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第1章 受け取るはチート、喪うは退職金?
その4 がん細胞
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オレの頭はオカシクなっているのだろうか? バーチャル空間のハズなのに、白いテーブルを挟んで、紅茶を飲んでいる。
確かに、味覚も嗅覚も、紅茶を知覚していた。テーブルの質感も、ついでに、こっそりとカップを囓ってみたが「本物のティーカップで、本当に紅茶を飲んでいる」としか思えなかった。
「では、あらためまして。サンキシと申します」
「サンキシ?」
こういうゲームでは、神話系の名前を使うコトが多い。その名前に思い当たるモノがなかった、あるいは、中国的な何かなのだろうか?
「私のことを女神と呼んでいただいても、管理者でも、あるいは、そうですね」
ちょっとイタズラな目をしてから「暴れん坊って呼んでくださってもかまいませんわ」とニッコリしてみせる。
登場した時の顔に戻った女性は、そう言った。ん、ちょっとまてよ? 三つの姿。サンキシ…… 暴れん坊……
「おい! タチが悪い! 日本神話のサンキシは、そういう名前の神様がいらっしゃるんじゃなくて、ツクヨミ、アマテラス、スサノオの三柱を指すはずだろ」
思わず言葉が荒くなる。一応、女神と名乗る相手なんだけどな。
「あ、さすがですね。博学、それに、その推理能力。さすがです」
「褒めても何もないですよ。それよりも、説明はしてもらえるんですか? どうやら、普通のゲームではないことは理解できましたけど」
オレは、意図的に口調を改めた。なんとなくオレの意識を、ワザとかき回してきている気がしたのだ。落ち着くには、口調を仕事モードにするに限る。
そう言いながら、周りをさっきから観察しているウチに、この世界には照明も、そして、それに伴う「影」が存在していないことに気付いていた。実在としか思えない物体があって、明るい室内の雰囲気なのに、照明装置がないなんてあり得なかった。
「そうですよ。ちゃんと、光源も、影も存在しないことにお気づきですね。最初から、そこに気付かれる方は少ないんですけど。さすがですね」
ニッコリ。
その笑顔だけを見れば、誰にでも魅力的に見える顔立ちのくせに、一つずつのパーツを見ると、実に曖昧で、特徴がぼやかされている気がした。もしも、絵心があっても、この顔を再現するのは難しいかもしれない。
「存在しないけど実在する場所、それがここです」
「ふう~ なんか、SFチックな展開ですね。では、ちゃんと聞きますから、説明していただけますか?」
「あの、サトシ様は、ライトノベルもお好きなんですよね?」
「すごい調査能力ですね。と言っても、さっきのあの顔。アレが出せるだけ私のことは調べ尽くされてるわけですね。そうです。普通の高校生よりも読んでいると思いますよ」
「それなら、そろそろ受け入れていただけませんか? あなたには転生してご協力いただきたいことがあるんです」
え? これってあれか? オレの肉体が手違いで死んだから転生しろとか言うヤツか?
「いいえ。違います。あなた様の肉体は、今も、あちらの世界、あなたのお部屋の中にあります」
今のは絶対言葉にしてなかった。明らかにオレは考えたことを読まれてると思った瞬間、女神を名乗る女は「はい」と答えた。そして、一つ、小さなため息をこぼしてから「他の方々と同じように、肉体はあちらの世界のままです」と小さく付け足してきた。
ともかく、話を受けいれるしかないのか。それに、これだとひょっとすると洋介の問題にたどり着ける気がした。どうやら、このまま、仕事モードで理性を働かせていた方が良い、とカンが告げていたのだ。長年の教師生活で、相手がウソをついているとなんとなくわかるのだ。同時に、何か大変なことが起きている時は、ちゃんと、何かが頭に引っかかってくれる。
今が、その時だった。
「別世界への転生というのは否定しないんですね? まるで若者が好きなラノベに出てくる展開のようですね」
「そうなんです! さすが、選ばれし方。よくご存じですね!」
オレの皮肉が通じなかったのか、嬉しそうに身を乗り出してきた。いや、それだと、フワフワ生地の内側が見えちゃうから。
慌てて目線を外すと、女も、いや「サンキシ」だったっけ? サンキシも、それに気付いたのか「あっ」と小さく声を出して胸元を押さえたんだ。言っておくけど、オレのせいじゃないぞ? 奥までは見てないし。ぷにゅっと手に余りそうな大きさの膨らみなんて、絶対に見てないからね! って言うか、さっきお辞儀したとき、物理法則を無視してくっついてたはずだよね? 今度は何で見えちゃうんだよ。
真っ赤になった女神は「あの時は気をつけてたんです」と、小さく唇を尖らせてみせる。
オレはその表情を見て、ふと思った。
『ひょっとして、この子、ポンコツ系美人?』
う~ん。あれだけ見事なモノをお持ちなのに。サンキシと名乗る自称女神は、ポンコツ系。 良く見てみると、けっこう可愛いのに男っ気がないというか、男が近づかないタイプが、時々いるよな? うん、こいつ、その雰囲気を持っている。
『見た目が良いけど、中身が残念なタイプ? とりあえず、彼氏無しタイプってことでいい?』
「それダメです! 確かに、デートなんかしたことないんですけど、女神だから仕方ないんです! この世界が何とかなれば、私だって、絶対にイイヒトが現れるんですから!」
妙にリキが入っている女神に、オレは頭を下げるしかなかった。
「あ…… どうも、すみません」
そこから、女神は自分ができる子であることを繰り返し主張して、オレのジト目に気付いて、ようやく自我を取り戻したようだ。
「ごめんなさい。本題に戻りましょう」
「いいですよ。では、あなたのおっしゃることを信じるとして、いったい、サンキシさんは、なんで、一介の国語教師である老骨をご指名で? しかも、何をしろと?」
これについては、本当に理解不能だった。
「この世界は…… あの、あなたに助けていただきたい世界は、バランスが崩れてしまったんです。すべては、魔王が生まれてしまったせいです」
「あなたが女神であるなら、お力をお持ちでしょ? ご自分で取り除いてはいかがですか?」
「えっと、たとえで、説明いたしますけど、あなたなら、ご自分の胃にあるガンって、ご自分の指でつまみ出せますか?」
「なっ! ガンは去年、取ったはずだ!」
「私には見えてます。三カ所ほど。それに、そこから伸びるリンパ腺にも、がん細胞が少しあるようですね」
確かに、味覚も嗅覚も、紅茶を知覚していた。テーブルの質感も、ついでに、こっそりとカップを囓ってみたが「本物のティーカップで、本当に紅茶を飲んでいる」としか思えなかった。
「では、あらためまして。サンキシと申します」
「サンキシ?」
こういうゲームでは、神話系の名前を使うコトが多い。その名前に思い当たるモノがなかった、あるいは、中国的な何かなのだろうか?
「私のことを女神と呼んでいただいても、管理者でも、あるいは、そうですね」
ちょっとイタズラな目をしてから「暴れん坊って呼んでくださってもかまいませんわ」とニッコリしてみせる。
登場した時の顔に戻った女性は、そう言った。ん、ちょっとまてよ? 三つの姿。サンキシ…… 暴れん坊……
「おい! タチが悪い! 日本神話のサンキシは、そういう名前の神様がいらっしゃるんじゃなくて、ツクヨミ、アマテラス、スサノオの三柱を指すはずだろ」
思わず言葉が荒くなる。一応、女神と名乗る相手なんだけどな。
「あ、さすがですね。博学、それに、その推理能力。さすがです」
「褒めても何もないですよ。それよりも、説明はしてもらえるんですか? どうやら、普通のゲームではないことは理解できましたけど」
オレは、意図的に口調を改めた。なんとなくオレの意識を、ワザとかき回してきている気がしたのだ。落ち着くには、口調を仕事モードにするに限る。
そう言いながら、周りをさっきから観察しているウチに、この世界には照明も、そして、それに伴う「影」が存在していないことに気付いていた。実在としか思えない物体があって、明るい室内の雰囲気なのに、照明装置がないなんてあり得なかった。
「そうですよ。ちゃんと、光源も、影も存在しないことにお気づきですね。最初から、そこに気付かれる方は少ないんですけど。さすがですね」
ニッコリ。
その笑顔だけを見れば、誰にでも魅力的に見える顔立ちのくせに、一つずつのパーツを見ると、実に曖昧で、特徴がぼやかされている気がした。もしも、絵心があっても、この顔を再現するのは難しいかもしれない。
「存在しないけど実在する場所、それがここです」
「ふう~ なんか、SFチックな展開ですね。では、ちゃんと聞きますから、説明していただけますか?」
「あの、サトシ様は、ライトノベルもお好きなんですよね?」
「すごい調査能力ですね。と言っても、さっきのあの顔。アレが出せるだけ私のことは調べ尽くされてるわけですね。そうです。普通の高校生よりも読んでいると思いますよ」
「それなら、そろそろ受け入れていただけませんか? あなたには転生してご協力いただきたいことがあるんです」
え? これってあれか? オレの肉体が手違いで死んだから転生しろとか言うヤツか?
「いいえ。違います。あなた様の肉体は、今も、あちらの世界、あなたのお部屋の中にあります」
今のは絶対言葉にしてなかった。明らかにオレは考えたことを読まれてると思った瞬間、女神を名乗る女は「はい」と答えた。そして、一つ、小さなため息をこぼしてから「他の方々と同じように、肉体はあちらの世界のままです」と小さく付け足してきた。
ともかく、話を受けいれるしかないのか。それに、これだとひょっとすると洋介の問題にたどり着ける気がした。どうやら、このまま、仕事モードで理性を働かせていた方が良い、とカンが告げていたのだ。長年の教師生活で、相手がウソをついているとなんとなくわかるのだ。同時に、何か大変なことが起きている時は、ちゃんと、何かが頭に引っかかってくれる。
今が、その時だった。
「別世界への転生というのは否定しないんですね? まるで若者が好きなラノベに出てくる展開のようですね」
「そうなんです! さすが、選ばれし方。よくご存じですね!」
オレの皮肉が通じなかったのか、嬉しそうに身を乗り出してきた。いや、それだと、フワフワ生地の内側が見えちゃうから。
慌てて目線を外すと、女も、いや「サンキシ」だったっけ? サンキシも、それに気付いたのか「あっ」と小さく声を出して胸元を押さえたんだ。言っておくけど、オレのせいじゃないぞ? 奥までは見てないし。ぷにゅっと手に余りそうな大きさの膨らみなんて、絶対に見てないからね! って言うか、さっきお辞儀したとき、物理法則を無視してくっついてたはずだよね? 今度は何で見えちゃうんだよ。
真っ赤になった女神は「あの時は気をつけてたんです」と、小さく唇を尖らせてみせる。
オレはその表情を見て、ふと思った。
『ひょっとして、この子、ポンコツ系美人?』
う~ん。あれだけ見事なモノをお持ちなのに。サンキシと名乗る自称女神は、ポンコツ系。 良く見てみると、けっこう可愛いのに男っ気がないというか、男が近づかないタイプが、時々いるよな? うん、こいつ、その雰囲気を持っている。
『見た目が良いけど、中身が残念なタイプ? とりあえず、彼氏無しタイプってことでいい?』
「それダメです! 確かに、デートなんかしたことないんですけど、女神だから仕方ないんです! この世界が何とかなれば、私だって、絶対にイイヒトが現れるんですから!」
妙にリキが入っている女神に、オレは頭を下げるしかなかった。
「あ…… どうも、すみません」
そこから、女神は自分ができる子であることを繰り返し主張して、オレのジト目に気付いて、ようやく自我を取り戻したようだ。
「ごめんなさい。本題に戻りましょう」
「いいですよ。では、あなたのおっしゃることを信じるとして、いったい、サンキシさんは、なんで、一介の国語教師である老骨をご指名で? しかも、何をしろと?」
これについては、本当に理解不能だった。
「この世界は…… あの、あなたに助けていただきたい世界は、バランスが崩れてしまったんです。すべては、魔王が生まれてしまったせいです」
「あなたが女神であるなら、お力をお持ちでしょ? ご自分で取り除いてはいかがですか?」
「えっと、たとえで、説明いたしますけど、あなたなら、ご自分の胃にあるガンって、ご自分の指でつまみ出せますか?」
「なっ! ガンは去年、取ったはずだ!」
「私には見えてます。三カ所ほど。それに、そこから伸びるリンパ腺にも、がん細胞が少しあるようですね」
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