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地方ロケ 2
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吉野から聞いた通りに、再現VTRが作られていて、終わると、元アイドルの顔のアップになった。既に目に涙が溢れていた。
司会の大御所お笑い芸人が、元アイドルに、
「嬉しかったの?」
「はい、とても嬉しかったです」と手で涙を拭っている。
「世羅さんは覚えてますか?」と言う司会の振りに、
「そんなこと言ったかしら?」と世羅がとぼけたように言い、爆笑が起きた。
また元アイドルに
「ホントだったの?」と司会が追い打ちをかけると、
「本当に言ってくれたんです」と言うと、号泣し始めてしまった。
すぐにカメラが切り替わり、世羅が立ち上がって元アイドルに駆け寄り、ハンカチで涙を拭きながら、
「冗談よ。ちゃんとあなたの活躍見てるから。立派なお芝居ができるようになったわね。これからも頑張ってね」という囁くような声がテレビから流れた。
司会には聞こえなかったらしく、世羅が席に戻ると、
「なんて言ったんですか?」と言うと、
「秘密です」と世羅が横を向いた。
次に元アイドルのアップになり、
「なんて言ってもらったの?」と言われ、
「秘密です。でも、うれじいぃ」とハンカチを握りしめながら、また号泣した。
司会は、元アイドルの隣に座っている若い男性俳優に
「聞こえたか?」と聞き、
「はい、僕が言われてないのに、泣きそうになりました」と言う男性俳優の目がアップになり、目には涙が浮かんでいて、
「泣いとるやないか!」と司会が言って、また爆笑に包まれて、番組は終わった。
「ホントに嫌だわ。やっぱりマイクに拾われてたのね」
「正直、覚えてたんですか?」
「もちろん覚えてないわよ。でも、あのままじゃ、私が薄情みたいじゃない」
「世羅さんは、優しくて愛情深い。僕はよく知ってますよ」
と裕太が顔を近づける。
「止めて。竜二、関係なくなっちゃう」
「僕は姉ちゃんが一番だけど、世羅さんのことも愛してます。だから、世羅さんも竜二が一番で、僕が2番で」
と世羅の首に舌を這わせる。
「あぁん、もう」と裕太の顔を両手で挟み、自分の顔の前に向ける。
「責任とってよね!」
「ずっと大切にする」と舌を絡めた。
その後は、時計を確認して、ベッドへ行った。
そんな関係になるずっと前、裕太の生活を一偏させる決定的なことが起こった。
世羅に映画の話が決まり、全て、九州ロケをすることになった。撮影期間は数ヶ月ということだ。
「九州についてきなさい」
「えっ!でも、バイトが・・・」
「バイト続けて、いくら稼げるの?」
そう言われてしまえば断ることはできない。バイトで稼げるのは、年で300万に届かない。飲まず食わずでも100年で3億には届かない。
店長達に、本当の理由を話せるわけもなく、ちゃんと正社員で働くことになったと嘘の理由を話した。
店長達には、残念だが、新しいところでも頑張って働きなさい、と励ましてもらった。娘だけは何も言わなかった。
本当に申し訳ない気持ちになった。
そして、九州に行った。ホテルは、世羅と同じホテル内の別の部屋を吉野の名前でとっていた
少し撮影の時間が空くと、世羅はホテルに戻ってきて、僕の部屋に来た。
「今日、監督に褒められちゃった」と子供のようなことを言っては甘えてきた。僕はリアクションに困る。
母さんと竜二は2年半に満たない期間しか一緒にいない。世羅が一緒に過ごした時間よりも遥かに短い。
だから、世羅が知っていることの方が当然多い。僕は実際に竜二と会っていないから、教えられないと何もできない。
すると、世羅がこうするのと興ざめした様子で言ってくる。しかし、僕が言われた通りにやると、喜ぶ。
だから、僕は一人ホテルで待たなくてはならない。流石に、ずっと部屋にいるとおかしくなりそうだったので、世羅が出かけると、すぐに走りに行ったり、近くを散歩したりした。
その日の撮影が終わると、次の撮影があるまで、ずっと僕と一緒にいた。
詩織から会いたいと言われても、帰るわけにはいかない。バイトが忙しいと、東京に帰る予定の日以降で、約束をして、なんとか納得してもらった。
