52 / 153
第一章
陸上自衛隊特殊作戦群サイド-06-
綾音は自身の動揺——恐怖——をまるで抑えることができない。
そして、綾音の動揺は、マインドチェーンで繋がっている部隊全員にまたたく間に伝染してしまった。
対象——二見——が突如として見せた強烈な殺気。
たったそれだけで、綾音の精神と部隊の士気はズタズタになってしまった。
綾音にとってこんな経験は入隊以来……いや今までの人生で一度もなかった。
むろん綾音の経験が不足している訳ではない。
それどころか陸自の中でも、トップクラスの実戦経験を綾音は積んでいる。
いや……事実上、戦闘経験があるのは綾音の部隊以外には陸自内には存在しない。
綾音の部隊は、ダンジョン内のモンスターと何度も対峙し、処理している。
そうしたモンスターはS級冒険者ですら太刀打ちできないような危険極まるモンスターたちばかりだ。
命を奪われても不思議ではない……そうした修羅場も幾度も経験した。
そのような時ですら、綾音は少なくとも表面上は冷静さを装う余裕はあった。
だが……今の綾音はただただ恐怖に圧倒されてしまっている。
逃れることができない強烈な死の予感……。
それが綾音の心を蝕んでいた。
綾音が対峙している相手はたかだか一人の人間……。
それも、そこらにいる普通の中年の男にも関わらず……。
ましてや相手は目の前にいる訳でもない。
それどころか視界にすら入っていない。
それなのに……脳裏には自身が男に屠られている映像が鮮明に浮かんでしまう。
何度消そうともその映像はあまりにもリアルで生々しいものとして綾音の思考を支配する。
これはやつの精神操作魔法なのか!?
だが、その疑念はすぐに消える。
いや……そもそも綾音ははじめからそんなことは思っていない。
それは、そうであって欲しいという綾音の願望にすぎない。
この禍々しいまでのやつの殺気……と脳裏にこびりついた死の光景……。
綾音は確信してしまっていた。
二見の実力は確実に自分自身を……いや武装している部隊全員の力を上回っていることを。
それでも綾音は、自身の精神をなんとか立て直そうとしていた。
そして、それは現に功を奏した。
麻耶が突入の合図をしたその時、綾音は恐慌状態からかろうじて抜け出ていた。
ついで、綾音は即座にマインドチェーンで部下たちを再度繋ぐ。
これにより、部隊はなんとか行動できるまでには回復することができた。
だから二見と対峙した時も、綾音は外見上はなんとか平常を保つことができていた。
先ほどの場に満ちていた禍々しいまでの死の予感も今や消えていた。
二見は、殺気どころか抵抗の素振りすらみせない。
そして、あまりにもあっけないほどに二見を拘束することができた。
それでも、綾音は未だに拭い難い不気味さを感じていた。
だが、同時に自身が感じた恐れが杞憂であることに安堵もしていた。
やはり先ほどの件は、精神操作魔法の類だったのかもしれない……。
綾音がそう思った時……再びソレはやってきた。
綾音はその瞬間から数分間のことをほとんど覚えていない。
ただ……事実として綾音は最悪の失態をしでかしてしまった。
自身の精神を狼狽させ、マインドチェーンを通じて部隊全員を混乱させてしまった。
あげくに無許可での発砲……。
そして、今綾音の目の前には対象——二見——がいる。
二見は車内——軍用トラック——の中で横たわっている。
しかし、こいつは傷ひとつ負ってはいない。
間違いなく部下が発砲したM4はその体に命中していたのにも関わらず……。
車内はひたすらに沈黙が続いていた。
部隊のメンバーの誰も口を開こうとしない。
みな放心状態なのか……ほうけたように虚空を見つめている。
車内はただ移動の際の音だけが無機質に響いていた。
が……そんな状況がある時をさかいに一変した。
ときおり対象——二見——が動くようになったのだ。
綾音は体をビクリと震わせてしまう。
綾音だけではない。
部隊全員がまるで示しあわせたかのように同時に体を大きく震わせる。
既に綾音はマインドチェーンを解除している。
それにもかかわらず皮肉なことに今の部隊は一部の狂いもなく同調している。
二見の一挙一投足に綾音を含めた部隊全員が恐れ慄いているのだ。
この状況下で信じられないことだが……二見は寝ているにも関わらず……。
そして、二見は綾音たちをあざ笑うかのように、いびきまでかきはじめる始末であった。
それでも綾音たちは二見から目を離すことができなかった。
それから……協会本部までに到着するまでの間、綾音たちの精神が多大な消耗をしいられることになったのはいうまでもない。
そして、綾音の動揺は、マインドチェーンで繋がっている部隊全員にまたたく間に伝染してしまった。
対象——二見——が突如として見せた強烈な殺気。
たったそれだけで、綾音の精神と部隊の士気はズタズタになってしまった。
綾音にとってこんな経験は入隊以来……いや今までの人生で一度もなかった。
むろん綾音の経験が不足している訳ではない。
それどころか陸自の中でも、トップクラスの実戦経験を綾音は積んでいる。
いや……事実上、戦闘経験があるのは綾音の部隊以外には陸自内には存在しない。
綾音の部隊は、ダンジョン内のモンスターと何度も対峙し、処理している。
そうしたモンスターはS級冒険者ですら太刀打ちできないような危険極まるモンスターたちばかりだ。
命を奪われても不思議ではない……そうした修羅場も幾度も経験した。
そのような時ですら、綾音は少なくとも表面上は冷静さを装う余裕はあった。
だが……今の綾音はただただ恐怖に圧倒されてしまっている。
逃れることができない強烈な死の予感……。
それが綾音の心を蝕んでいた。
綾音が対峙している相手はたかだか一人の人間……。
それも、そこらにいる普通の中年の男にも関わらず……。
ましてや相手は目の前にいる訳でもない。
それどころか視界にすら入っていない。
それなのに……脳裏には自身が男に屠られている映像が鮮明に浮かんでしまう。
何度消そうともその映像はあまりにもリアルで生々しいものとして綾音の思考を支配する。
これはやつの精神操作魔法なのか!?
