子猫を拾ったはずなんだけど

ぱるゆう

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大切なこと

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「悪い猫ではないようだ。だから、すぐに別れろとは言わん。でもな、さっきも言ったが、人間と猫は違う」井伊は変わらず優しい口調で話している。

「そっ、そんなことできません。別れるなんて!」

「でもな、若菜くん、冷静になって考えてくれ」

「僕は冷静です!」つい口調が強くなってしまった。

「落ち着けと言う方が無理か。私は命令するつもりはない。あくまでも未来のことを話すだけだ」

「ふぅ~」と僕は息を吐き、
「大変失礼いたしました」と深く頭を下げた。

「いや、気にしないで顔を上げてくれ」

僕は顔を上げた。井伊は優しそうな目で僕を見ていた。

「いいか?猫の寿命は何歳か知ってるか?」

「はい、長くても20年から30年だと思います」

「今、君は何歳だ?」

「28です」

「そうすると、30年生きたとして、君は58だ。58で君は一人残されることになる」

僕はまた目を見開いた。
そうだ!またミャーコのように当然とユリもいなくなる。それを忘れていた。

「やはり分かっていなかったようだな。人間も病気や事故で突然の別れがある。しかし、猫は寿命なんだ。君よりも早くどんどん年を取っていく。君はそれに耐えられるのか?猫の身体がボロボロになっても、あと1日、あと1日と引き延ばそうとしないか?それがどんな結果を生むかは知っているのか?」と優しい口調で井伊は言った。

「はい、肉体が溶け始めると言っていました」

「そうだ。妖力を使っても無理なんだ。君はその覚悟があるのかい?」

「いえ、考えたことがなかったので」僕は絶望に包まれていた。

「そうか。まぁ、長く一緒にいればいるだけ辛くなる。早く別れることを勧める。そして人間の相手を見つけるんだ」

人間の相手か・・・、それは無理なんだ。
「ありがとうございます。こんな大切なことを忘れていたなんて・・・」僕は深く頭を下げた。目に涙が溢れてきた。

「猫の方はあっさりとしたもんだ。もし君に人間の恋人ができたなら、普通の猫として一緒に暮らすことができるさ」

「そんなものでしょうか?」僕は涙を拭いて、顔を上げた。

「前に猫は飼ってたのかい?」

「はい」

「猫は非常に人間の影響を受けやすい。顔色を伺っていると言った方が分かりやすいかな。だから、飼い主の幸せを一番に考えている」

「分かりました。一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「何だい?」

「先ほど、悪い猫ではない、とおっしゃいましたが、悪い猫と言うのもいるのでしょうか?」

「あぁ、いる。ただし、猫は悪くない。悪いことを考えている人間の影響を受けてしまうんだ。生霊と言う言葉を聞いた事があるかい?」

「はい、言葉は」

「怨念に取り憑かれた人間の魂が、肉体を飛び出して、相手に襲いかかるのが生霊だ。まぁ、これは物語の話だ」

「実在しないんですか?」

「死んだ後、つまり肉体を失った後なら、人間にも霊力というものを得ることがある。でも肉体があるうちは無理なんだ」

「そうなんですね」

「しかし、猫は違う。長生きする間に妖気を身にまとい、妖力を使うことができる。人間の怨念や恨み、憎しみに影響を受け、人間の代わりに相手を襲ってしまうことがある。しかし、妖力にも限界はある。妖力を超えた力を使ったなら、猫にも代償はくる」

「代償とは?」

「通常なら生命力、つまり命だ」

「死んでもいいから、飼い主の恨みを晴らすことがあると?」

「そういう可能性があると言うだけだ。そう簡単なことではない」

「とても勉強になりました」

「いいかい?しつこいが、なるべく早く決断するんだ」

「心配していただいているのに大変申し分けございませんが、今は何とも言えません」

「そうか。私もしつこくしたくはない。今後は何も言わない。だから、これからもいい色の料理を頼む」

「はい。それは心して、今まで以上の料理を召し上がっていただきたいと思っています」

「安心した。さっ、今日はこの辺で帰るかな」

「はい、重ね重ねありがとうございます」と深く頭を下げてから、戸を開いた。

井伊は帰り、調理場にも誰もいなかった。出口には房江さんもいなかったので、家へと向かった。


帰り道を歩きながら考えた。
どうしよう?ユリとの別れか。

ミャーコのいなくなった時を思い出した。

いつかその日が来るとは漠然と思っていた。でも、実際にいなくなってしまうと寂しくて仕方なかった。今回は人間としてのユリとも関わってしまった。井伊さんが言った通り、もう一日と言って、年老いたユリを引き止めてしまうだろう。息をするにも辛そうにしてるのに。

でも、離れたくない。


    
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