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第一章
晩餐会-12-
この短期間にどうやって準備をしたのかは皆目検討がつかない。
少なくとも服の採寸をした記憶はない。
俺がやや驚いてそのことを質問すると、花蓮さんと鈴羽さんが互いに顔を見合わせて、「まあ……色々と方法はありますわ」と言葉を濁して微笑していた。
俺は二人のその笑顔を見て、自分の個人情報は彼女たちにすべて筒抜けなのではという確信に近い予感がした。
そう言えば、俺は自分の住所を教えてなかったはずだが、花蓮さん普通に家に来たしな……。
俺は正直なところそのことが少しは気になりはしたが、次々と花蓮さんたちが持ってくる服の山に圧倒されてそれどころではなかった。
それにしても……である。
花蓮さんたち……いささか気合が入り過ぎではないだろうか。
花蓮さんたちからすれば、俺は彼女たちの知人という扱いになるのだろうか。
いずれにせよそんな俺の格好があまりにもみすぼらしいものであったら、花蓮さんたちの名誉にも関わるだろうから、それなりの気合が入るのはわかるが……。
そんなに俺の外見には問題があるのだろうかと思わず鏡を見て、ため息をついてしまう。
まあ……確かに昨日はほとんど一睡もできずにいたから、ただでさえ年齢を重ねて疲れ切った顔に磨きがかかってしまっているが……。
と、俺は鏡に映る自分の顔を見て、ふと考える。
まあ……こういうことをしていた方が少しは気が紛れるかもしれない。
その時、すぐ近くにいた花蓮さんがおもむろに声をかけてきた。
「ふふ、敬三様はどの服を着ても大変お似合いですわ」
花蓮さんは相変わらずお世辞がうまい。
その演技を感じさせない自然な口ぶりでは思わず本当にそうなのでは誤解しかねない。
俺が曖昧な返事をしていると、花蓮さんは、俺の顔をまじまじと見て、
「敬三様……何か気になることでもありますか?」
と、突然神妙な面持ちをする。
「いえ特に何も……ただ馬子にも衣装というか自分にはどれも似合わない気が——」
俺は花蓮さんのその態度の変化にやや戸惑いながらも、適当な返事をしてごまかそうとした。
だが、花蓮さんは俺が返事をする前に、
「本当に……本当に……大丈夫ですか?」
と、酷く心配した顔で俺を見つめてくる。
花蓮さんが本心から俺のことを案じてくれているのはよくわかった。
だが、それにも関わらず俺はその花蓮さんの視線が一瞬どうにも嫌だと思ってしまった。
俺のような天涯孤独のオッサンのことを心配してくれる人間など誰にもいない。
それをこんな美女が一瞬でも気にかけてくれたのだから、本来ならば泣いて感謝すべきなのだろうが……。
今は自分の内心を……いや過去を花蓮さんに知られたくなかった。
花蓮さんのその瞳を見ると、自分の過去が覗かれているようで、どうしても不快に感じてしまう。
「ええ。大丈夫ですよ」
と、俺はそんな内心を隠して、作り笑顔でそう返す。
察しがいい花蓮さんはやはり俺の態度から何かを感じたのだろう。
「敬三様。何か困ったことがあったらいつでもおっしゃってくださいね」
と、いつもの優しげな笑みを浮かべる。
そして、またどこかへ服を取りに行ってしまう。
たった数日間の付き合いだが、花蓮さんがよい人間であることはわかる。
さっきの言葉も完全な社交辞令ではないのだろう。
だが、俺の今の悩みを分かち合うことは決してできないだろう。
花蓮さんに限らず、この世界……いやこの平和な国では土台それは無理というものだ。
しかし、そんな平和な国だからこそ俺は過去の記憶を忘れることができる。
そう思ったのだが……。
俺は改めて全身を映す大きな姿見の前で、自身の姿をあらためて見る。
40代のくたびれたオッサンが上等な燕尾服を着ている。
やはりどうにも違和感がある。
花蓮さんが用意してくれた服装に問題があるのではない。
こんな服より俺には兵士の服装をしている方がよっぽど似合う。
……25年間という年月はあまりにも長すぎたのかもしれない。
結局、俺にとってはもうこの平和な世界……いえこの国が異世界のように思える。
やはり、俺にとってはあの異世界こそが日常……いつまでも争いが耐えないあの世界こそ——。
鏡には兵士の姿をした過去の姿の俺が映っていた。
「敬三様、次の服を着ましょうか?」
花蓮さんが屈託のない笑みを浮かべて戻ってきた。
俺は花蓮さんの方に向き直り、鏡から目を離す。
