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第十二天 他的幸福―彼の幸せ(秀雄視点)
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「……秀雄(シュウシュン)。俺、昨日……何かとんでもないことしましたか?」
勇(ヨン)はぱくっと私が作った饅頭(まんとう)にかじりつきながらそう聞く。その表情は緊張しており、私は言おうか言うまいか迷う。
あれほど、人目を気にする彼が事実を知ったら、どうするだろうか?
しかし村田さんは取引相手で、これから会うこともある。しかも彼は全然気にしている様子はなかった。
「実は……」
私は一呼吸置くと、昨日起きたことを話しはじめた。
「……俺、村田さんに合わせる顔がないです」
話を聞いた後、彼の顔色は蒼白だった。
「大丈夫ですよ。勇(ヨン)、村田さんはそういうことに偏見がない方のようでしたから」
「でも……」
彼は唇をきりっと噛むと、押し黙る。
やっぱり、彼は人目を気にする。
きっと彼は私を抱いたことを後悔しているのでは、そんな思いが交錯する。
「……俺、会社辞めます」
「勇(ヨン)?!」
「だって、俺はあなたについて中国にいくつもりです。だから、会社を辞めたほうが……」
そんなこと、考えたこともなかった。
彼についてきて欲しいとは思ったし、何度か口にした。でも彼がそこまで、考えていると思わなかった。
「勇(ヨン)。やめる必要はありません。ついてきて欲しいのは本当ですけど。今すぐ会社を辞めてほしいなどと考えていませんから」
「でも、」
「でも?何でしょうか?」
「……村田さんに俺達の関係がばれてしまって、俺……」
そのことか。
彼は村田さんに私達の関係がばれたことがそんなに嫌なのか?
私との関係が恥ずかしいものと彼を感じてるのか?
……彼はゲイではない。だから私の思いを押し付けることができない。
結局、私達はそれ以上話をすることなく、朝食を終え、会社に向かった。
「おはようございます~」
部署に入ると珍しく私達より早く出社していた三木本(サン・ム・ベン)が頭を軽く下げて挨拶してきた。
マスカラで大きく強調された瞳が可愛らしく、その唇は艶やかにピンクに輝いている。服は蜂蜜色のワンピースで、彼女によく似合っていた。
私はちらりと彼を見る。彼は爽やかに笑うと彼女に笑顔を返していた。
年頃は確か同じくらいだったかな。二人を見ながらそう思う。勇(ヨン)の横に立っていると彼女に見えないことはない。
「王さん?」
凝視し過ぎたのか、彼女が首をかしげて私を見る。
その仕草は狙っているのか、それとも自然に備わっているのか、彼女の可愛らしさを一段と発揮させるもので、私がゲイでなければ好きになってしまうに違いないと思わせるほどだった。
「すみません。ぼうっとしてました。おはようございます」
私は笑顔を作ると彼女に挨拶をする。すると彼女が幾分安堵したように微笑み、自分の席に戻っていった。
私が日本を去るまであと3日、この会社にいるのもあと2日だ。昨日工場見学をして、どのような過程で商品が作られるのか学んだ。今日は何をしようかと勇(ヨン)と二人で頭を捻る。会社案内は初日に終わらせ、組織概要も教えてもらった。
「王、ちょっと来てくれ」
ふいに係長からそう声がかかり、私は席を立つ。
「これを見てみろ。パンフレットのデザイン案だ。中の中国語に問題がなければ印刷に回すつもりだ」
机の上を見ると様々な照明の写真が載った紙が数枚置かれていた。彼に勧められ、私は隣の椅子に座り、その紙に書かれている中国語を確認する。いくつか誤りを見つけ、私は蛍光ペンで印をつけ、赤ペンで手直す。
「終わりました。どうぞ」
どれくらい時間がかかったのかわからなかった。係長に紙を手渡し、勇(ヨン)の席に目を向ける。すると彼は席にいなかった。
「印刷会社にこれを送る。修正版が回ってきたら、悪いが再度確認よろしくな」
「わかりました」
私は一礼すると席を立ち、主のいない席の隣に腰掛ける。携帯電話を机に置いたままで、メールを受信したのか、ちかちかと光を放っていた。
誰からだろう?