だが、その疑念はすぐに消える。
いや……そもそも綾音ははじめからそんなことは思っていない。
それは、そうであって欲しいという綾音の願望にすぎない。
この禍々しいまでのやつの殺気……と脳裏にこびりついた死の光景……。
綾音は確信してしまっていた。
二見の実力は確実に自分自身を……いや武装している部隊全員の力を上回っていることを。
それでも綾音は、自身の精神をなんとか立て直そうとしていた。
そして、それは現に功を奏した。
麻耶が突入の合図をしたその時、綾音は恐慌状態からかろうじて抜け出ていた。
ついで、綾音は即座にマインドチェーンで部下たちを再度繋ぐ。
これにより、部隊はなんとか行動できるまでには回復することができた。
だから二見と対峙した時も、綾音は外見上はなんとか平常を保つことができていた。
先ほどの場に満ちていた禍々しいまでの死の予感も今や消えていた。
二見は、殺気どころか抵抗の素振りすらみせない。
そして、あまりにもあっけないほどに二見を拘束することができた。
それでも、綾音は未だに拭い難い不気味さを感じていた。
だが、同時に自身が感じた恐れが杞憂であることに安堵もしていた。
やはり先ほどの件は、精神操作魔法の類だったのかもしれない……。
綾音がそう思った時……再びソレはやってきた。
綾音はその瞬間から数分間のことをほとんど覚えていない。
ただ……事実として綾音は最悪の失態をしでかしてしまった。
自身の精神を狼狽させ、マインドチェーンを通じて部隊全員を混乱させてしまった。
あげくに無許可での発砲……。
そして、今綾音の目の前には対象——二見——がいる。
二見は車内——軍用トラック——の中で横たわっている。
しかし、こいつは傷ひとつ負ってはいない。
間違いなく部下が発砲したM4はその体に命中していたのにも関わらず……。
車内はひたすらに沈黙が続いていた。
部隊のメンバーの誰も口を開こうとしない。
みな放心状態なのか……ほうけたように虚空を見つめている。
車内はただ移動の際の音だけが無機質に響いていた。
が……そんな状況がある時をさかいに一変した。
ときおり対象——二見——が動くようになったのだ。
綾音は体をビクリと震わせてしまう。
綾音だけではない。
部隊全員がまるで示しあわせたかのように同時に体を大きく震わせる。
既に綾音はマインドチェーンを解除している。
それにもかかわらず皮肉なことに今の部隊は一部の狂いもなく同調している。
二見の一挙一投足に綾音を含めた部隊全員が恐れ慄いているのだ。
この状況下で信じられないことだが……二見は寝ているにも関わらず……。
そして、二見は綾音たちをあざ笑うかのように、いびきまでかきはじめる始末であった。
それでも綾音たちは二見から目を離すことができなかった。
それから……協会本部までに到着するまでの間、綾音たちの精神が多大な消耗をしいられることになったのはいうまでもない。
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
召喚されたリビングメイルは女騎士のものでした
think
ファンタジー
ざっくり紹介
バトル!
いちゃいちゃラブコメ!
ちょっとむふふ!
真面目に紹介
召喚獣を繰り出し闘わせる闘技場が盛んな国。
そして召喚師を育てる学園に入学したカイ・グラン。
ある日念願の召喚の儀式をクラスですることになった。
皆が、高ランクの召喚獣を選択していくなか、カイの召喚から出て来たのは
リビングメイルだった。
薄汚れた女性用の鎧で、ランクもDという微妙なものだったので契約をせずに、聖霊界に戻そうとしたが
マモリタイ、コンドコソ、オネガイ
という言葉が聞こえた。
カイは迷ったが契約をする。
最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。
棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。