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心の限界
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しかし、そんな感傷は次の日に目覚めた時には、恐怖に変わっていた。
家に帰ってから大丈夫だったのか、不安で溜まらない。でも、そんなに頻繁に連絡もできない。
それにまた電話して、奥さんが出たら、立ち直れない。
あぁ、そうだ。初めてあった時に名刺をもらった。弁護士の知り合いなんて、珍しいから残しておいたはずだ。
ラックの中を調べてみたら、見つかった。職場の場所は分かった。明日は夜勤明けだから、時間は大丈夫だが、何時くらいに帰るのだろうか?
スマホで会社の周辺を調べる。喫茶店が近くにあった。
ここで待っていれば、前を通るだろうか?でも、初めて会った時のように、外に出ることも多いだろう。
それに下手に変装をして待てば、誰かと間違われて声をかけられる。面倒な体だ。
すると、メールが届いた。
ジュンくんからだ。
『昨日、いつか分からないんですが、ピアスが僕の服に入り込んでたみたいです』と書かれていた。
私はホッとして、耳を触ったら、片方なかった。昨日は嬉しくて、すっかり外すのを忘れていた。
『次の時でいいわよ』と送った。
『いつ会えますか?』
『いい子にするって言ったでしょ』
『もちろんいい子にはしますけど。ダメなんです。今日もシオリさんのこと考えたら、トイレで一人でしちゃって』
『ダメよ。私のことは忘れなさい。できないなら、もう会わないわよ』
『そんなのイヤです。分かりました。連絡待ってます』
『いい子は、また会ってあげるから』
『必ずしてください」
『しつこいわよ』
『ごめんなさい』
スマホを閉じた。
今すぐにでも会いたい。でも、それは永遠に会えなくなること。私も我慢しなければならない。
病院に行くと、職場にタカシが待っていた。人がいない方に連れていく。
「ちょっと!いい加減にして。いられなくなるでしょ」
「分かってるけど、全然話もしてくれないじゃないか」
「私は、もう続ける気は全くないの。奥さんと仲良くしてよ」
「そんなこと言わずに頼むよ。妻とじゃダメなんだ。全然元気にならない。シオリが望むなら、離婚してもいい。そして僕と結婚してくれ。お願いだよ」
「子供を不幸にするつもりもないし、結婚するつもりもない。しつこくするなら、辞めて他のところに行くわよ」
「そっ、それだけは止めてくれ」
シオリは腕時計を見た。
「もう時間だから行くけど、2度とこんなことしないで」
「わっ、分かった。2度としない。だから、話し合おう」
「私は話すことなんかないわ」と職場へと向かった。
職場に戻ると好意の目で見られた。まぁ、みんな知っていることだ。
本当に辞めたくなる。でも、辞められて一番困るのは、みんな自身だ。表立っては普通に接してくる。そこは暗黙の了解だ。
どうせ、今は職場を仕切っているベテランも、昔は同じ穴のムジナだ。もしかしたら、今もかも・・・
そこら辺、小児科病棟は、子供達と接することで気分が紛れる。でも、現実は、心が引き裂かれそうになるほど、みんな重い病気だ。
それでも、みんな表面的には普通に生活している。でも、夜勤の巡回をすると、アチラコチラで泣く声が聞こえる。
私も表面的には、普通の子供として接するようにしている。私は可哀想と思う立場ではない。励ますのも違う。みんな、ほっといても頑張っているんだ。
だから、特別な扱いはしない。イタズラすればちゃんと怒るし、楽しければ一緒に笑う。辛いと言われれば、時間の許す限りそばにいてあげる。子供達と一瞬一瞬を分かち合う。ちゃんと生きてることを感じてもらうために。
胸やお尻を触られるのは日常茶飯事だ。それがどういうことか本人達も分かってないと思う。こっちが、どうしても反応してしまうから、それが楽しいのだろう。
男の子は単純だが、女の子は、彼氏いるの?とか、デートどこに行くの?とか聞いてくる。ウソをつくと、信頼を無くすので、なるべく本当のことを話してあげている。もちろんホテルのことは言わない。
