一日一編

馬東 糸

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020221【上京】

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 私が生まれ育ったのは電波も届かない山の奥の奥の小さな村で、米や野菜は自分たちで作るし、魚だって川で捕まえて食べるような所だった。コンビニなんて無くて、自転車で山を越えて行った場所にある酒屋さんで日用品は揃えなければならないような暮らしだった。
 そんな私でも一生懸命勉強して、なんと東京の大学に入学する事になった。これまで育ってきた村には愛着があったし、好きだったから離れがたかったけれど新しい世界を見てみたかったのだ。
 期待に胸を膨らませて、私はその日上京した。兎に角何処に行っても変な臭いがするし、狭いし、人酔いという経験はこの時が初めてだった。住む家については、物件探しは何だかよく分からなかったので、取り敢えずは大学の学生寮に住む事にした。
 事前に郵便で送られてきた住所に行くと、随分と古めかしい、けれど立派な町家が建っていた。パンフレットをよくよく見ると江戸時代から使われていた建物らしい。
 私は引き戸を開けて玄関へ入ると、女性物の靴が既に一足置いてあった。。ここは数人の学生が共同で生活をしているのだとパンフレットに書いてあったのを思い出した。
 玄関を抜けると、階段があり、奥には居間があるようだ。何となく実家のような雰囲気がして落ち着いた。
「ごめんくださーい」
 発した声に返答は無く、呆然と立ち尽くしていると二階で何やら物音がしている事に気が付いた。
 幅の短く、急な階段を上がりると廊下があり、等間隔で三部屋ほどがあるようだった。物音は一番奥からするようで、私は恐る恐る廊下を忍び足で進んだ。
 次第に声が何だか女性が唸っているような声である事に気づいた私は何か一大事かと思って駆けていき襖を勢いよく開けた。
 村には同じくらいの年齢の女の子は居なかったため、その時初めて同年代の子の裸体を見た。同じくらいと言っても、それは私のそれとは全くを異にしており、何より白く、何より曲線的、何より美しかった。
「あなたは? あ、ちょっとだけ待っててね、良いところだから」
 目を丸くした私は何も反応が出来ずにただ見ていた。
 キャンバスに向かう彼女は筆を持ちながら、先程私が聞いた唸るような声を発し始めた。悩んでいるらしかった。
「えっと、何を?」
「見て分からない? 描いてるの」
 いくら新しい世界が見たいとはいえ、初めからこのような右ストレートを貰うとは予期してしなかったが、何だか胸が高鳴った。
「見ててもいいですか?」
「ん、どうぞ。お好きに」
 私はただ彼女を見ていた。これから始まる新しい生活は期待できそうだと確かな手応えを感じていた。
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