一日一編

馬東 糸

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020202【猫と晩酌】

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 一人で毎晩晩酌をしている。周囲にはもっと女性らしくしなよと諭されるが、到底やめる気は無い。
 その夜もいつものようにポン酒を熱燗で飲んでいた。嫌な事があったため、特別に良い酒を猫が舐めるようにちびちびと舐めていた。
 マンションの三階に住んでいたため、ベランダの目の前は電線が見え、あまり景色は良くなかった。ふいに其方を見ると、電線を平然と歩く三毛猫が居た。猫は私の部屋の前でピタリと止まり、ベランダへ飛び移った。
 そして行儀よく座り、どうやら私が開けるのを待っているようだ。暫く無視をしていたが、磨りガラス越しに何時迄も居り、何故か自分が動物虐待をしてるかのような気分になってきたため仕方なく開けることにした。
 ドアを開けると、待ってましたと言わんばかりに当然のように入ってきて、ぼそりと呟いた。
「いや、今年の冬は冷えますなあ」
 そして、猫は酒瓶を見つけるや否や声を上げた。
「これを私にも! 私にも!」
 そう言って、可愛らしい前足で瓶に触れて合図をした。非常に可愛らしく無い。
「何故君にこんな上等な酒をあげなきゃいけないんだ。そもそも、何の酒だって私が汗水流して働いた事により得た酒だ。見知らぬ猫なんかにあげる義理などない。さあ、他を当りなさい」
 そう切り捨てて、私は晩酌に戻ろうとしたが猫は食い下がった。
「殺生な! 私はただこの酒が飲みたいだけなのだ!」
「なんて自分勝手な!」
 押し問答とも呼べぬ、呼びたくも無い魂の叫びを数回やり取りした後、遂に猫は私の酒を勝ち取った。
「いやあ、すみませんね、おっとっと、もうちょっと、もうちょっといけます!」
「うるさい黙れ」
 話など聞いていないようだ。
「そういえば、肴は何を?」
「肴など無いよ。上等な酒があれば良いじゃ無いか」
「いやあ、そしたらちょいとお待ち下さいよ」
 そう言って台所へ猫は去っていった。当然のように二足歩行である。10分ほど待つと猫が皿を持って帰ってきた。
「お待ちどさんです! 冷蔵庫にあった菜の花を茹でて、昆布出汁に数分付けて鰹節をかけただけですが、どうぞ!」
「おお、お前なかなかやるな。というか、うちにそんなものがあったとは」
 菜の花に染み込んだ出汁と、鰹節、少しばかりかかった醤油が合わないはずもない。また、茎の部分のしゃくゃくとねっとりの中間の食感が得もいわれぬ心地よさである。鼻から抜けるのは爽やかな春の匂いであった。
「美味い、それに日本酒と合うぞ」
 ちびちびと舐めるようにして飲んだ。
「よかった! ではわたくしも」
 ちびちびと舐めるようにして飲んだ。
 一人と一匹の夜はこうして猫のように舐めながら更けていくのだった。
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