そして、竜二でいる時間も、竜二ならどうするのかを考える時間も増え、清水裕太でいる時間がなくなっていった。更に、ここには清水裕太を知っている人は誰もいない。
いつの間にか、日にちも曜日も分からなくなっていた。
そして、自分が誰であるかを考えることもなくなっていた。
司会の大御所お笑い芸人が、元アイドルに、
「嬉しかったの?」
「はい、とても嬉しかったです」と手で涙を拭っている。
「世羅さんは覚えてますか?」と言う司会の振りに、
「そんなこと言ったかしら?」と世羅がとぼけたように言い、爆笑が起きた。
また元アイドルに
「ホントだったの?」と司会が追い打ちをかけると、
「本当に言ってくれたんです」と言うと、号泣し始めてしまった。
すぐにカメラが切り替わり、世羅が立ち上がって元アイドルに駆け寄り、ハンカチで涙を拭きながら、
「冗談よ。ちゃんとあなたの活躍見てるから。立派なお芝居ができるようになったわね。これからも頑張ってね」という囁くような声がテレビから流れた。
司会には聞こえなかったらしく、世羅が席に戻ると、
「なんて言ったんですか?」と言うと、
「秘密です」と世羅が横を向いた。
次に元アイドルのアップになり、
「なんて言ってもらったの?」と言われ、
「秘密です。でも、うれじいぃ」とハンカチを握りしめながら、また号泣した。
司会は、元アイドルの隣に座っている若い男性俳優に
「聞こえたか?」と聞き、
「はい、僕が言われてないのに、泣きそうになりました」と言う男性俳優の目がアップになり、目には涙が浮かんでいて、
「泣いとるやないか!」と司会が言って、また爆笑に包まれて、番組は終わった。
「ホントに嫌だわ。やっぱりマイクに拾われてたのね」
「正直、覚えてたんですか?」
「もちろん覚えてないわよ。でも、あのままじゃ、私が薄情みたいじゃない」
「世羅さんは、優しくて愛情深い。僕はよく知ってますよ」
と裕太が顔を近づける。
「止めて。竜二、関係なくなっちゃう」
「僕は姉ちゃんが一番だけど、世羅さんのことも愛してます。だから、世羅さんも竜二が一番で、僕が2番で」
と世羅の首に舌を這わせる。
「あぁん、もう」と裕太の顔を両手で挟み、自分の顔の前に向ける。
「責任とってよね!」
「ずっと大切にする」と舌を絡めた。
その後は、時計を確認して、ベッドへ行った。
そんな関係になるずっと前、裕太の生活を一偏させる決定的なことが起こった。
世羅に映画の話が決まり、全て、九州ロケをすることになった。撮影期間は数ヶ月ということだ。
「九州についてきなさい」
「えっ!でも、バイトが・・・」
「バイト続けて、いくら稼げるの?」
そう言われてしまえば断ることはできない。バイトで稼げるのは、年で300万に届かない。飲まず食わずでも100年で3億には届かない。
店長達に、本当の理由を話せるわけもなく、ちゃんと正社員で働くことになったと嘘の理由を話した。
店長達には、残念だが、新しいところでも頑張って働きなさい、と励ましてもらった。娘だけは何も言わなかった。
本当に申し訳ない気持ちになった。
そして、九州に行った。ホテルは、世羅と同じホテル内の別の部屋を吉野の名前でとっていた
少し撮影の時間が空くと、世羅はホテルに戻ってきて、僕の部屋に来た。
「今日、監督に褒められちゃった」と子供のようなことを言っては甘えてきた。僕はリアクションに困る。
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すると、世羅がこうするのと興ざめした様子で言ってくる。しかし、僕が言われた通りにやると、喜ぶ。
だから、僕は一人ホテルで待たなくてはならない。流石に、ずっと部屋にいるとおかしくなりそうだったので、世羅が出かけると、すぐに走りに行ったり、近くを散歩したりした。
その日の撮影が終わると、次の撮影があるまで、ずっと僕と一緒にいた。
詩織から会いたいと言われても、帰るわけにはいかない。バイトが忙しいと、東京に帰る予定の日以降で、約束をして、なんとか納得してもらった。
そして、竜二でいる時間も、竜二ならどうするのかを考える時間も増え、清水裕太でいる時間がなくなっていった。更に、ここには清水裕太を知っている人は誰もいない。
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