原作を書いたオレはラスボスになるのを全力で拒否してモフモフ達とのんびりします!

新川 さとし

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第1章 魔の森編

第5話 護衛隊長のつぶやき 2

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 メイドや侍従達を騎士で囲んで、先を急がせた。

 しかし、若殿だけを先に行かせてしまった以上、馬車のスピードで良いわけがない。一部だけでも追いかけないとダメだ。

「十騎続け。副長、後は頼む!」

 返事を聞いている余裕なんてない。いけるところまで全力疾走だ。

 だが、魔物との戦いを覚悟するまでもなく、前方から物騒な気配が伝わってくる。しかも、たどり着く前に前方偵察役の二人と出食わした。

「隊長! ヤバいっす」
「ヤバいじゃわからん!」
「キャラバンがやられてます。オーガです。十匹はいます。それにキングもいました!」
「ば、馬鹿な。そんなの何ともならんぞ。いや、若殿ならあるいは? うん、できるかもしれん。メディチ家の麒麟児、将来の帝国魔法院長候補と謳われた若殿なら撃退はともかく、何人かつれて逃げるスキくらいは作れるかも知れん」

 ただでさえオーガは厄介だ。身体がデカいだけのオークなどと違って……いや、オークだって何匹も出たら途轍もない脅威だが、頭が悪い分だけ戦術次第で何とかなる。
 
 だが、オーガは別次元の危険性を持っていた。なにしろオークと違って集団戦術までこなすのだ。脅威度が桁違いになる。今回は十匹だぞ? 公爵家騎士団全軍五千でぶつかっても被害無しに撃退するのは無理だろう。

『まして、キングオーガだと? 見間違いであってくれよ。そんなもん、帝国の本軍が大型兵器を持ち出すレベルじゃネェかよ』

 もちろん、魔法使いが出てくれば話が多少は変わる。

 足止めさえすれば一匹ずつ大魔法を当てて仕留められる。軍の仕事は詠唱中の魔法使いを守り抜くことと足止めだけ。それだって危険だが、自分達で倒そうとしたら、百人が全滅するのと引き換えにして数匹が限界なのだ。魔法使い様々と言える。

『フライを隠していらっしゃったように、他にも若殿が攻撃魔法を隠していらっしゃれば、あるいは、なんとかなるやしれん。全員は無理でも逃げられるかもしれない』

 そこに一縷の望みを掛けるのみ。ここにきて、チラッと悩んだが、オレが命じられたのは「若殿の警護」だ。本体の戦えない者達……メイドや侍従達をどうするかってこと。もちろん、普通ならこの時点で引き帰えさせる。逃げの一手だ。

『だが、いざとなったら連中は囮になるぞ。食われている間に、若殿だけでも逃がせるかもしれない』

 そんな悪魔の囁きを打ち消せないオレだ。

 ともかく戻ってきた偵察隊も無理やり着いてこさせて現場に向かうと、すぐに血なまぐさい風を感じた。

「全体、最大注意! むやみに戦うな。若殿を発見してお支えするのを第一優先だ」

 馬車が三つばかりひっくり返っていた。オーガが十匹以上出てこの程度ですんだっていうのは奇跡みたいなものだろう。ケガ人はチラホラいるが、自力で動いている連中ばかり。

 それにしてもオーガはどこだ?

 商隊の連中は相当、やられたはずだろ? 生き残りがいたら奇跡に近いはずだ。なのに、連中はまるで気が抜けたみたいな動きだ。

 まさかオーガの気が変わって見逃された? いや、ヤツらはそんな甘いことはしない。どこだ? どこにいる?

 まさか、これも連中の戦術かなんかか?

「隊長!」
「なんだ!」

 そんな大声を出したら、オーガの注意を惹きつけちまうじゃネェかよ、このボケ!

 怒りにまかせて声のする方を見ると、例の偵察隊の二人が手槍で道の先を指していた。

「オーガが倒れてます!」
「え?」

 とっさに思ったのは「若殿、すげぇえ!」ってこと。護衛無しでオーガを倒したなんて、さすが! しかし同時に思った。これはヤバい。

「早く若殿をお捜ししろ! これだけの魔法を撃ったんだ。その後がヤバいぞ」

 魔法には詳しくないが、オーガクラスを殺るなら大魔法が必要に決まってる。チラッと見ると上半身が吹き飛んでいる。相当に派手な大魔法らしい。

 いない、いないぞ!

