異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi

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第一章

英雄、目覚める-01-

 ダンジョン協会本部で、麻耶と再会した時、彼女は唖然としていた。



「三尉? 大丈夫? 目にクマが……いえ少しやつれているようだけど……何かあったの?」



「も、問題ありません——」



 と、麻耶はなぜか匂いを嗅ぐ素振りを見せ、



「三尉……何か匂わない?」

 

 と、不快な表情を浮かべている。

 

 どうやら何かが臭うらしい。 

 

 その時、綾音ははじめて気づいた……いや気づいてしまった。

 

 自分が失禁していたことに……。

 

 それも一度ではなく何度も……。

 

 もしかしたら、車内で二見が動くたびに……。

 

 いや突入前にも……突入後も……あの発砲時も……。

 

 綾音は顔を真っ赤にさせてうつむく。

 

 だが、幸いなことに麻耶は綾音の粗相に気づかなかった。

 

 それも当然だろう。

 

 陸上自衛隊の栄えあるエリート中のエリートである特殊作戦群——対異能部隊——の小隊長……。



 間宮綾音三尉が一人の男——冴えないオッサン——に怯えるあまりに失禁したなど誰が信じられるだろう。



 綾音自身、信じられなかった……いや信じたくなかった。



 この一件が、綾音の自尊心を壊滅的に傷つけることになったことは言うまでもない。



 しかし、綾音はまだ気づいていなかった。



 このことはまだ序の口に過ぎないということに……。



 この男——二見敬三——に関わったことにより、綾音の運命は根本的に変えられてしまうのであった。




◆◆◆◆




 意識が覚醒する。



 同時に、俺は懐かしく忌まわしい感覚におそわれる。



 これは……異世界のいや戦場の——。



 だが、その感覚は幸いにも一瞬のことだった。



 不意に目隠しを外される。



 視界に飛び込んできたのは、一面が白の無機質な壁……だった。



 殺風景な机と椅子が視界に入る。



 いわゆる取調室といったような部屋だ。



 目の前には女性が座っている。



 俺は椅子に座っていた。



 俺はその光景を見てほっとする。



 ここは異世界ではないし、戦場でもないと……。



 俺の脳裏に『彼女』の姿もない。



 そう今の俺は、昔のように単なる冒険者のオッサン……なのだ。



「ようやくお目覚めかしら?」

 

 真正面にいる女性……そうか麻耶さんだったか……が口を開く。

 

 同時に俺の脳裏に先ほどまでの出来事が浮かぶ。

 

 そうか……俺は拘束されて……ここは——



「どうかしら? わたしたちの協会本部は? フフ……もっともここは本部の地下の尋問室だけどね」

 

 麻耶さんはそう言うと、不敵な笑みを浮かべている。

 

 協会本部……。



 花蓮さんと鈴羽さんもここにいるのだろうか。



 俺は、彼女たちに展開していた『クロニクルガード』を探る。



 『クロニクルガード』は防護魔法だが、一定の距離内であれば、仲間を探知する際にも使える。



 反応がある……。



 どうやら、二人は少なくとも発動範囲内——俺の半径100メートル以内——にはいるようだ。



 そして、発動している……ということは、少なくとも彼女たちは無事だ。



 俺はそのことにひとまず安堵する。



「……それにしても随分と余裕な様子ね。二見。この状態でもまだ切り抜けられるとでも思っているの?」

 

 麻耶さんはそう言うと俺をじっと睨んでくる。

 

 どうやら麻耶さんは、俺の顔色の変化を抜け目なく観察しているらしい。

 

 まあ……それはよいのだが……。

 

 むしろ……余裕というか油断という意味では、麻耶さんの方が大分ぬけてはいないか。

 

 俺は現状両手を手錠で拘束されて、両足は椅子に縛り付けられている。

 

 が……それだけなのである。

 

 拘束具には特別な魔法がこめられている様子はない。

 

 当然ながら、こんなものは俺……いや俺に限らずある程度の使い手ならば、何らの障壁にもならない。

 

 そして、麻耶さんは自分自身にも防護魔法を施している形跡はない。

 

 隠蔽……という線もなくはないが、この距離ならば、何らかの痕跡は必ず残るはずである。

 

 防護魔法はその性質上トラップ魔法ではないから、隠蔽するにも限界がある。



 隠蔽系統……トラップ魔法に何度もハマった俺でもさすがに気づけるはずだ。

 

 さらに、極めつけはこの距離である。

 

 麻耶さんは俺の目と鼻の先——半径2メートル以内——にいる。

 

 近接戦闘を専門にする多くのクラスにおいて、この距離は確実に間合い——デッドゾーン——だ。



 敵と認定している相手のそんな至近距離にわざわざ入るとは……。



 自分自身の能力に絶対の自信があり、よほどの豪胆な性格でなければこんな真似はできない。



 俺はある意味で蛮勇に近い麻耶さんの行為に驚いていた。

 

 と、麻耶さんは突然身を乗り出して、さらに俺の近くへと寄ってくる。

 

 この距離でも、不測の事態に対応できる自信があるのか。

 

 と、麻耶さんの大胆すぎる行為に俺はさらに衝撃を覚える。





 

 いや……それとも単に俺をなめているだけなのか。

 

 なら……いい加減この茶番も終わらせた方がよいのではないか。

 

 この女の細い首筋をつかんで、叩きのめして、力の違いを見せてやれ。



『その通り。いつまでこの茶番劇……自己暗示を続けるの? あなたはこの世界でも英雄になれるのよ』



 『彼女』の顔がより鮮明に、その声がより強く頭に響く。



 俺は英雄じゃない……単なる冒険者だ。
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