いいなぁ、私もしてみたいと言われてしまうが、元気になったらねという社交辞令も言えない。私は、お父さん泣いちゃうよと答えるようにしている。今度、一時帰宅できたら、お父さんとデートしてあげなよ。喜ぶよと言うと、お父さんじゃヤダと返ってくる。
まぁ、元気にしてくれるのはありがたいのだが、逆に、大人しい子は心配になってしまう。こまめに声をかけるようにはしているが、余りしつこいと、近づいただけで警戒されるようになる。なかなか難しい。
とにかく一日無事に終わることを祈りながら、仕事をしている。多分、みんなもそうだと思う。でも、ここは死に一番近い場所だということも、みんな覚悟している。
無事に交代の時間となった。一応周囲を警戒して、病院の外に出た。誰も待っていない。大丈夫そうだ。
ホッと安心すると、ジュンくんのことが頭に浮かぶ。
会いたいよ。ホテルじゃなくて、前のように食事をしながら楽しく話しもしたい。でも、もう許されない。ホテルへ直行して、終わったら帰るだけだ。
もう会えないと思った時は、会えるだけで嬉しかったが、どうしても欲が出てしまう。
いっそのこと本当に病院を変えて、若い医者とでも結婚してしまおうか。そうジュンくんに言ったら、何て言うのだろう。
離婚するって言うだろうか?離婚させて結婚しても、彼のことだから、ずっと2人と子供に申し訳ないという気持ちを持ち続けるだろう。それが引き金となりかねない。
それこそ、記憶をなくしてくることを話してしまおうか?そうすれば離婚するようなことはないだろう。そして、もう2度と誰かと不倫するようなこともないだろう。
その方が、みんな幸せになれるかな?今すぐというわけではないけど、ずっとビクビクし続けるのは、こんな私でも心が持ちそうにない。
数日後、帰宅途中に、ジュンくんからメールが来た。
私は目を見開いた。
『ごめんなさい。連絡を待つつもりだったんですけど。本当にごめんなさい。
本当は電話したいんですけど、うまく話せそうにないので、メールします。
スミレさんから電話がありました・・・」
家に帰ってから大丈夫だったのか、不安で溜まらない。でも、そんなに頻繁に連絡もできない。
それにまた電話して、奥さんが出たら、立ち直れない。
あぁ、そうだ。初めてあった時に名刺をもらった。弁護士の知り合いなんて、珍しいから残しておいたはずだ。
ラックの中を調べてみたら、見つかった。職場の場所は分かった。明日は夜勤明けだから、時間は大丈夫だが、何時くらいに帰るのだろうか?
スマホで会社の周辺を調べる。喫茶店が近くにあった。
ここで待っていれば、前を通るだろうか?でも、初めて会った時のように、外に出ることも多いだろう。
それに下手に変装をして待てば、誰かと間違われて声をかけられる。面倒な体だ。
すると、メールが届いた。
ジュンくんからだ。
『昨日、いつか分からないんですが、ピアスが僕の服に入り込んでたみたいです』と書かれていた。
私はホッとして、耳を触ったら、片方なかった。昨日は嬉しくて、すっかり外すのを忘れていた。
『次の時でいいわよ』と送った。
『いつ会えますか?』
『いい子にするって言ったでしょ』
『もちろんいい子にはしますけど。ダメなんです。今日もシオリさんのこと考えたら、トイレで一人でしちゃって』
『ダメよ。私のことは忘れなさい。できないなら、もう会わないわよ』
『そんなのイヤです。分かりました。連絡待ってます』
『いい子は、また会ってあげるから』
『必ずしてください」
『しつこいわよ』
『ごめんなさい』
スマホを閉じた。
今すぐにでも会いたい。でも、それは永遠に会えなくなること。私も我慢しなければならない。
病院に行くと、職場にタカシが待っていた。人がいない方に連れていく。
「ちょっと!いい加減にして。いられなくなるでしょ」
「分かってるけど、全然話もしてくれないじゃないか」
「私は、もう続ける気は全くないの。奥さんと仲良くしてよ」
