クチナシの薫りは醒めない

ありま氷炎

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第四天 悩める俺(勇視点)

翌朝

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「実田さん、実田さん!」
 呼ばれる声と肩を叩かれる感触で俺は目を覚ます。
「お、王さん?!」
  彼の美しい顔がすぐ近くにあり、ぎょっとして体を起こす。心臓は、ばくばくとものすごい速度で動いている。
「……昨日のことは忘れてください。それよりも今何時だと思いますか?」
「!」
 俺はそう言われ、目覚まし時計を見る。ひっくり返ったそれを掴み、時間をみると8時半だった。
「早く支度してください。今日は電車で行くんですよね?」

 昨日、俺達はタクシーで帰って来たらしい。代行を頼むにも俺が酔いすぎていたため、王さんがタクシーを捕まえたということだった。
「……すみません」
 仕度をして、寮を出る。かんかんと階段を降り、俺は下で待っていた王さんに肩を並べる。
「いいえ、昨日は私のせいでした。すみません。もう2度とあんなことはしませんし、これからは自分の部屋で寝泊まりしますから」
 王さんはそう答え、俺を見ようともせず駅に足を向ける。
 その冷たい様子に一抹の寂しさを感じながらも、俺は安堵してしまう。
 
 今度キスされるとだめかもしれない。
 あのキスが忘れられなくて、なかなか寝付けなかった。

 キスなんてされたのは初めてじゃないし、セックスの経験もある。
 でも昨日のあれはちょっと違った。

 キスだけなのに体が疼いた。初めての感覚だった。

『一度抱いたら離れられなくなった』
 昨日の夜、木縞さんの言葉が何度も脳裏によみがえり、俺を悩ませた。

 その度に俺は自分を叱咤した。
 俺はホモじゃない。
 女の子が好きだ。

 しかも彼が求めるのは木縞さんの身代わり。
 俺じゃない、誰でもいいんだ。

 だから、あのキスは忘れるべきだ。
 
「実田さん?」
 自動券売機の前でぼーとしていたらしい、隣で王さんが訝しげに俺を見る。
 首をかしげる王さんは相変わらず綺麗で、色っぽい。
 でも駄目だと俺は自分に言い聞かせる。

「行きましょうか」
 俺は片道分の切符を買うと彼に笑いかけた。

 着かず離れ、残りの日を過ごす。
 俺はそう決めた。

「揃って遅刻?」
 30分遅れて到着した俺達に三木本さんが意味深な笑みを浮かべる。
「私が寝坊したのです」
 それに対して王さんはにこりと笑ってそう返した。

 係長が午前中会議の為、部署に不在で俺は怒られずに済んだ。俺は安堵しながら自分の席に戻り、彼は係長の隣の席のパソコンを起動させ、昨日の続きをやり始めた。
 俺は極力彼を見ないように心がける。彼は同僚、単なる同僚。来週になれば彼は中国に戻るんだ。
 俺はそう言い聞かせ、自分のパソコンを起動させる。そして鞄の中を開き、中身を取り出し始めた。

 くしゃくしゃになったサンタ建設の資料……
 やばい。宿題だった。

 俺はそれを広げながら、慌てて読み始めた。

 半分くらい読んだところで、ぽんぽんと肩を叩かれる。
「辰巳先輩」
 それは辰巳係長補佐で、満面の笑顔を浮かべていた。
「松元さんが呼んでいる。作戦会議しようか」
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