辛かったけど真の彼女ができました

新川 さとし

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第25話 冬来たりなば 2

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 一人、天音のことを考え続けた。

『う~ん。やっぱり合宿以来だよなぁ』

 合宿最終日は、明らかに体調がおかしかった。しかも瞬の目線を避けるかの表情を何度も見せていたのは明らかだった。

 あんな態度を取る天音は初めてだ。「何かやましいことがあったに決まっている」と思ったが、それを問い質すのは可哀想な気がした。

『考えるなよ? 考えたらダメだからな』

 本当の答えはわかっているのに、ワザと気付かないフリをしている。なにしろ、合宿中の各選手の調子は克明にメモしているのだから、気付かない方がおかしい。
 
 あの日、明らかに調子が悪かったのは、もう一人だけいた。

 合宿最終日の午前練。

 常に書いている「個人カルテ」を、改めて見直すまでもない。

 合宿の最終日、二階堂健のページには「寝不足?」とハッキリと書き込んであった。

『ひょっとして、こういう時は天音に直接聞くべきなのかなぁ』

 天音の可愛いけれど、どこかポンコツな顔を浮かべてしまう。そこに「浮気してるだろ」と詰問している自分を思い浮かべると、顔を振ってしまう。

『そんな醜いことは無理だよ』
 
 健との関係を今さら取り沙汰しても仕方がないとも思う。

「結婚を約束したわけじゃないんだし。もしも他の男に天音の目が行ったなら、もっと大きな愛で包んで取り返すさ。それでダメなら仕方ない。裏切りをなじっても心が戻ってくるわけないんだし」

 そんなことを秋口から考えていた瞬だ。そして、冬を越えようとしている今、もう、結論は出たカタチだ。

  永遠に「走る」能力を喪った、あの事故の日からだろうか。それとも亡くなった子どもの兄から「現に、お前は死なかっただろ! お前さえいなければわたるは生きてたんだ!」と迫られたときからだろうか。

 瞬の考え方は常に一歩引いたところにある。

 良かれと思って、とっさに動いた結果、自分にも他人にも最悪の現実となった。だから、成り行きに対して抗《あらが》わない方が良いのだと、常に考えてしまうのだ。

「二階堂を選ぶのなら、それは天音の自由だろ? オレが愛しても、あっちには愛し返す義務なんてないんだからさ」

 一つため息をついた後、机の上に置いたノートに点々と水滴が落ちているのに気が付いた。

「あっ、オレ、泣いてるんだ」

 気が付いた次の瞬間「自分を哀れむのだけは辞めよう、もっと惨《みじ》めになるだけだぞ」と戒《いまし》める。

 涙をふけ、今できることをやれ、楽しいことを考えろ。

 自分に言い聞かせるように声を出した後、ふっと「楽しいこと、か……」と天井を見上げた。

 何が楽しいのか、わからなくなっていた。
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