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番外編 名前
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恐る恐る折り返してみる。
「もしもし、塩田さんですか?」
懐かしい声。涙が出そうになる。
でも、もう2度と過ちは繰り返してはならない。
「はい」
「あっ!女性ですか?」
「そうですけど」
「すいません。訳が分からないと思うんですけど、実は記憶をなくしてしまって」
「えっ!そうなんですか!それは、大変!」
「僕のこと知ってるんですよね?」
「まぁ、仕事の関係で、少しなら知ってますけど」
「そうですか・・・」
「すいません。お役に立てないみたいで」
「知ってる範囲で構わないんですけど、僕って、どんな人間でしたか?」
「白石純太さんで、奥さんのこと、美人だって自慢げに話してましたよ。お子さんも可愛いって」
「そんなにいいヤツではなかったみたいですね。そんなことするなんて」
「でも、実際にきれいな奥さんですよね?」
「まぁ、そうなんです。僕には信じられないくらい美人で。驚いてます」
「それは良かったですね」
「あの、すいません。塩田さん会えませんか?」
「えっ!なっ、なんでですか?」
「凄い話しやすいんです。僕とけっこう話しませんでしたか?」
「そっ、そんなことはないですけど。会社の人を通じてお会いしただけなので」
「そうですか・・・」
会いたい、会いたいよぉ。そして、また私の身体を愛してほしい。
「分かりました。すいません、突然お電話して、訳の分からないことを話してしまって」
「いえ、大丈夫です。でも、声はそんなに落ち込んでないように聞こえますが」
「あぁ、記憶喪失だって分かって、しばらくは何もする気が起きなかったんですけど、子供もいるので、僕ができることから始めようかと思いまして」
「そうなんですね。早く記憶が戻るといいですね」
私のことを思い出して欲しいけど。自殺したことは思い出して欲しくない。きっと、ジュンくんのことだから、またやるに違いない。
「最後に一つだけいいですか?」
「はい、なんでしょうか?」
「塩田さんは、シオリという名前ではないですか?」
「えっ!」それから声がしばらく出なかった。
「ちっ、違いますけど、その名前に何かあるんですか?」
「夢に時々出てくるんです。顔は分からないんですが、とても大切な人のような感じで、僕がその名前を呼ぶんです。奥さんとは違う名前なのに」
涙が溢れてくる。こんなになりながらも、私のことを覚えてくれている。
「塩田さん?」
涙を手でぬぐう。
「私の周りにも、その名前の人はいません。ごめんなさい、もう力になれることはないと思います」
「長い時間、ありがとうございました」
「いえ、一つだけ私からもいいですか?」
「はぁ、なんでしょうか?」
「昔の自分を探したい気持ちは分かります。自分が分からないことは、とても不安に思うと思います。
でも、今のあなたは、あなた自身です。奥さんと、また新たに恋愛して、お子さんは、新たに産まれたように愛する。
いつ戻るか分からないものを探す時間より、これからどうするのかを見つけた方が、手っ取り早くないですか?
こうして、白石さんは私と話せてる。昔の自分なら、どう話したんだろうと考えるより、今の自分の心に従って話せばいいんです。それが誰でもない、あなた自身です」
「うん、ありがとう。少し時間は掛かるかもしれないけど、そう思えるようになるよ」
「頑張んなくていいんです。自分の気持ちに素直でいるのが、あなただから。じゃあ、切りますね」
急いで電話を切る。
「はぁっ」顔を上げる。
もう出ないようにしよう。どうしても会いたくなってしまう。
流石に着信拒否はできない。何か失礼なことをしたのではないか、と考えてしまうだろう。返って目立ってしまう。
スマホをベッドの奥に投げる。
「でも、少し元気になったみたいで良かった」
「もしもし、塩田さんですか?」
懐かしい声。涙が出そうになる。
でも、もう2度と過ちは繰り返してはならない。
「はい」
「あっ!女性ですか?」
「そうですけど」
「すいません。訳が分からないと思うんですけど、実は記憶をなくしてしまって」
「えっ!そうなんですか!それは、大変!」
「僕のこと知ってるんですよね?」
「まぁ、仕事の関係で、少しなら知ってますけど」
「そうですか・・・」
「すいません。お役に立てないみたいで」
「知ってる範囲で構わないんですけど、僕って、どんな人間でしたか?」
「白石純太さんで、奥さんのこと、美人だって自慢げに話してましたよ。お子さんも可愛いって」
「そんなにいいヤツではなかったみたいですね。そんなことするなんて」
「でも、実際にきれいな奥さんですよね?」
「まぁ、そうなんです。僕には信じられないくらい美人で。驚いてます」
「それは良かったですね」
「あの、すいません。塩田さん会えませんか?」
「えっ!なっ、なんでですか?」
「凄い話しやすいんです。僕とけっこう話しませんでしたか?」
「そっ、そんなことはないですけど。会社の人を通じてお会いしただけなので」
「そうですか・・・」
会いたい、会いたいよぉ。そして、また私の身体を愛してほしい。
「分かりました。すいません、突然お電話して、訳の分からないことを話してしまって」
「いえ、大丈夫です。でも、声はそんなに落ち込んでないように聞こえますが」
「あぁ、記憶喪失だって分かって、しばらくは何もする気が起きなかったんですけど、子供もいるので、僕ができることから始めようかと思いまして」
「そうなんですね。早く記憶が戻るといいですね」
私のことを思い出して欲しいけど。自殺したことは思い出して欲しくない。きっと、ジュンくんのことだから、またやるに違いない。
「最後に一つだけいいですか?」
「はい、なんでしょうか?」
「塩田さんは、シオリという名前ではないですか?」
「えっ!」それから声がしばらく出なかった。
「ちっ、違いますけど、その名前に何かあるんですか?」
「夢に時々出てくるんです。顔は分からないんですが、とても大切な人のような感じで、僕がその名前を呼ぶんです。奥さんとは違う名前なのに」
涙が溢れてくる。こんなになりながらも、私のことを覚えてくれている。
「塩田さん?」
涙を手でぬぐう。
「私の周りにも、その名前の人はいません。ごめんなさい、もう力になれることはないと思います」
「長い時間、ありがとうございました」
「いえ、一つだけ私からもいいですか?」
「はぁ、なんでしょうか?」
「昔の自分を探したい気持ちは分かります。自分が分からないことは、とても不安に思うと思います。
でも、今のあなたは、あなた自身です。奥さんと、また新たに恋愛して、お子さんは、新たに産まれたように愛する。
いつ戻るか分からないものを探す時間より、これからどうするのかを見つけた方が、手っ取り早くないですか?
こうして、白石さんは私と話せてる。昔の自分なら、どう話したんだろうと考えるより、今の自分の心に従って話せばいいんです。それが誰でもない、あなた自身です」
「うん、ありがとう。少し時間は掛かるかもしれないけど、そう思えるようになるよ」
「頑張んなくていいんです。自分の気持ちに素直でいるのが、あなただから。じゃあ、切りますね」
急いで電話を切る。
「はぁっ」顔を上げる。
もう出ないようにしよう。どうしても会いたくなってしまう。
流石に着信拒否はできない。何か失礼なことをしたのではないか、と考えてしまうだろう。返って目立ってしまう。
スマホをベッドの奥に投げる。
「でも、少し元気になったみたいで良かった」
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