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春ちゃんはどう?
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そして、次の定休日前の閉店後、房江さんから誘われた。
「いらっしゃい。あら?若ちゃん、毎週来るなんて珍しい。美弥ちゃんに会いに?」
「今日は、房江さんのお誘いで」と、とりあえず濁しておいた。まぁ、閉店までいるから、バレるんだけど。
事情の知らない房江さんに僕と美弥の関係を説明した。
「あら?随分と偶然ね?」と房江さんは何かを勘ぐってるようだ。
あっ!もしかして春ちゃんから特徴を聞かされたりしてるんだろうか?でも、彼女を、こんな店と言っては失礼だが、働かせないとならない程、僕の給料が安くないことは房江さんも分かっているはずだ。
「本当に奇跡みたいです」と正直に言ってみる。
「ふ~ん」とだけ房江さんは言って、真奈美さんに、
「若ちゃん、店辞めちゃうのよ」と言った。
「えっ?どうしたのよ?」と真奈美さんはコンプライアンス通り驚いた顔をした。
「実は妹が結婚することになって、一人で実家の定食屋をやるのは可哀想だと思って。今まで任せっきりにしてきたので、兄としてここは助太刀しないと、安心して子供も産めませんよ」
「あら?そうなのぉ。残念だけど、お兄ちゃんとしては偉いわよ」
「全く兄らしいことなんて今まで何もしてこなかったので、恩返しです」
「彼女は連れてくの?」と房江さんは言った。
あっ!マズい!美弥ちゃんの耳に入ったら、ややこしい事になる。
「とっくに別れましたよ。仕込みだなんだで店にいる時間が長いので、愛想を尽かされました」
「そうだったの。それなら、うちの春香を連れて帰ってもいいわよ。私と同じで客商売は向いてるから」房江さんは笑顔で言った。
おいおい、人の別れ話を喜ぶな、と思ったが、
「田舎ですよ。春ちゃんみたいな若い子は退屈しちゃいますよ」
「大丈夫よ。あの子安産型だから、ポンポン子供産んで、遊んでる暇なんてないわ」と笑顔で続けた。
「いやぁ、歳が違い過ぎますって」
「そんなの結婚しちゃえば気にならないわよねぇ」と、人生のベテランの真奈美さんに同意を求めた。
「まぁ、精神年齢は男の方が低いから、歳なんて好きになっちゃえば関係ないわね」
「そんなもんですか?」
2人のベテランは同時に頷いた。しかし、そうですか、よろしくお願いします、とは決して言えない。
「しばらくは彼女を作る気は起こりそうにありません」
「いいのよ。同棲して、いつの間にか結婚なんてことは、よくある話だから」
いやいや、好きでもない相手と同棲することは、よくある話じゃないだろ。
「とにかく、今は一人でいたいんです。実家の母親からは、戻ってきたら見合いさせるからって言われて、ウンザリしてるんですから」
「見合いするくらいなら、うちの春香でも良くない?」
「妹の結婚生活を見て、結婚したいなって思ってから考えますので、春ちゃんは、別の相手を探した方が早いです。少なくとも4、5年はするつもりはありません」
「それでも、まだ春香、20歳そこそこだから」
少しうんざりしてきた所で、
「真奈美さん」と声が聞こえた。振り向くと、美弥ちゃんだった。
「あちらのお客さんから呼んできてくれって」
「今行く」と一人のベテランが去って行った。
僕は、天から助けが来たような顔で、美弥ちゃんを見た。
「いらっしゃい。若菜くん」
「美弥ちゃん、ありがとう」
「えっ?」
もうしょうがない。房江さんの話を終わらせるためだ。
「今日も閉店までいるから、一緒に帰ろう」
「悪いよ」
「悟史くんにも会いたいし」
「あの後、お兄ちゃん、いつ来るの?って大変だったんだよ」
「だから、今日行く。あっ、明日か。美弥ちゃんが気にしないなら、午前中くらいなら遊べる」
「寝なくちゃ」
「昼から寝るから大丈夫だよ」
そこに、
「美弥ちゃん」と声がした。
「は~い、行きます」と美弥は振り返って言って、
「後でね」と言い残して行った。
「ふ~ん」と房江さんは、つまらなそうな声を出して、いつも通りのウーロンハイを飲みながら、カラオケの曲を選び始めた。
僕は美弥ちゃんの方を見た。他のお客さんと楽しそうに話している。
ここに来る前も似たような店にいたんだよな、と頭に浮かんだ。まぁ、僕とは正反対で、高校時代から明るく誰とでも仲良くなれる性格だから、本人に合っていると言えば合っているのかもしれない。
「はい、若ちゃんも」と房江さんからカラオケの本を渡された。
「選ぶまでもないんですけど」と毎回同じことを言う。
「じゃあ、先にこれ歌って」とリクエストされた。
僕はリモコンで番号を打ち込んでから、あっ!と思った。前回は無理矢理歌わせる人がいなかったから、美弥ちゃんの前で歌っていない。正直、恥ずかしい。上手い下手よりも、まだ高校当時と同じ曲なのか、という部分だ。変えたいが、あの頃からほとんど曲なんて聴かないから、他のが分からない。
房江さんが歌い終わって戻ってきた。次の曲のイントロが流れ始めた。
キャンセルするにも、顔なじみの客から、
「次は若ちゃんか」という声の後拍手が起こった。
僕は軽く会釈をしながら、狭いステージに立った。恥ずかしくて美弥ちゃんの方を見れない。もはや歌詞なんて見なくても歌えるのだが、ずっとモニターを見て歌った。
歌い終わって、また
「今日も上手かった!」と声と拍手に包まれながら、軽く会釈してそそくさと席に戻った。
