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第二章 破滅の赤

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暗い廊下をペタペタと三人の子供の小さな足が踏み鳴らす。道の左右に並ぶ鉄格子に隔てられた先には、廊下を歩く子供たちと同じ服を着た人間が何人も座り込んでいる。しかしその間を歩く彼らに気づく人間は居らず、先頭を歩く少女に付いて行っている二人は不思議そうにしていた。


「それにしても本当に姿だけじゃなく音も聞こえていないのね…」

「私を起点にした結界から出なければの話ですがね。それにしてもリリーどうかしたんですか?さっきから随分牢の中を気にしているようですけど」

「いや…ちょっとね」

「…もしかして”ロゼッタ”さんでしたっけ?その人と私を間違えて追いかけてきたんですか?」

「俺もそうじゃないかと思った。やたらと街に行きたがるし、そのくせ行先は大体路地や人通りの少ない場所ばかり。何か目的がなきゃ貴族街どころか殆ど屋敷から出たこともないお前が行こうとするわけないもんな。それじゃあその”ロゼッタ”って誰だ?街で知り合った訳はないだろ。ずっと付き添ってきた俺が知らない奴なんて」


ルクレツィアとコーラルツヴァイの視線を受けイングリッドリーリヤは気まずそうに顔を逸らす。ルクレツィアにより再び無効化された何の能力もないただの首枷は、今もそのデコルテに重く存在感を放ち髪と擦れた音がした。勿論会話の間も三人は警戒を怠らないがオークションの会場とは離れているのか、商品である人間たちが居る場所は静かで、リーリヤにはやけにその音が大きく聞こえた。


「ここを出たらちゃんと、話す、わ。だから…」

「分かりました」「分かった」

「え」


リーリヤはあっさりと頷いた二人に呆気にとられ、反対にルクレツィアとツヴァイは緊張感のない雰囲気で歩みを進める。若干遅れた歩調を取り戻すように小走りになったリーリヤは、想像していた彼らの反応との違いが気になっていた。


「き、気にならないの?私はロゼッタ…というかルカが誘拐されるってようなものなのよ?」


特にツヴァイにとってリーリヤの行動は謎でしかなったはずだ。さり気なくを装っていたが街へ行き必ず路地や人目の少ない場所へ辿り着いていては、その意味を考えてしまうのも仕方ないだろう。おまけに街では常に隣にいたツヴァイが認知せず、情報を入手することが難しいリーリヤが知っているという”ロゼッタ”。そんな所に現れ共に攫われたルクレツィア。まるで誘拐されるルクレツィアロゼッタを探していたような行動を、頭の回転が速いツヴァイとルクレツィアが気付かないわけがないのだ。


「んーまぁそのを知っていようが知っていまいが特に不都合はありませんしね!それに謎が多いほど面白そうですし、お二人に仕えるのも退屈しなさそうなので構いません」

「ルカの言う通り。それにお前が何か隠したのも理由があるんだろ?なら言いたくなった時に聞くからそんな不安そうな顔すんな」

「ふふっでも気を付けた方がいいですよ。ツヴァイは聞かないだけで自分から隠してるものを見つけに行くタイプでしょうからね」

「お、ルカはよくわかってんじゃねぇか。ってことでさっさとここを出てコイツ助けるためにも救助呼ぶぞ」


何時しか止まって後ろを向きリーリヤに笑いかけていたツヴァイとルクレツィアは、そう言うと前を向き再び歩き始める。それに励まされるようにリーリヤも歩き出し、ルクレツィアは明るい声で話題を変えた。


「そう言えば先ほどはお二人とも怯えた演技お上手でしたね!まぁツヴァイが針を刺されたときリリーが男の人に飛び掛からないか、少し冷やりとしましたけども」

「本当にな。ルカが上手く隠したがお前の目、凄かったぞ」

「そ!それは…ごめんなさい。言い訳するようだけれど私はツヴァイの剣だもの。主を傷つけられて平然と怯えた演技なんて出来そうになかったの。」


まさかの話題ミスにルクレツィアは冷や汗をかきながらもツヴァイと共に場を明るくしようと声色を明るくする。


「ここまで思われてるなんて俺は幸せ者だな!どうだルカ、これが俺の人徳のなせる業よ」

「あ、私にはこれほどの忠誠心は期待しないでくださいねツヴァイ。その代わり仕事は上手くやるんで!」

「なんて冷めた野郎なんだ。そこはノッて来いよ」

「何よツヴァイ。こんなに健気な婚約者がいるのにまだ欲張るの?」


リーリヤを会話に交えた三人は、陰鬱な牢が並ぶ空間とは対照的に明るい笑顔が目立っていた。しかしそれも子供の小さな足で歩き続け、段々と疲れてきたのか会話は減ってくる。陰鬱な雰囲気と外の光を感じられない場所ゆえに、攫われてからどれだけ時間が経ったのかは分からない。それでも感じる肉体的・精神的疲労は確かで、ツヴァイとリーリヤは自らとは対称的な少女を改めて不思議に思う。それと同時に迷う様子もなく道を突き進む姿が目立っていた。


「ルカ、身体は平気なの?ただでさえ知らない暗い道を進み続けるだけでも気が滅入るのに、もう随分魔法を使い続けて歩き回っているわ」

「え?あぁそうですね、何の問題もないですよ。というか多分リリーが思っているより時間は経っていませんし!お、ここの角を左ですね。もー全く商品管理が厳重過ぎます!かなり複雑な道になっていますよこの地下」

「そうなの?地下の構造まで魔法で分かるものなのかしら?」

「ある程度ならお2人でも出来ると思います。それ以上の…オークション会場まで細かく道を、となると中々難しいんじゃないですかね?魔力で探るとしても相手にバレたら元も子も無いですもん。私は自前の聴覚やら【隠蔽】で隠しながらって感じでやってます」

「いや聴覚って…お前の耳どうなってんだよ」


ツヴァイとリーリヤは奇怪な物を見るような目でルクレツィアの耳に視線を集めた。小さな耳には丸くカットされた紫水晶を垂らすピアスが、道の側壁に吊るされているランプにより仄かに照らされている。その持ち主の瞳に似た色は、キラキラと輝きを放つ彼女の瞳とはどこか違い、温かく、しかし決して手を出してはいけないと思わせる気品が感じられた。魅入られたようにただ足を動かしそのギョクを見つめる2人。しかしそれも彼女の言葉で現実に引き戻された。


「着きました。ここが会場と牢との分岐点みたいです。他にも幾つか部屋があるようですけど、今は不在っぽいので作戦に支障はありません!」

「よし。なら第二段階へ移行するぞ」

「「了解」」









――世界を照らす太陽が一日の別れを告げ、辺りが暗闇に包まれた王都

人々が一日の疲れを癒し眠りについたその時、大地を震わし闇を祓う炎が立ち昇った――























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いい加減牢屋から抜け出したいです

次回 眼前の炎
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