31 / 91
第六天 覚悟を決める時?(勇視点)
苛立つ気持ち
しおりを挟む
「大丈夫ですか?」
「はい」
心配そうにそう聞く王さんに俺はかろうじてそう答える。会社に戻る車の中、俺は何を話していいかわからず、口を噤む。すると王さんも俺の苛立ちを感じているのか、何も話そうともせず、俺達は無言のまま、会社に戻った。
会社に戻ったのは午後2時で、王さんはいつもの通り係長の横で翻訳作業に取り掛かる。俺は他のお客さんのデータを整理して、次のアポの計画を練ろうとする。しかし、頭に入ってくるはずがなく、俺は無駄に時間を過ごした。
午後5時きっかり、社内電話が鳴る。取るとそれは錫元(すずもと)さんで俺は彼に言われるまま、生産係に向かった。
「あれ、実田くん。どうしたんだい?機嫌悪そうだけど」
錫元さんはニヤニヤ笑いながら俺に聞く。
うるさいな、この人はまったく。
「別になんでもありません。コストの方は……」
「できてる。ほら。これだ。後でメールでも送っておくから」
「ありがとうございます」
コストが書かれた少し厚手の資料を渡され、俺は怒りを忘れ、ぺこりと頭を下げる。
「いやいや、些細なお礼だから。さーて、夕食行こうか?」
椅子に座ったまま、見上げられ俺はどきっとする。王さん同様、視線がなんだか色気がある。
いや、そんなこと思ってる場合じゃないから。
こいつはホモ。油断大敵!
「王さんは来るの?まあ、来るよね。ロビーで6時半に待ち合わせでいい?店は私が選ぶから」
自分のペースで物を決める錫元さんはそう言い、二コリを笑う。その笑顔がかなり怪しげで俺はぞぞっと寒気を覚える。
「楽しみだな。じゃ、また」
彼は表情を凍りつかせる俺に構わず、手を振ると視線をパソコンに戻す。選択肢がない俺は溜息を小さくつくと、部署に戻った。
「お帰り~」
部署に戻ると松元主任が待ち構えていた。辰巳先輩も俺を待っていたみたいで戻ってきた俺に笑いかける。
「さあ、見せて」
主任は俺が持っている書類を広げ、丹念に見始めた。辰巳先輩も俺の側にくると、主任が読んだものを次々と確認していく。二人は10分ほど無言で書類を読んでいたが、読み終わった後、息をついた。
「すごいわね。これだけの作業よく二日でできたわよね。さすが錫元さん。あと、実田くんの功績よね」
「そうだね。実田くん。どんな魔法を使ったんだい?あの錫元さんが真面目に仕事をするなんて珍しいんだけど」
あの錫元さん?めずらしい。
やっぱりちょっと変わってるんだ。
辰巳先輩がそう言うから、よっぽど変わり者なんだろうな。
「魔法、あえていうなら少し犠牲を払った感じです」
「犠牲?」
俺の言葉に二人が首を傾げる。
「いや、なんでもないです。これをベースに、俺月曜日に見積もり作るので、確認していただいてもいいですか?」
「もちろん」
二人は口を揃えるとそう答えた。
「じゃ、お疲れ様です」
「お疲れ様です」
午後6時近く、そう声をかけながら、みんな次々と退社していく。
残ったのは俺と松元主任、王さん、係長だ。
どうしようか。
俺一人で行く?
