クチナシの薫りは醒めない

ありま氷炎

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第四天 悩める俺(勇視点)

先輩の恋模様

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 会議室はうちの課と同じ階にあり、一番端っこだ。
 松元主任は先に会議室で待っているらしく、辰巳先輩は軽やかな足取りを俺の前を歩いていた。
 やっぱり辰巳先輩は松元主任のことが好きみたいだ。なんだか嬉しそうだしな。
 でも松元主任はどうなんだろう。全然そういう気は見えないんだけど。

「え?読み終わってない?」
 会議室へ辿り着き、挨拶もそこそこに「さあ、まずどんな照明が必要だと思う?」と松元主任に聞かれた。俺は嘘ついてもだめだと資料をまだ半分しか読んでいないことを伝えた。
 嘘をついて何でも言えばよかったと後悔する俺の前で主任の眉間にしわがよる。
 怒られるか、係長についで松元主任もきついんだよなあ。
「まあ、まあ。松元さん。僕も実もまだ全部は読んでないんだ。悪いけど、君の意見を先に聞かせてよ」
「……え?」
 辰巳先輩に笑顔でさらりと言われ、松元主任は不服そうな顔をする。しかし自分より立場が上の人に抗議するわけにもいかず、ロビー、廊下、トイレ、室内などで使用される照明について、自分の意見を語り始めた。
 さすがに真面目な主任、本当に資料を読みこんでいる感じで俺は心底感心する。
「松元さん、さすが細かいとこまで考えているよね。でも僕はロビーに関してはもっと豪華な感じの照明がいいと思うんだ」
 そう言って、辰巳先輩は松元さんに自分の考えを説明し始めた。 
 先輩たちの意見は俺には考えつかないもので、俺は頷きながら聞いていた。
 するとはっと二人が我に返り、俺を見る。
「実田くん、ぼーとしてないでメモを取ってね。それかパソコン持ってきて記録しておいて」
「はい!今取ってきます」
 やばい、そんなこと考えていなかった。 
 俺はそう思いながら会議室から部署に小走りで向かう。すると王さんが休憩室に座り携帯電話で誰かと話をしているのがわかった。表情が輝き、嬉しそうな彼……、誰と話しているんだろう?俺は気になったが、目をぎゅっと閉じると速足で部署に戻った。

「そんな感じでどうかな」
「いいと思います」
 二人はそう言って頷きあい、会議は終了。しかし俺には、今日二人が話した内容をまとめ、自分の考えを加えたものを明日発表してと宿題を出された。
 明日それを最終的に話し合い、生産開発部に回してコストを出してもらう形だ。
 この分なら、本当に来週には見積書が提出できそうだ。
 俺はなんだか嬉しくなってほくそ笑んだ。

 
 部署に戻ると王さんの姿はなかった。どこに行ったんだろうと思いながら椅子に座ると意味深な笑みを浮かべた谷口先輩と三木本さんが近づいてきた。
「王さんは係長とご飯に行ったわ。やっぱり気になる?」
「そ、そんなこと」
「行き先わかるから、一緒にいかない?」
「え、行きませんよ!」
「まあ、まあ。行きましょうよ」

 俺は二人の先輩に強引にそう言われ、仕方なしに係長と王さんが昼食を取っているレストランに向かった。
「なんだ、二人っきりじゃないんだ」
 俺達は係長と王さんを見つけると、そこには数名のサラリーマンの姿が見えた。よく見るとそれは課長や他の部署の人達で、昼食が会社がらみのものだとわかる。
「つまんないなあ。修羅場が見れると思ったのに」
 修羅場ってなんですか?
 しかしやはり俺の疑問を解き明かす人はいなく、三木本さんの隣に座った谷口先輩がまあ、まあと口を開いた。
「まあ、しょうがないわね。これで係長がシロだとわかってよかったわね。実田くんもそうでしょ?」
 そうでしょって?大体シロって?
 俺はそう思いながらあいまいに頷く。
「えっと待って」
 谷口先輩がすこし興奮ぎみに声を上げる。視線の先には辰巳先輩と松元主任が見えた。
「えー、松元先輩と辰巳先輩、付き合ってたんですかぁ」
「美代ちゃん、黙ってて」
 しっと谷口先輩が三木本さんの口に指をあてる。

 なんだか、おかしな光景だな。
 俺はそう思いながら、二人の影に隠れ様子をうかがう。

「あれ、松元?辰巳?」
 しかし係長が二人に気付き、声を上げる。そして一緒に座るように促し、二人は係長達に合流する。俺には辰巳先輩の顔が一瞬残念そうな顔をしたのがわかった。
 でもすぐに表情を切り替えると笑顔で係長達と話し始めた。
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