辛かったけど真の彼女ができました

第３２話 心、凍らせて 1

　陽菜が引き攣った顔で息を呑んだのを、瞬はしっかりと観察している。

　驚きと怒り、そして心配が表情に出ていた。

『優しい子だな。オレに掛ける優しい言葉を探してくれてるんだろ？』

　だが、もしも陽菜が正義感から全てをぶちまけてしまったらマズイ。

　誰にも（陽菜を除けばだが）評価されなくても、走れないなりに頑張ってきた部活だ。カレカノの話で、それが全部なかったことにされたら、高校生活のささやかな「自己満足」さえ得られなくなってしまうだろう。

『それに、オレのことだけじゃない。この子だって』

　おそらく陽菜も傷を負ってしまう。最悪、二階堂のターゲットにされかねないと危ぶむ。

『そうなったら、また世界の全てが敵に回るんだよ』

　最後まで味方になってくれると信じた人は、もういない。あれは、やはり身勝手な幻想に過ぎなかったんだと瞬は自分を嘲笑あざわらった。

　また、自分は判断を誤ったのだと。信じるべきでない人を信じたのがいけないのだ。判断を間違えて傷つくのなら、それは自分だけで十分すぎる。

『この子だけでも関わらないようにしてあげないとな』

　自分のために誰かに傷を負わせるのは、もう絶対に嫌だった。

『だから中途半端に関わってこないよう、この子には徹底的にやらなくちゃだめなんだ』

　瞬は決意していた。陽菜の優しさに対して、とりつく島を与えてしまえば、余計に傷付けることになってしまうのだと。

　でも、本当に、陽菜のためにだけ喋っているのだろうか？　とチラリと自省しながらも瞬の言葉は止まらなかった。

「最初の３カ月かな。カレカノらしいことをしたのは。２学期あたりから、どんどんなくなったな。ついでに言うと、そのあたりから学校以外に外で松永さんと会うこともなくなった」

　ダメだ。「セフレ」の話はさすがにできない。

「今では、メッセでもリアルでも練習のこと以外で話すことは何もないよ。ね？　これなら、最初から、告白は間違いだったと思うのが普通でしょ？」
　　
　自分の言葉が冷え切っていたのはわかっている。心の澱おりとなって溜まったモノを言葉にしたのは初めてだ。壊れそうな胸の中に冷たい水が溢れそうになっていた。