異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi

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第一章

内閣府ダンジョン対策庁サイド-05-

 松方は、ポケットに入れているタバコを取り出す。

 

 ついで、なんと誰もいないことをよいことに、口元にタバコを取り出し、火をつける。

 

 隣にいる平井が、電話を受けながら、唖然とした顔で松方を見ている。

 

 電子ではなく、昔ながらの紙タバコをクネらせながら、松方の脳裏には思い出したくもない遠い過去が蘇ってくる。

 

 平井……というこの男。

 

 それは松方が封印していた苦い過去を思い起こさせる男であった……。

 

 ダンジョン対策庁は今から12年前の2001年、時の中央省庁再編に合わせて、発足した。

 

 ダンジョン出現という未曾有の事態に政府や各省庁もただ手をこまねいていた訳ではない。

 

 だが、その対応はお世辞にも優れたものとは言えなかった。



 各省庁は自らの省益拡大のために、それぞれ似たような名前のダンジョン対策を司る部署を設立。



 これらの部署は、互いに情報連携もせずにそれぞれ独自の行動を取るのであるから、その結果は火を見るよりも明らかである。

 

 結果として、相次ぐダンジョン関連の事件に対して、その対応は常に後手後手に回ることになった。

 

 それでも、一応は国内世論には目立った反感もなかったから、政治家連中もダンジョン行政を半ば放置していた。

 

 がしかし……国内でおきたあの忌まわしい事件……ついで2001年に起きたあの世界中を震撼させた米国本土の「スタンピード」事件……

 

 これら2つの事件は、日本国内……いや世界中のダンジョンに対する考えを永遠に変えたのであった。



 ダンジョン発見当初から、この未知のモノに対する拭いきれない不安、恐怖といったものは、日本国内に限らず世界中の大衆一般に共有されていた。

 

 それもそのはずで、ダンジョンが突如として出現した原因は今もって不明であるばかりか、その中には未知の物質すら発見されたのである。



 さらには、これまで発見されたことがない生物——モンスター——まで発見されれば、大衆がパニックに陥らなかったのはある意味で奇跡といえるだろう。



 無論……奇跡などという言葉はたいてい体の良い後付の説明のために使われるもので、奇跡などは現実には存在しない。



 ダンジョン発見当初において、大衆世論が比較的沈静化していたのは、単に政府がその情報を可能な限り隠蔽していたからである。



 他国ならいざしらず良い意味でも悪い意味でも、政府の「情報操作」が極めて未熟なこの国において、短期間とはいえそうした「隠蔽」が可能だったのには複数の理由がある。



 第一に98年当時の国内状況にある。



 インターネット回線はようやく大衆に普及しはじめたばかりであり、情報の伝達はもっぱらマスメディアが独占していた。



 そして、そのマスメディアは当初「ダンジョン」にさしたる注目をしていなかった。



 国内——世界——においてにはじめて発見された日本アルプスダンジョン……。



 このダンジョンがこの世界初のダンジョンであったことは今にして考えてみれば幸運であった。



 このダンジョンは、低層階には、モンスターは存在せず、その中の外観もせいぜいが巨大な地下洞窟といったものである。



 発見当初、日本アルプスダンジョンは、今日言われている『ダンジョン』とすら認識されていなかった。



 単なる「地下洞窟の発見」では、マスメディアはそもそも注目しない。



 政府やメディアが注目を向けるようになったのは、調査が進み、未知の物質や生物が発見されてからである。



 だが、その段階にいたっても、少なくとも政府は「ダンジョン」それ自体にさしたる脅威を感じていなかった。

 

 低層階で発見された生物は「未知」とはいえ、人に対する「危険度」はせいぜいが現存する害獣程度であった。



 当初は、「未知の疾病」の危険性がむしろ問題視された。



 だが、現在に至るまでダンジョン由来の「疾病」の発生は確認されていない。

 

 結局、日本政府の認識を一変させ、マスメディアの耳目を集めるようになったのは、「スタンピード事件」の直前に起きた事件だった。



 十数人の調査隊が惨殺され、ついで派遣された警察の部隊までも全滅した事件である。



 そして、その事件は松方のその後の人生も一変させることになる。



 いつの間にか、火はタバコの根本まできていた。



 ち……なんでまたこんなことを思い出しちまうんだろうねえ……。



 松方は細くなったタバコをコーヒーの空き缶に押し付ける。 



 また……何かが起きようとしているってのか。



 国境近くに出現した新ダンジョン、協会内での事件、そして突如として現れた正

体不明の異能の男……。



 不穏な事態が立て続けに起きている。



 だから俺は柄にもなくセンチメンタルになっちまって、昔のことを思い出しているのだろうか。



 松方はさびしくなった口元をさすりながら、窓から外を見る。



 眼下には忙しなく歩く人々の姿があった。



 麻耶はこの国は変わらなければならないと言っていた。



 だが、松方は大戦から78年、そしてダンジョン出現という事態を経ても、変わらずに平和を謳歌しているこの国が好きだった。



 甘いと言われても、米国の核の傘のもとの仮りそめの平和だろうが、平和は平和だ。



 そこに偽物も本物もない。



 変わるのはせいぜい……タバコが職場で吸えなくなる程度で十分だ。



 松方は、缶に落としたタバコの吸い殻を見て、心の中でそううそぶく。



 彼女には彼女の考えた方がある。



 俺は……俺のやり方で、ダンジョンに向き合うしかない。



 だからこそ松方はこの22年間、官庁にとどまっていたのだから……。



 松方は大きなのびをして、体を動かす。



「さあてっと、久々に働くとするか」

 

 そうボソリと声を出し、松方はノッソリと動き出すのであった。 
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