一日一編

馬東 糸

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020227【虎と門】

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 芸術大學を中退した後は野良猫のように当てもなく人生という身を切り裂くような荒波を上手に。それは必ずしも周囲の了解を得られるものでは無かったが。漂っていた。
 しかしながら憂き世は余りに世知辛く、にしん蕎麦をただの一杯腹に入れるだけでもやれ銭を出せ銭を出せと騒ぎ立てるもので仕方なく依頼などあれば絵など書いていた。
 その日も家の門に絵を描いてくれと言うので訪ねてみると成る程三丈ほどある立派な門である。家主は最近下賎な賊に入られたと言い、威風堂々とした虎を描いてくれと言う。金に糸目はつけぬと言うのでこれまでそこらの安い材料を使っていたが、その時は申し分の無いような物を揃えた。
 普段の依頼であれば春のぬるい風が吹くのと同じくらいの速さを持って終わらせるが、この時ばかりは日の入りにも気が付かず、ふと我に帰った時には空が白んでいた。
 出来上がった絵を改めて引いて見てみると勇ましいことこの上ない立派な虎が現れた。久方振りの達成感と疲労感で満ちた私は家に帰ると泥のように三日三晩眠ってしまった。
 虎が夜な夜な人を襲うという噂が流れたのはそれから間も無くのことであった。口から口へとそれは広がり、実際に見たとか見てないとか、あの虎は元々中国の人食い虎を描いた絵であるとか、そんな汚らしい尾鰭まで付いていた。
 そして、遂には明日の朝、門を塗り潰そうと決定が下された。私は夜遅かったが、急いで門へ向かい、自らが描いた虎の絵と対峙した。我ながら立派に描いたものだと感心していると、予定が早まったのか遠くから何人もの足音が聞こえてもはや猶予がない事態になった。
 そして、振り返ると、其処には虎がいた。先程までの絵の中の虎では無く、確かに目の前に虎がいた。私の虎だ。
 その虎は静かに近付いて、私の肘付近に頭を一度擦り付けると、藪の中へと走り去っていった。後に残されたのは、重苦しい鈍色の門のみである。
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