33 / 56
020202【猫と晩酌】
しおりを挟む一人で毎晩晩酌をしている。周囲にはもっと女性らしくしなよと諭されるが、到底やめる気は無い。
その夜もいつものようにポン酒を熱燗で飲んでいた。嫌な事があったため、特別に良い酒を猫が舐めるようにちびちびと舐めていた。
マンションの三階に住んでいたため、ベランダの目の前は電線が見え、あまり景色は良くなかった。ふいに其方を見ると、電線を平然と歩く三毛猫が居た。猫は私の部屋の前でピタリと止まり、ベランダへ飛び移った。
そして行儀よく座り、どうやら私が開けるのを待っているようだ。暫く無視をしていたが、磨りガラス越しに何時迄も居り、何故か自分が動物虐待をしてるかのような気分になってきたため仕方なく開けることにした。
ドアを開けると、待ってましたと言わんばかりに当然のように入ってきて、ぼそりと呟いた。
「いや、今年の冬は冷えますなあ」
そして、猫は酒瓶を見つけるや否や声を上げた。
「これを私にも! 私にも!」
そう言って、可愛らしい前足で瓶に触れて合図をした。非常に可愛らしく無い。
「何故君にこんな上等な酒をあげなきゃいけないんだ。そもそも、何の酒だって私が汗水流して働いた事により得た酒だ。見知らぬ猫なんかにあげる義理などない。さあ、他を当りなさい」
そう切り捨てて、私は晩酌に戻ろうとしたが猫は食い下がった。
「殺生な! 私はただこの酒が飲みたいだけなのだ!」
「なんて自分勝手な!」
押し問答とも呼べぬ、呼びたくも無い魂の叫びを数回やり取りした後、遂に猫は私の酒を勝ち取った。
「いやあ、すみませんね、おっとっと、もうちょっと、もうちょっといけます!」
「うるさい黙れ」
話など聞いていないようだ。
「そういえば、肴は何を?」
「肴など無いよ。上等な酒があれば良いじゃ無いか」
「いやあ、そしたらちょいとお待ち下さいよ」
そう言って台所へ猫は去っていった。当然のように二足歩行である。10分ほど待つと猫が皿を持って帰ってきた。
「お待ちどさんです! 冷蔵庫にあった菜の花を茹でて、昆布出汁に数分付けて鰹節をかけただけですが、どうぞ!」
「おお、お前なかなかやるな。というか、うちにそんなものがあったとは」
菜の花に染み込んだ出汁と、鰹節、少しばかりかかった醤油が合わないはずもない。また、茎の部分のしゃくゃくとねっとりの中間の食感が得もいわれぬ心地よさである。鼻から抜けるのは爽やかな春の匂いであった。
「美味い、それに日本酒と合うぞ」
ちびちびと舐めるようにして飲んだ。
「よかった! ではわたくしも」
ちびちびと舐めるようにして飲んだ。
一人と一匹の夜はこうして猫のように舐めながら更けていくのだった。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる