一日一編

馬東 糸

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020129【ネザクラ】

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 通っていた高校が統合の関係で廃校になるとのことだった。今は校舎などの解体作業中とのことである。春の陽気が心地よく、自宅からはそう遠くないので立ち寄ってみることにした。一本の桜の木が切り倒されているのが見えた。当時の記憶が鮮明に蘇る。
 校庭には一本だけ咲かない桜の木があった。皆からはネザクラと呼ばれていた。
 幹がしなりくねっており寝ぼけながら成長したからだとか、登って寝るのには丁度良い形をしているからだとか昔から何故そう呼ばれているのか分からなかった。ただ一つ分かっているのは咲かないという事である。
 事実、それまでの二年間で咲いたところは見たことが無かった。校庭には他にも桜の木が植わっており、そちらは毎年満開になるため土の問題ではないらしい。
 私は三年生に上がる春、このネザクラと賭けに出ることにした。
 もう少しでクラスも変わり、彼は特別進学クラスに行くことが分かっていた。
 私も一緒のクラスになりたいと希望を出してはみたが、それまでの私の成績では到底許されるものではなかった。
 あまり話すことは出来なかったが、私は彼の事が好きだった。勉強は出来たが、容姿が特別良いとか、背が高いとかそういう訳ではなかったが、私は確かに彼が好きだった。
 そんな彼に思いを伝えようと何度もしたが勇気が出ずに結局伝えられずにいた。
 そこで私はもしネザクラが咲いたら告げようと誓ったのだ。
 しかしながら、そんなに都合よく咲くわけも無く、その後彼との進展があったわけでもなく、私は呆気なく賭けに負けたのだった。
 そんな事を思い出していると、作業員が重機でネザクラを掘り出しているところだった。既にネザクラは半分程に切られているので痛々しくも思えた。
 もう帰ろうと背を向けた時、従業員が大きな声を上げた。
「咲いてる!」
 私は振り返った。
 掘り起こされた根からは奇妙なほどに満開の花が咲いていた。まるで逆向きに満開の桜が植えられているようであった。
 私は何故ネザクラと呼ばれていたのかがやっと分かった。
 もし咲いたらと思っていた桜はその実、確かに咲いていたのだ。
 本当はネザクラなど関係無かったことに気付きながら、私はその美しいネザクラを目に焼き付けるのみであった。
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