「そんなこと言わずに頼むよ。妻とじゃダメなんだ。全然元気にならない。シオリが望むなら、離婚してもいい。そして僕と結婚してくれ。お願いだよ」
「子供を不幸にするつもりもないし、結婚するつもりもない。しつこくするなら、辞めて他のところに行くわよ」
「そっ、それだけは止めてくれ」
シオリは腕時計を見た。
「もう時間だから行くけど、2度とこんなことしないで」
「わっ、分かった。2度としない。だから、話し合おう」
「私は話すことなんかないわ」と職場へと向かった。
職場に戻ると好意の目で見られた。まぁ、みんな知っていることだ。
本当に辞めたくなる。でも、辞められて一番困るのは、みんな自身だ。表立っては普通に接してくる。そこは暗黙の了解だ。
どうせ、今は職場を仕切っているベテランも、昔は同じ穴のムジナだ。もしかしたら、今もかも・・・
そこら辺、小児科病棟は、子供達と接することで気分が紛れる。でも、現実は、心が引き裂かれそうになるほど、みんな重い病気だ。
それでも、みんな表面的には普通に生活している。でも、夜勤の巡回をすると、アチラコチラで泣く声が聞こえる。
私も表面的には、普通の子供として接するようにしている。私は可哀想と思う立場ではない。励ますのも違う。みんな、ほっといても頑張っているんだ。
だから、特別な扱いはしない。イタズラすればちゃんと怒るし、楽しければ一緒に笑う。辛いと言われれば、時間の許す限りそばにいてあげる。子供達と一瞬一瞬を分かち合う。ちゃんと生きてることを感じてもらうために。
胸やお尻を触られるのは日常茶飯事だ。それがどういうことか本人達も分かってないと思う。こっちが、どうしても反応してしまうから、それが楽しいのだろう。
男の子は単純だが、女の子は、彼氏いるの?とか、デートどこに行くの?とか聞いてくる。ウソをつくと、信頼を無くすので、なるべく本当のことを話してあげている。もちろんホテルのことは言わない。
いいなぁ、私もしてみたいと言われてしまうが、元気になったらねという社交辞令も言えない。私は、お父さん泣いちゃうよと答えるようにしている。今度、一時帰宅できたら、お父さんとデートしてあげなよ。喜ぶよと言うと、お父さんじゃヤダと返ってくる。
まぁ、元気にしてくれるのはありがたいのだが、逆に、大人しい子は心配になってしまう。こまめに声をかけるようにはしているが、余りしつこいと、近づいただけで警戒されるようになる。なかなか難しい。
とにかく一日無事に終わることを祈りながら、仕事をしている。多分、みんなもそうだと思う。でも、ここは死に一番近い場所だということも、みんな覚悟している。
無事に交代の時間となった。一応周囲を警戒して、病院の外に出た。誰も待っていない。大丈夫そうだ。
ホッと安心すると、ジュンくんのことが頭に浮かぶ。
会いたいよ。ホテルじゃなくて、前のように食事をしながら楽しく話しもしたい。でも、もう許されない。ホテルへ直行して、終わったら帰るだけだ。
もう会えないと思った時は、会えるだけで嬉しかったが、どうしても欲が出てしまう。
いっそのこと本当に病院を変えて、若い医者とでも結婚してしまおうか。そうジュンくんに言ったら、何て言うのだろう。
離婚するって言うだろうか?離婚させて結婚しても、彼のことだから、ずっと2人と子供に申し訳ないという気持ちを持ち続けるだろう。それが引き金となりかねない。
それこそ、記憶をなくしてくることを話してしまおうか?そうすれば離婚するようなことはないだろう。そして、もう2度と誰かと不倫するようなこともないだろう。
その方が、みんな幸せになれるかな?今すぐというわけではないけど、ずっとビクビクし続けるのは、こんな私でも心が持ちそうにない。
数日後、帰宅途中に、ジュンくんからメールが来た。
私は目を見開いた。
『ごめんなさい。連絡を待つつもりだったんですけど。本当にごめんなさい。
本当は電話したいんですけど、うまく話せそうにないので、メールします。
スミレさんから電話がありました・・・」
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