼女たちを可能な限り危険な目にはあわせたくないわ」
「……対象に洗脳されている疑いがある二名の民間人の女性ですか……。会長のご友人だったとは……。心中お察しいたします。ですが……我々も最大限、民間人に危害が及ぶような行動はさけます。ですから——」
麻耶は綾音の言葉を遮り、
「三尉、あなたたちの実力は十分信用しています。でもそれと今回のことは別だわ。このことはわたしの信念の問題です」
と、きっぱりと言う。
麻耶はじっと綾音の目を見る。
綾音は麻耶の様子を見て、これ以上話しても、説得するのは不可能だとすぐに察した。
綾音も譲らない性格ではあるが、麻耶はそれ以上である。
それに麻耶の過去を知る綾音にとっては今回の彼女の行動はある意味で当然とも思えた。
大切な人間を失うことを何よりも怖れている麻耶……。
そんな彼女にとって、友人たちの保護を他人に全て委ねるのは耐えられないことなのだろう。
綾音もその心情は痛いほどわかってしまうから、それ以上は何も言えなかった。
麻耶もまた綾音と同様に22年前の悲劇を引きずっているのだから……。
綾音は、ふうとため息をひとつつく。
部下たちには余計な気苦労をかけてしまうな……。
「会長のご意向はわかりました。ですが、可能な限り、会長は対象から離れていてください。我々が対象を確保してから、ご友人たちと話していただければ——」
「ええ。わかっています」
と、麻耶は素直にうなずく。
が……綾音は内心では麻耶がそんなタマの女性ではないとも思っていた。
綾音は、今回の麻耶の強引な行動について、かねてからの懸念事項を払拭するためのものだと考えていた。
つまり、国内において野放図に行われている外国の工作員——たいてい彼らは異能者だ——の諜報活動に歯止めをかけること——。
そのために、対異能者に対する陸自部隊の実戦投入という既成事実をつくる……そんな思惑である。
むろんしたたかな麻耶のことだからそれも大きいのだろうが……。
もしかしたら、友人たちを救いたいという思いの方が強かったのかもしれない。
それならば、なおさらモニター越しの後方で待機……なんてことを麻耶はしないだろう。
綾音は今度はあえて聞こえるくらいの大きなため息をつく。
「あら? どうしたの? 三尉? なにか心配ごとでも?」
「いえ……特には」
麻耶はやや含みを帯びた笑みを浮かべながら、綾音を見る。
「フフ……そう。ならいいわ」
麻耶は綾音の懸念もよくわかっているはずだ。
それでいながら、麻耶は結局行動してしまうのだ
まったく……この人は確信犯だから困る……。
そう心の中で愚痴りながらも、綾音は麻耶に対して悪い感情は持っていない。
というのも、麻耶はダンジョン協会の会長という立場でありながらも、常に現場目線で事に当たることを綾音はよく知っているからだ。
だからこそ綾音も麻耶のこうした危険な行為をしぶしぶながら受け入れてしまうのだが……。
「ところで……三尉。その格好は何なの?」
麻耶が眉根を寄せて、怪訝な顔をしている。
「なにか問題でもありますか? 私服ですから人目も引いていないと思いますが……」
今の綾音は、制服姿ではなく私服姿である。
綾音がわざわざ制服から私服に着替えてきたのにはむろん理由がある。
協会の事務所に陸自の制服姿で乗り込むのは色々と人目をひいてしまうからだ。
協会と陸自の関係はある意味で公然の秘密に近いものがある。
が……それでも堂々と協会内で陸自の制服姿で歩き回っていらぬ波風を立てる必要はない。
この国では「建前」が何よりも重要なのだし。
てっきり麻耶も同じ考えだと思っていたのだが……。
麻耶は綾音の全身を上から下まで見た後で、呆れたようなため息を漏らす。
「はあ……三尉。あなたも若い女性なのだから……。もう少しなんというか……おしゃれをしたらどうなの?」
確かに今の綾音の服装はお世辞にも洒落たものではない。
デニムのジーンズにTシャツといった出で立ちである。
それにショートカットの髪をキャップでまとめているから、女性らしさは皆無である。
今の綾音を見たら、女性ではなく男性と思うかもしれない。
「はあ……ですが、わたしはこういう服しか持っていませんし」
綾音は当たり障りのない受け答えをする。
が……しかし、内心ではそれを麻耶には言われたくないと思っていた。
麻耶は綾音と違いフォーマルな服装を一応している。
そして、綾音は麻耶と会うときはたいてい同じ格好をしている。
綾音は以前麻耶が、『服を考えるのが手間だから同じ服を何着も持って着回しているのよ』と言っていたことを思い出していた。
それでも、麻耶のスタイルの良さと美貌によって、周りからはお洒落なキャリアウーマンに見られるのかもしれないが……。
それはなにか違う気がする。
釈然としない顔を浮かべていたのが悪かったのか、さらに麻耶が言う。
「三尉、あなたもいい年をした女性なのだし、少しは将来のことも考えたらどうなのかしら。そんな格好ではますます男がよりつかないでしょ」
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
召喚されたリビングメイルは女騎士のものでした
think
ファンタジー
ざっくり紹介
バトル!
いちゃいちゃラブコメ!
ちょっとむふふ!
真面目に紹介
召喚獣を繰り出し闘わせる闘技場が盛んな国。
そして召喚師を育てる学園に入学したカイ・グラン。
ある日念願の召喚の儀式をクラスですることになった。
皆が、高ランクの召喚獣を選択していくなか、カイの召喚から出て来たのは
リビングメイルだった。
薄汚れた女性用の鎧で、ランクもDという微妙なものだったので契約をせずに、聖霊界に戻そうとしたが
マモリタイ、コンドコソ、オネガイ
という言葉が聞こえた。
カイは迷ったが契約をする。
最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。
棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。