そうだよな。王さんは行く義理なんてないだろうし。
もしかしたら今日は木縞さんとデートかもしれないし。
「王、帰っていいぞ」
俺がもんもんとそんなことを考えていると係長の声がした。
「ありがとうございます」
王さんがそう答えるのがわかり、俺は妙な喜びを覚える。でも彼が俺と一緒に来てくれるなんて、決まってないのに。
すねた俺がそう心の中でぼやいているとすぐ近くで気配がした。それは王さんで腰をかがめ俺に囁く。
「実田さん、今日の夕食は何時ですか?」
彼の美しい顔がすぐ側にあり、俺はどきまぎする。
「6時半です」
「6時半?もう6時半ですよ。さあ、行きましょう」
王さんは腕時計を確認し、そう笑いかける。
それはやっぱり綺麗な笑顔で俺はなんだか空しい気持ちを覚えながら、頷いた。
「はい」
心配そうにそう聞く王さんに俺はかろうじてそう答える。会社に戻る車の中、俺は何を話していいかわからず、口を噤む。すると王さんも俺の苛立ちを感じているのか、何も話そうともせず、俺達は無言のまま、会社に戻った。
会社に戻ったのは午後2時で、王さんはいつもの通り係長の横で翻訳作業に取り掛かる。俺は他のお客さんのデータを整理して、次のアポの計画を練ろうとする。しかし、頭に入ってくるはずがなく、俺は無駄に時間を過ごした。
午後5時きっかり、社内電話が鳴る。取るとそれは錫元(すずもと)さんで俺は彼に言われるまま、生産係に向かった。
「あれ、実田くん。どうしたんだい?機嫌悪そうだけど」
錫元さんはニヤニヤ笑いながら俺に聞く。
うるさいな、この人はまったく。
「別になんでもありません。コストの方は……」
「できてる。ほら。これだ。後でメールでも送っておくから」
「ありがとうございます」
コストが書かれた少し厚手の資料を渡され、俺は怒りを忘れ、ぺこりと頭を下げる。
「いやいや、些細なお礼だから。さーて、夕食行こうか?」
椅子に座ったまま、見上げられ俺はどきっとする。王さん同様、視線がなんだか色気がある。
いや、そんなこと思ってる場合じゃないから。
こいつはホモ。油断大敵!
「王さんは来るの?まあ、来るよね。ロビーで6時半に待ち合わせでいい?店は私が選ぶから」
自分のペースで物を決める錫元さんはそう言い、二コリを笑う。その笑顔がかなり怪しげで俺はぞぞっと寒気を覚える。
「楽しみだな。じゃ、また」
彼は表情を凍りつかせる俺に構わず、手を振ると視線をパソコンに戻す。選択肢がない俺は溜息を小さくつくと、部署に戻った。
「お帰り~」
部署に戻ると松元主任が待ち構えていた。辰巳先輩も俺を待っていたみたいで戻ってきた俺に笑いかける。
「さあ、見せて」
主任は俺が持っている書類を広げ、丹念に見始めた。辰巳先輩も俺の側にくると、主任が読んだものを次々と確認していく。二人は10分ほど無言で書類を読んでいたが、読み終わった後、息をついた。
「すごいわね。これだけの作業よく二日でできたわよね。さすが錫元さん。あと、実田くんの功績よね」
「そうだね。実田くん。どんな魔法を使ったんだい?あの錫元さんが真面目に仕事をするなんて珍しいんだけど」
あの錫元さん?めずらしい。
やっぱりちょっと変わってるんだ。
辰巳先輩がそう言うから、よっぽど変わり者なんだろうな。
「魔法、あえていうなら少し犠牲を払った感じです」
「犠牲?」
俺の言葉に二人が首を傾げる。
「いや、なんでもないです。これをベースに、俺月曜日に見積もり作るので、確認していただいてもいいですか?」
「もちろん」
二人は口を揃えるとそう答えた。
「じゃ、お疲れ様です」
「お疲れ様です」
午後6時近く、そう声をかけながら、みんな次々と退社していく。
残ったのは俺と松元主任、王さん、係長だ。
どうしようか。
俺一人で行く?
そうだよな。王さんは行く義理なんてないだろうし。
もしかしたら今日は木縞さんとデートかもしれないし。
「王、帰っていいぞ」
俺がもんもんとそんなことを考えていると係長の声がした。
「ありがとうございます」
王さんがそう答えるのがわかり、俺は妙な喜びを覚える。でも彼が俺と一緒に来てくれるなんて、決まってないのに。
すねた俺がそう心の中でぼやいているとすぐ近くで気配がした。それは王さんで腰をかがめ俺に囁く。
「実田さん、今日の夕食は何時ですか?」
彼の美しい顔がすぐ側にあり、俺はどきまぎする。
「6時半です」
「6時半?もう6時半ですよ。さあ、行きましょう」
王さんは腕時計を確認し、そう笑いかける。
それはやっぱり綺麗な笑顔で俺はなんだか空しい気持ちを覚えながら、頷いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます!
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる