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外伝 〜兄として〜
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しおりを挟む数ヶ月後、マーガレットが留学したいと父母と私に相談してきた。
この頃は、さらにぼんやりした頭で「別に良いのでは」と告げていた。
父母も同じだった。
私たちは、いかにミクを教育して、社交界にデビューさせるかで頭がいっぱいで、自分で『やりたいことをやっている』マーガレットは、自由にさせてやればいいと、それが妹のためだと、本気で思っていた。
そしてこの頃には、エリザベートへの手紙は書かなくなり、エリザベートからも手紙が来なくなっていた。
ハンスも、もう諦めたように指摘してこなくなった。
そして、ハンスはミクがいる所へは絶対に顔を出さなくなった。
執務中にミクが訪ねて来ると、色々と理由をつけて部屋を出る。
不思議に思いながらも、ミクのお茶の相手に忙しい私は引き止めることはしなかった。
後にハンスにこの時のことを尋ねると、彼は複雑な表情をしてこう言った。
「ミク様に近づくと、何故か…そう、全身を蛇が這い回るような感覚を覚えて、近寄ることができませんでした。
離れると消えるので、すぐ部屋から出ていました」
——この感覚を、私が持てていたなら。
私はミクの側にいると、子猫を抱きしめているような安らぎを感じていた。
後に知ったミクの学園での振る舞いと、ミクに恋愛感情を持った多くの貴族子息たち。
私の感覚は、決して恋愛感情では無かった。
言うなれば、マーガレットの立ち位置にミクがすり替わった感じだ。
両親も、きっと同じだったろう。
居ないもののように扱われた、マーガレットの気持ちは。
血の繋がらない義妹を必要以上に大切にしていると、影で囁かれている婚約者を持つエリザベートの気持ちは。
——自分の振る舞いを覚えているからこそ、私は火魔法で焼かれ続けるような、水魔法で溺れ続けるような感覚を味わう。
2人からの信頼は、とうに失ったことだろう。
回復の機会を願うことでさえ烏滸がましいとも思う。
それでも——ミクなど引き取らなければよかった、などとは言えない。
それは我が家に課せられた初代からの使命であり、身分と生活を保証することは、魔獣の大規模侵攻から国を救った聖女への最低限の礼だからだ。
国からも、保護の費用として相当な額の財産を受け取る。
それに、実際ミクは『いい娘』だった。
私が家の聖女保護の使命を、積極的に果たしたいと思うほどには、性格も心根も良かったのだ。
『魅了』の存在を知った今、それが『魅了』によって齎された感覚なのか、本当に自分がそう思ったのか、分からない。
それが、とても、もどかしい。
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