クチナシの薫りは醒めない

ありま氷炎

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第六天 覚悟を決める時?(勇視点)

奴との夕食1

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「あ、来た来た~。王さん、お久しぶり」
 ロビーに降りると錫元(すずもと)さんがソファーに一人で座っていた。俺達を見かけると裏がありそうな笑顔を王さんに向ける。
「お久しぶりです。先日は色々お世話になりました」
 王さんはそれに対してにこやかに答えた。
「さあ、行こうか」
 長身の錫元さんがソファーから立ち上がり、一瞬圧倒される。自分より20センチより高い。木縞さんも高いと思ったけど、錫元さんには敵わないよな。
 でも王さんは木縞さんか。 
 ま、錫元さんよりずっと木縞さんのほうがましだけど。あ、でも不倫か。 
 まあ、いいや。
 俺には関係ない。

 俺は昼間の二人の様子を思い出し、胸がぎゅっとつぶれる思いを抱く。
 
「実田さん?」
 ロビーから動こうとしない俺に王さんが首をかしげる。その仕草は本当に女の子みたいで可愛い。 
 ああ、なんて馬鹿な想いなんだ。
「あ、行きましょう」
 俺は笑顔を作るとそう答え、足を踏み出した。


 ウソだろう。まじで?
 10分ほど歩かされて、辿りついた店は……男ばかりの店だった。
 店員にすら女の子がいない。

 いや、店員の少年は女の子みたいに可愛いけど。 
 イヤイヤそうじゃなくて!

「……どういうつもりですか?」
 そう聞いたのは俺ではなく、王さんだった。いつもの穏やかな雰囲気はなりを潜め、釣り目がきらりとよく切れる刃物のように閃いていた。
「別に、王さん。日本にきてこういう店来てないだろう?だから連れてきた」
「……実田さんに失礼だと思いませんか?」
「まあ、ノーマルな彼にしてみたらびっくりだろうけど。そのうちノーマルとも言えなくなるだろうし」
 どう言う意味だ!この野郎。
 俺は叫び出したい気持ちでいっぱいだった。
 キスされ、耳たぶを噛まれたくらいで嗜好が変わるわけないだろう。
 俺は女の子がいいんだ!
「さあ、座って。御飯も、とびっきり美味しいから」
 ……帰りたい。
 俺は心底そう思ったが、あの完璧な資料を思い出し、ここは彼の顔を立てるにした。
「……俺はそういう趣味はないですけど、ご飯食べるだけならここでもいいです」
「実田さん?!」
「ほら、いいって。さあ、王さんも座って」
 いいってそう言うことじゃないんだけど。俺は仕方なく合意だっちゅうの!
 俺は奴を睨みつける。
「いいって!そういう意味ではないですから。あくまでも夕食だけは付き合いますから」
「そういう意味ってどういうことかな?しかも夕食だけ付き合うって?」
 錫元さんはふふんと笑って俺を見る。
この野郎、わかるくせに。
 あーまじで嫌だ。こいつは!
 俺は悔しく彼を目で射殺したい気持ちだが、いかんせん顔は羞恥で真っ赤に染まる。
「いやあ。実田くん。本当君は面白くて、可愛いな」
「!」
 錫元さんの手が俺に延びる。俺は体をそらしてかわそうとするが、それより先にパシンと音がした。
「痛いな。王さん。意外に手が早いんだ」
 彼の手を振り落としたのは王さんで、冷たい視線を彼に向けている。
「早いのはあなたでしょう」
 王さんは感情のこもらぬ声でそう言う。表情は氷ついているように冷たい。
 なんかこの態度、灘に対する態度と似てる。
 やっぱり敵にすると怖い感じなんだな。王さん。
「ははは。確かに。今の俺が悪かった。さあ、仕切り直しだ。二人とも座って」
彼にそう謝られ、俺達はしぶしぶ向かいの席に座る。すると可愛い店員、しかし男が、メニューを運んできた。
「さあ、何頼む?納豆オムレツは最高だけど」
 錫元さんはパラパラとメニューをめくりながらそう言う。
「納豆?」
 それに対し王さんが嫌そうな表情を見せる。
 納豆苦手なんだ。外国人向けじゃないもんな。
「ははは。苦手なんだ。じゃ。それを頼もうかな」
 しかし、嫌な奴はそう言って笑う。
性格悪すぎ。そういえば、なんか王さんにとげがある感じだよな。錫元さん。
なんでだろう?二人の間で何かあったとか?

 俺がそんなことを思っている間に次々と頼む物が決められ、俺達の夕食は始まった。

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