「まさか、倒れてるのか?」
「隊長!」
「何だ!」

 一体何だ、このピンチに、とイラッとしたが、部下達が口々に「隊長」「隊長」と声を上げ始めた。一体何だって言うんだ。

「オーガが倒れてます。全部同じ魔法みたいです」
「何? 魔法…… ってことは若殿だ。それしかない。だとしたら、ヤバいぞ」

 大がかりな魔法は一度放つと、すぐに撃てないものらしい。そして、繰り返し使うと術者の魔力が喪われて最悪の場合、意識を無くすと言われている。

 だからこそ、騎士団は、魔法使いの守り方を徹底して仕込まれるのだ。

 だが、それにしても、十頭以上にもなるオーガを、一人で片付けたというのか? そんなに連発したら、若殿のお命に関わるぞ。

「若殿を発見しました!」

 慌てて向かった。いやな予感しかない。

 いくら麒麟児とは言え、これだけのオーガを一人で片付けるなどありえない。そう思いつつも、頭が吹っ飛んだキングオーガの横を通り抜けて駆けていく。

『いた。若殿? ん、ケガ人か?』

 少女をマントに横たえて若殿が屈み込んでいらっしゃる。

『そうか、亡くなった少女を弔うのか。見ればまだ少女のようだ。いたましい。しかし、若殿ならばこそ、被害がこれだけですんだの…… なにぃい!』

 若殿の前に横たわった、見るからにボロボロな少女が蒼い光に包まれたのだ。

『ヒールか? まさか? あれは、ちょっとした傷にしか使えないんだぞ。いや、となると、案外と軽傷? そんなはずはない。どう見ても死にかけているぞ?』

 オレは奇跡を見ていた。

 ついさっきまで死にかけた顔色だった少女が、見る見る治癒していくではないか。

『あんなもん。帝国魔法院の治療所でも、無理だろ?』

 話にしか聞いたことがないが、あんな強い光のヒールだ。さぞ強力に違いなかった。

 しかも、治療中も若殿は常に両手で魔法を操って少しも息を抜いてない。

 魔法は、使っている時間に比例して疲れがたまる。全力疾走の百倍だぞとは、よく聞く話だ。となれば、今の若殿は全力疾走で馬場を何周も走っているようなもののはず。

 それのに少しも疲れた顔を見せてない。一体、どれほど続けるおつもりだ?

 そのすさまじさ、聖者のような献身ぶりには、ついさっきオーガから救ってもらったこと以上に人々は感動したのかもしれない。

 気が付くと、キャラバンの人間達が若殿を囲んで拝んでいた。

 そりゃ、そうなる。立場がこれじゃなければ、オレがいの一番に拝んでいたはずだ。

 しかし、なにしろ、ここは血の臭いがひどい。ここから逃げないと他の魔物を引き寄せかねないから、オレ達は周辺警戒をせざるを得ないのだ。

 ちょうど本体が到着したところで、治療も終わったらしい。 

「じゃ、後は任せた」

 若殿は照れたように、いそいそと馬車に乗り込んでしまわれた。

「本体は若殿を囲んで出発。半数はキャラバンの移動を手伝え。早く逃げないと、他のが来るぞ!」

 「他のが来る」という言葉で、キャラバンの人間達も我に返ったらしい。

 口々に礼を言いながらも、ひっくり返った荷馬車を戻し、荷物を戻し、一刻も早く逃げようとしていた。

 ついさっき治療してもらった、ピンク色の髪をした美少女…… なんだろう? まるで貴族の娘かと思うほどに美しい娘だ。

「どうか、先ほどのお貴族様にお礼をさせていただきたい」

 泣きながら頼まれてしまった。まあ、そうなるよなぁ。オーガから救ってもらって、その上に、あんなすごいヒールで助けられたら。

 しかも目の前の少女は、エリザベス様と方向性は違っていても、勝るとも劣らない美少女ぶり。

『こりゃ、若殿の側室あたりでも? いやいや、今はそんなことを言っている場合じゃねぇ』

 今のオレ達にできるのは、一刻も早くここから逃げることだ。礼などその後のコトだと娘を説得した。

 それにしても……

 オレ達が到着した時間から見て、オーガの頭を吹き飛ばす大魔法を若殿が連射したのは確実だ。それでも魔力が枯渇しないというか、どうやったら、連射できるんだ? 

 しかも、その直後に、見たこともないほどに強い光を放つヒールを使った。
 
 今までの若殿の魔法とは明らかにレベルが違っていた。これでは帝国イチどころか、この大陸に並ぶものなどいないのではないかと思うほど。

 そして、魔法も素晴らしいが、なんの見返りも求めずに商隊の娘を救い、礼すら言わせないと言うことは、これを「当たり前のこと」と受け止めているはず。

 命がけで人を救ったのに、その謙虚さは、まさにノーブレスオブリージュの見本というにふさわしい。

 今までの傲岸不遜な若殿とは正反対の姿。

 となると、結論は、ただひとつしかありえない。

「若殿の今までのお姿は偽りだ。わざと嫡男を降りようとなさったということだ」

 つまりは、ガイウス様への思いやり、いや、兄弟で争わないようにしたいというお優しさと言うべきか。

 オレは、若殿の思いやりに感動しつつも、やはりメディチ家のことを考えずにいられない。

 見てしまった以上、お館様に報告しないわけにはいかないのだと奥歯を噛みしめたのだ。
  

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
作者より
お気に入りにいれていただき、ありがとうございます。
大感謝です。
明日も、5話UPいたします。
時間がバラバラのため、お気に入りに入れていただけるとお見逃しがなくなります。
応援のつもりでハートを押していただけると、嬉しいです。
ピンクの髪で、身分の低い商家の生まれと言えば、悪役令嬢もののヒロインと相場は決まってますよね!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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