子猫を拾ったはずなんだけど

ぱるゆう

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部屋探し中止?

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3日後の朝、美弥から電話があった。
「どうしたの?」

「引っ越すかもしれないって不動産屋に言ったら、最低3か月は住む契約になってるって」

「あぁ、そうなんだ」

「だから、すぐに使わない荷物はこっちに置いとけば今の若菜の部屋でもいいかなって。もちろん、水道とかは止めてもらって」

「う~ん、一回僕の部屋を見た方がいいかも。ベッドはセミダブルだから、美弥と悟史くんが寝て、僕が布団で寝ればいいと思うけど」

「そんな!いいわよ」

「まぁ、とりあえず来てみてよ」

「うん、そうする」

「じゃあ、次の定休日に」

「うん」

電話を切った。

「どうしたんじゃ?」とユリが言った。

「美弥のアパート、すぐには解約できないんだって。だから、この部屋でいいって」

「そうか・・・」ユリは寂しさが込み上げてきた。

「ユリ?」

「それまでたっぶりとしておくとするかの」

「そうだね。じゃあ、行ってくる」

「気をつけるんじゃぞ」

「うん」若菜は部屋を出た。

歩きながら、
「どうせ数ヶ月先には引っ越すんだから、思い切って使わなそうなものは段ボールに入れて美弥の家に置いとくか?あっ!母さんに美弥のこと言っといた方がいいのかな?でも、まだ会ったばかりだし、昔のイメージと違うことなんて少なからずあるだろう。こんなはずじゃなかったって、美弥はこれまで嫌と言うほど思ってきたに違いない。もしダメなら、僕は実家に帰るんだし、そのまま美弥の前から消えよう。母さんにはもう少し様子を見てから電話するか」




そして、定休日前の閉店後、若菜は井伊から呼び出された。また2人きりだ。

「失礼します」若菜は襖を開けた。

「おっ!来たか。座りなさい」

「はい」

若菜が座ると、また井伊は日本酒の徳利を差し出してきた。コップを出して注がれ、若菜も注いだ。
「辞めるんだってな」

「えぇ、目をかけていただいていたのに本当に申し訳ありません」と頭を下げた。

「とても残念だが、家庭の事情じゃあ仕方ない。でもな、前にも言った料理の色なんだが」

「えぇ」若菜は顔を上げた。

「今日の料理は板長の色に近づいてきていた」

「そんな!恐れ多いです」と若菜は慌てた。

「なんかあったのか?」

「個人的なことなので、あれなんですけど、昔の友人、女性なんですけど、再会しまして、結婚しようかと考えています」

「おおっ!そうか!」井伊は嬉しそな声を出した。

「以前、お話しいただいたこと、猫、ユリと呼んでるんですが、ユリに話しました。ユリもそうした方がいいと言ってくれて、まぁ、本当に偶然なんですが、昔片思いしていた女性でして、本心ではどう思ってるかは定かではないんですが、ユリも喜んでくれています」

「やはり悪い猫ではなかったか」

「それは間違いありません。僕のことを心から心配してくれています」

「そうか。結婚したら、猫はどうすると?」

「ただの猫に戻ると言っています。僕もそばに居てほしいと思っています」

「まぁ、君の性格からしたら仕方ないのかもしれないな。そばからいなくなってしまうと、逆に気になって人間の相手の方が疎かになりかねない。その方がいいのだろう」

「色々とお気にかけてくださり、ありがとうございます」

「いやいや、気にするな。生まれというか、立場というか、そういう人間なんだ、私は。あぁ、ホッとした」

「僕もユリと一緒にいると見えないものが見えてしまうことがあります。井伊さんは、そういったモノと人間を上手く付き合わせるようなことをやっていらっしゃるのですか?」

「まぁ、そうだな。この世界は人間だけのものではない。ただ、見えないもの、例えば獣に取り憑かれているから気を付けろと言ったところで、人間は気にしない。だから、私はお告げとして、獣が逃げるように、身の回りをあぁしろ、こぅしろと言っている。君みたいなケースは本当に珍しい」

「ユリも人間の姿に化けるのは50年ぶりだと言ってました」

「ん?そのユリは、何歳なんだ?」

「確か、戦国時代に産まれたと言ってました」

「えっ!ちょっと待て、400年以上ってことか?」

「詳しい年まで聞いてませんが、江戸時代よりも早いと思いますので、そうなるかと」

「そうか、それは凄いな」

「何かあるんですか?」

「まぁ、私の家もそうなんだが、大体そういった類のものは、見つかれば祓われてきたはずなんだ。それをくぐり抜けてきたというのは、よっぽど人間が好きなんだろな。それと飼っていた人間にも恵まれたということだ。前も言ったが、悪い人間に飼われてしまうと、何処かで見つかっていたはずだ」

「ユリは、ほとんどは普通の猫として飼われていたと言ってました」

「そうなんだろうな」

「あのぉ、変なことを聞いてもよろしいですか?」

「なんだ?」

「人間も生まれ変わるのでしょうか?」

「なぜ、そう思ったんだい?」

「僕が眠りに落ちるか落ちないかの時、たまにユリが、僕のことを主様(あるじさま)と言うことがあります」

「飼い主だからじゃないのか?」

「いえ、普段は若菜と呼んでいます」

「そうか・・・。参考になるかどうか分からないが、私の家系でも、不思議な力が強いものと弱いものが生まれる。私はどちらかと言うと強い方らしいんだが、曽祖父は、かなりの力があったと聞いている。それが何代かごとに繰り返される。もしかしたら、一番初めに力を持った先祖が、ある周期で生まれ変わっているとも言えるかもしれない」

「僕にも同じことが?」

「それがユリには分かるのかもな」

「すいません。唐突に」

「いや、楽しいよ。獣憑きはほとんどが悪い結果を招くと言われている。その中では貴重な話だ」

「ユリは猫好きの人間が分かるとも言っていました」

「ほぅ、興味深い話だな。まぁ、それだけ生きていれば、何かしらの能力は身につくのだろう。猫も人間に出会わなければ、もっと違う生き物だったろうからな」

「犬とは違うんですか?」

「犬は元々オオカミで、人間に会わなくても集団で生活していた。だから、顔色を伺うという術は身につけていた。しかし、猫は違う。基本的には集団では生活しない。だから、生きるか死ぬかは自分次第だった。しかし飼われている猫は、人間の感情を理解しなくては生きられなくなった。それで人間を理解した猫が、化け猫になったとも考えられるな」

「確かにそうだと思える行動を前の猫もしていました」

「いい飼い主なら、猫も犬も恩義を感じるのは変わらないだろうな」

「人間もですね。僕は板長にもオーナーにも大変な恩義を感じています」

「確かにその通りだな。長く引き留めて悪かった」

「とんでもない。貴重な話を聞けて、有難い気持ちしかありません」

「止めてくれ。酔っぱらいの戯言だ」

「辞めるまでの間、誠心誠意料理を作らせていただきます」

「あぁ、楽しみにしている」と井伊は立ち上がった。

若菜は襖を開けて、軽く頭を下げた。井伊は部屋を出て行った。

若菜はテーブルの上を片付け始めた。
「あら?若菜くん、いいわよ。やるから」と声がした。

「手伝いますよ」

「気持ちだけ有り難くもらっておくわ。房江さん、待ってたみたいよ」

「えっ?」

「早く行ってあげなさい」

「ありがとうございます」と若菜は立ち上がって着替えに行った。

店を出ると、房江はいなかった。
先に行ったのかな?と思って、美弥がいる店へと急いだ。

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