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昼休み
12話
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屋上への扉を開けると、冬華はいつもの場所に座っていた。2人で座る僕にとって大好きな場所。
だけど隣に知らない男が座っていた。
冬華の手元に弁当箱がある。その隣で、知らない男も同じ弁当箱を持って食べていた。
うまい、とか、美味しすぎる、とか言っている声が聞こえる。
冬華が笑っていた。笑っているわけじゃないけど、目が少し緩んでいた。可愛かった。いつも僕に向けてくれる顔に似ていた。
隣にいるの、なに?
胸の中で何かが音を立てる。
弁当を断ったのは僕だ。だから冬華が別の誰かに渡したとしても、文句を言える立場じゃない。わかっている。
でも、あれはなんだ?
あいつは今、冬華が作った弁当を食べている。
きったねえ口を広げて、磨いてるのかもわからない歯で噛み砕き、急所である喉仏が無駄に動いている。
気色悪い。気持ち悪い。だってそんなの泥棒じゃないか。
僕が食べるはずだったものを、あの悪魔は奪っている。もしかしたら、あの悪魔は冬華も奪おうとしてるんじゃないか?
そんなのダメに決まっている。だって冬華は僕にとって、なくてはならない存在で、いなくなったら、僕はどうなる?
奪い返さなくては。そう思った瞬間、冬華がスマホを見て立ち上がった。
「ごめん、バイト先から連絡が来たから気にせず食べてて」
「美味しすぎるからそのつもりだよ」
冬華が屋上から出て行った。奪うなら今しかない。
知らない男がこちらを見た。
「あ、朝比奈?」
「それ」
弁当箱を指差した。
「え、これ?もらったんだけど」
「知ってる」
男の手から箸を奪ってやった。そんなものがないと食べれないくせに。図々しい奴だ。
イライラしてムカついたので思いっきりへし折ってやった。
「え?」
男が音を発する。どうやら鮭は美声効果があるらしい。気持ち悪い音がどこかマシに聞こえる。
へし折った箸をそのまま突っ込んでやろうと思ったが、汚いからやめた。箸に触ると気持ち悪い唾液がついて、冬華を触らなくなる可能性があるから。
男が呆然としてるのをいいことに、冬華のお弁当を奪う。もちろん、食べないわけがない。
こんなゴミクズ小心者の栄養素になるよりよっぽどいいだろう。
手で掴み上げて鮭を食べると、優しい味がして美味しかった。
鮭だった。冬華が作った鮭だ。おいしかった。おにぎりより、ずっとおいしかった。
男がじっとこちらを見ている。
「……彼氏?」
何か音を発していた。目の前の小心者とは酸素を吸うことと二酸化炭素吐くくらいしか共通点がないので、そのまま無視することにした。
男はしばらくそこにいたが、「じゃあ俺行くわ」と言って出て行った。
1人になる。
冬華の弁当が美味しい。鮭と卵焼きとブロッコリー。全部美味しい。本当は箱も齧っていい気がする。
しばらくしてドアが開いた。
「楓?」
「冬華」
「な、何してるの?」
「ご飯食べてる。冬華が作ったお弁当美味しいね」
冬華が固まっていた。折れた箸を見た。僕を見た。弁当箱を見た。また僕を見た。
何か言いたそうな顔をしていたが、何も言わなかった。
僕も何も言わなかった。
ただ、朝から胸の中で音を立てていた何かは、少し静かになっていた。
だけど隣に知らない男が座っていた。
冬華の手元に弁当箱がある。その隣で、知らない男も同じ弁当箱を持って食べていた。
うまい、とか、美味しすぎる、とか言っている声が聞こえる。
冬華が笑っていた。笑っているわけじゃないけど、目が少し緩んでいた。可愛かった。いつも僕に向けてくれる顔に似ていた。
隣にいるの、なに?
胸の中で何かが音を立てる。
弁当を断ったのは僕だ。だから冬華が別の誰かに渡したとしても、文句を言える立場じゃない。わかっている。
でも、あれはなんだ?
あいつは今、冬華が作った弁当を食べている。
きったねえ口を広げて、磨いてるのかもわからない歯で噛み砕き、急所である喉仏が無駄に動いている。
気色悪い。気持ち悪い。だってそんなの泥棒じゃないか。
僕が食べるはずだったものを、あの悪魔は奪っている。もしかしたら、あの悪魔は冬華も奪おうとしてるんじゃないか?
そんなのダメに決まっている。だって冬華は僕にとって、なくてはならない存在で、いなくなったら、僕はどうなる?
奪い返さなくては。そう思った瞬間、冬華がスマホを見て立ち上がった。
「ごめん、バイト先から連絡が来たから気にせず食べてて」
「美味しすぎるからそのつもりだよ」
冬華が屋上から出て行った。奪うなら今しかない。
知らない男がこちらを見た。
「あ、朝比奈?」
「それ」
弁当箱を指差した。
「え、これ?もらったんだけど」
「知ってる」
男の手から箸を奪ってやった。そんなものがないと食べれないくせに。図々しい奴だ。
イライラしてムカついたので思いっきりへし折ってやった。
「え?」
男が音を発する。どうやら鮭は美声効果があるらしい。気持ち悪い音がどこかマシに聞こえる。
へし折った箸をそのまま突っ込んでやろうと思ったが、汚いからやめた。箸に触ると気持ち悪い唾液がついて、冬華を触らなくなる可能性があるから。
男が呆然としてるのをいいことに、冬華のお弁当を奪う。もちろん、食べないわけがない。
こんなゴミクズ小心者の栄養素になるよりよっぽどいいだろう。
手で掴み上げて鮭を食べると、優しい味がして美味しかった。
鮭だった。冬華が作った鮭だ。おいしかった。おにぎりより、ずっとおいしかった。
男がじっとこちらを見ている。
「……彼氏?」
何か音を発していた。目の前の小心者とは酸素を吸うことと二酸化炭素吐くくらいしか共通点がないので、そのまま無視することにした。
男はしばらくそこにいたが、「じゃあ俺行くわ」と言って出て行った。
1人になる。
冬華の弁当が美味しい。鮭と卵焼きとブロッコリー。全部美味しい。本当は箱も齧っていい気がする。
しばらくしてドアが開いた。
「楓?」
「冬華」
「な、何してるの?」
「ご飯食べてる。冬華が作ったお弁当美味しいね」
冬華が固まっていた。折れた箸を見た。僕を見た。弁当箱を見た。また僕を見た。
何か言いたそうな顔をしていたが、何も言わなかった。
僕も何も言わなかった。
ただ、朝から胸の中で音を立てていた何かは、少し静かになっていた。
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