再度鏡を見た時には兵士の姿は消えていた。
少なくとも服の採寸をした記憶はない。
俺がやや驚いてそのことを質問すると、花蓮さんと鈴羽さんが互いに顔を見合わせて、「まあ……色々と方法はありますわ」と言葉を濁して微笑していた。
俺は二人のその笑顔を見て、自分の個人情報は彼女たちにすべて筒抜けなのではという確信に近い予感がした。
そう言えば、俺は自分の住所を教えてなかったはずだが、花蓮さん普通に家に来たしな……。
俺は正直なところそのことが少しは気になりはしたが、次々と花蓮さんたちが持ってくる服の山に圧倒されてそれどころではなかった。
それにしても……である。
花蓮さんたち……いささか気合が入り過ぎではないだろうか。
花蓮さんたちからすれば、俺は彼女たちの知人という扱いになるのだろうか。
いずれにせよそんな俺の格好があまりにもみすぼらしいものであったら、花蓮さんたちの名誉にも関わるだろうから、それなりの気合が入るのはわかるが……。
そんなに俺の外見には問題があるのだろうかと思わず鏡を見て、ため息をついてしまう。
まあ……確かに昨日はほとんど一睡もできずにいたから、ただでさえ年齢を重ねて疲れ切った顔に磨きがかかってしまっているが……。
と、俺は鏡に映る自分の顔を見て、ふと考える。
まあ……こういうことをしていた方が少しは気が紛れるかもしれない。
その時、すぐ近くにいた花蓮さんがおもむろに声をかけてきた。
「ふふ、敬三様はどの服を着ても大変お似合いですわ」
花蓮さんは相変わらずお世辞がうまい。
その演技を感じさせない自然な口ぶりでは思わず本当にそうなのでは誤解しかねない。
俺が曖昧な返事をしていると、花蓮さんは、俺の顔をまじまじと見て、
「敬三様……何か気になることでもありますか?」
と、突然神妙な面持ちをする。
「いえ特に何も……ただ馬子にも衣装というか自分にはどれも似合わない気が——」
俺は花蓮さんのその態度の変化にやや戸惑いながらも、適当な返事をしてごまかそうとした。
だが、花蓮さんは俺が返事をする前に、
「本当に……本当に……大丈夫ですか?」
と、酷く心配した顔で俺を見つめてくる。
花蓮さんが本心から俺のことを案じてくれているのはよくわかった。
だが、それにも関わらず俺はその花蓮さんの視線が一瞬どうにも嫌だと思ってしまった。
俺のような天涯孤独のオッサンのことを心配してくれる人間など誰にもいない。
それをこんな美女が一瞬でも気にかけてくれたのだから、本来ならば泣いて感謝すべきなのだろうが……。
今は自分の内心を……いや過去を花蓮さんに知られたくなかった。
花蓮さんのその瞳を見ると、自分の過去が覗かれているようで、どうしても不快に感じてしまう。
「ええ。大丈夫ですよ」
と、俺はそんな内心を隠して、作り笑顔でそう返す。
察しがいい花蓮さんはやはり俺の態度から何かを感じたのだろう。
「敬三様。何か困ったことがあったらいつでもおっしゃってくださいね」
と、いつもの優しげな笑みを浮かべる。
そして、またどこかへ服を取りに行ってしまう。
たった数日間の付き合いだが、花蓮さんがよい人間であることはわかる。
さっきの言葉も完全な社交辞令ではないのだろう。
だが、俺の今の悩みを分かち合うことは決してできないだろう。
花蓮さんに限らず、この世界……いやこの平和な国では土台それは無理というものだ。
しかし、そんな平和な国だからこそ俺は過去の記憶を忘れることができる。
そう思ったのだが……。
俺は改めて全身を映す大きな姿見の前で、自身の姿をあらためて見る。
40代のくたびれたオッサンが上等な燕尾服を着ている。
やはりどうにも違和感がある。
花蓮さんが用意してくれた服装に問題があるのではない。
こんな服より俺には兵士の服装をしている方がよっぽど似合う。
……25年間という年月はあまりにも長すぎたのかもしれない。
結局、俺にとってはもうこの平和な世界……いえこの国が異世界のように思える。
やはり、俺にとってはあの異世界こそが日常……いつまでも争いが耐えないあの世界こそ——。
鏡には兵士の姿をした過去の姿の俺が映っていた。
「敬三様、次の服を着ましょうか?」
花蓮さんが屈託のない笑みを浮かべて戻ってきた。
俺は花蓮さんの方に向き直り、鏡から目を離す。
再度鏡を見た時には兵士の姿は消えていた。
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