いつも通りの時間に、
「そろそろ帰るわ」と、また、つまらなそうに房江さんは言って帰って行った。
「いらっしゃい。あら?若ちゃん、毎週来るなんて珍しい。美弥ちゃんに会いに?」
「今日は、房江さんのお誘いで」と、とりあえず濁しておいた。まぁ、閉店までいるから、バレるんだけど。
事情の知らない房江さんに僕と美弥の関係を説明した。
「あら?随分と偶然ね?」と房江さんは何かを勘ぐってるようだ。
あっ!もしかして春ちゃんから特徴を聞かされたりしてるんだろうか?でも、彼女を、こんな店と言っては失礼だが、働かせないとならない程、僕の給料が安くないことは房江さんも分かっているはずだ。
「本当に奇跡みたいです」と正直に言ってみる。
「ふ~ん」とだけ房江さんは言って、真奈美さんに、
「若ちゃん、店辞めちゃうのよ」と言った。
「えっ?どうしたのよ?」と真奈美さんはコンプライアンス通り驚いた顔をした。
「実は妹が結婚することになって、一人で実家の定食屋をやるのは可哀想だと思って。今まで任せっきりにしてきたので、兄としてここは助太刀しないと、安心して子供も産めませんよ」
「あら?そうなのぉ。残念だけど、お兄ちゃんとしては偉いわよ」
「全く兄らしいことなんて今まで何もしてこなかったので、恩返しです」
「彼女は連れてくの?」と房江さんは言った。
あっ!マズい!美弥ちゃんの耳に入ったら、ややこしい事になる。
「とっくに別れましたよ。仕込みだなんだで店にいる時間が長いので、愛想を尽かされました」
「そうだったの。それなら、うちの春香を連れて帰ってもいいわよ。私と同じで客商売は向いてるから」房江さんは笑顔で言った。
おいおい、人の別れ話を喜ぶな、と思ったが、
「田舎ですよ。春ちゃんみたいな若い子は退屈しちゃいますよ」
「大丈夫よ。あの子安産型だから、ポンポン子供産んで、遊んでる暇なんてないわ」と笑顔で続けた。
「いやぁ、歳が違い過ぎますって」
「そんなの結婚しちゃえば気にならないわよねぇ」と、人生のベテランの真奈美さんに同意を求めた。
「まぁ、精神年齢は男の方が低いから、歳なんて好きになっちゃえば関係ないわね」
「そんなもんですか?」
2人のベテランは同時に頷いた。しかし、そうですか、よろしくお願いします、とは決して言えない。
「しばらくは彼女を作る気は起こりそうにありません」
「いいのよ。同棲して、いつの間にか結婚なんてことは、よくある話だから」
いやいや、好きでもない相手と同棲することは、よくある話じゃないだろ。
「とにかく、今は一人でいたいんです。実家の母親からは、戻ってきたら見合いさせるからって言われて、ウンザリしてるんですから」
「見合いするくらいなら、うちの春香でも良くない?」
「妹の結婚生活を見て、結婚したいなって思ってから考えますので、春ちゃんは、別の相手を探した方が早いです。少なくとも4、5年はするつもりはありません」
「それでも、まだ春香、20歳そこそこだから」
少しうんざりしてきた所で、
「真奈美さん」と声が聞こえた。振り向くと、美弥ちゃんだった。
「あちらのお客さんから呼んできてくれって」
「今行く」と一人のベテランが去って行った。
僕は、天から助けが来たような顔で、美弥ちゃんを見た。
「いらっしゃい。若菜くん」
「美弥ちゃん、ありがとう」
「えっ?」
もうしょうがない。房江さんの話を終わらせるためだ。
「今日も閉店までいるから、一緒に帰ろう」
「悪いよ」
「悟史くんにも会いたいし」
「あの後、お兄ちゃん、いつ来るの?って大変だったんだよ」
「だから、今日行く。あっ、明日か。美弥ちゃんが気にしないなら、午前中くらいなら遊べる」
「寝なくちゃ」
「昼から寝るから大丈夫だよ」
そこに、
「美弥ちゃん」と声がした。
「は~い、行きます」と美弥は振り返って言って、
「後でね」と言い残して行った。
「ふ~ん」と房江さんは、つまらなそうな声を出して、いつも通りのウーロンハイを飲みながら、カラオケの曲を選び始めた。
僕は美弥ちゃんの方を見た。他のお客さんと楽しそうに話している。
ここに来る前も似たような店にいたんだよな、と頭に浮かんだ。まぁ、僕とは正反対で、高校時代から明るく誰とでも仲良くなれる性格だから、本人に合っていると言えば合っているのかもしれない。
「はい、若ちゃんも」と房江さんからカラオケの本を渡された。
「選ぶまでもないんですけど」と毎回同じことを言う。
「じゃあ、先にこれ歌って」とリクエストされた。
僕はリモコンで番号を打ち込んでから、あっ!と思った。前回は無理矢理歌わせる人がいなかったから、美弥ちゃんの前で歌っていない。正直、恥ずかしい。上手い下手よりも、まだ高校当時と同じ曲なのか、という部分だ。変えたいが、あの頃からほとんど曲なんて聴かないから、他のが分からない。
房江さんが歌い終わって戻ってきた。次の曲のイントロが流れ始めた。
キャンセルするにも、顔なじみの客から、
「次は若ちゃんか」という声の後拍手が起こった。
僕は軽く会釈をしながら、狭いステージに立った。恥ずかしくて美弥ちゃんの方を見れない。もはや歌詞なんて見なくても歌えるのだが、ずっとモニターを見て歌った。
歌い終わって、また
「今日も上手かった!」と声と拍手に包まれながら、軽く会釈してそそくさと席に戻った。
いつも通りの時間に、
「そろそろ帰るわ」と、また、つまらなそうに房江さんは言って帰って行った。
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