ふと気になり、私の手が無意識に彼の携帯に触れそうになる。
「しゅ、王さん」
しかし、そう声がかかり、私は手を止めて顔を上げた。
「係長の用事は終わったみたいですね」
優しい彼は穏やかにそう微笑む。
「ちょうどよかったです。これからお客さんのところに行く予定なのです。一緒にいきませんか?」
「はい」
断る理由などあるわけがない。
そうして私達は会社を出て、勇(ヨン)の車でその場所へ向かった。
勇(ヨン)はぱくっと私が作った饅頭(まんとう)にかじりつきながらそう聞く。その表情は緊張しており、私は言おうか言うまいか迷う。
あれほど、人目を気にする彼が事実を知ったら、どうするだろうか?
しかし村田さんは取引相手で、これから会うこともある。しかも彼は全然気にしている様子はなかった。
「実は……」
私は一呼吸置くと、昨日起きたことを話しはじめた。
「……俺、村田さんに合わせる顔がないです」
話を聞いた後、彼の顔色は蒼白だった。
「大丈夫ですよ。勇(ヨン)、村田さんはそういうことに偏見がない方のようでしたから」
「でも……」
彼は唇をきりっと噛むと、押し黙る。
やっぱり、彼は人目を気にする。
きっと彼は私を抱いたことを後悔しているのでは、そんな思いが交錯する。
「……俺、会社辞めます」
「勇(ヨン)?!」
「だって、俺はあなたについて中国にいくつもりです。だから、会社を辞めたほうが……」
そんなこと、考えたこともなかった。
彼についてきて欲しいとは思ったし、何度か口にした。でも彼がそこまで、考えていると思わなかった。
「勇(ヨン)。やめる必要はありません。ついてきて欲しいのは本当ですけど。今すぐ会社を辞めてほしいなどと考えていませんから」
「でも、」
「でも?何でしょうか?」
「……村田さんに俺達の関係がばれてしまって、俺……」
そのことか。
彼は村田さんに私達の関係がばれたことがそんなに嫌なのか?
私との関係が恥ずかしいものと彼を感じてるのか?
……彼はゲイではない。だから私の思いを押し付けることができない。
結局、私達はそれ以上話をすることなく、朝食を終え、会社に向かった。
「おはようございます~」
部署に入ると珍しく私達より早く出社していた三木本(サン・ム・ベン)が頭を軽く下げて挨拶してきた。
マスカラで大きく強調された瞳が可愛らしく、その唇は艶やかにピンクに輝いている。服は蜂蜜色のワンピースで、彼女によく似合っていた。
私はちらりと彼を見る。彼は爽やかに笑うと彼女に笑顔を返していた。
年頃は確か同じくらいだったかな。二人を見ながらそう思う。勇(ヨン)の横に立っていると彼女に見えないことはない。
「王さん?」
凝視し過ぎたのか、彼女が首をかしげて私を見る。
その仕草は狙っているのか、それとも自然に備わっているのか、彼女の可愛らしさを一段と発揮させるもので、私がゲイでなければ好きになってしまうに違いないと思わせるほどだった。
「すみません。ぼうっとしてました。おはようございます」
私は笑顔を作ると彼女に挨拶をする。すると彼女が幾分安堵したように微笑み、自分の席に戻っていった。
私が日本を去るまであと3日、この会社にいるのもあと2日だ。昨日工場見学をして、どのような過程で商品が作られるのか学んだ。今日は何をしようかと勇(ヨン)と二人で頭を捻る。会社案内は初日に終わらせ、組織概要も教えてもらった。
「王、ちょっと来てくれ」
ふいに係長からそう声がかかり、私は席を立つ。
「これを見てみろ。パンフレットのデザイン案だ。中の中国語に問題がなければ印刷に回すつもりだ」
机の上を見ると様々な照明の写真が載った紙が数枚置かれていた。彼に勧められ、私は隣の椅子に座り、その紙に書かれている中国語を確認する。いくつか誤りを見つけ、私は蛍光ペンで印をつけ、赤ペンで手直す。
「終わりました。どうぞ」
どれくらい時間がかかったのかわからなかった。係長に紙を手渡し、勇(ヨン)の席に目を向ける。すると彼は席にいなかった。
「印刷会社にこれを送る。修正版が回ってきたら、悪いが再度確認よろしくな」
「わかりました」
私は一礼すると席を立ち、主のいない席の隣に腰掛ける。携帯電話を机に置いたままで、メールを受信したのか、ちかちかと光を放っていた。
誰からだろう?
ふと気になり、私の手が無意識に彼の携帯に触れそうになる。
「しゅ、王さん」
しかし、そう声がかかり、私は手を止めて顔を上げた。
「係長の用事は終わったみたいですね」
優しい彼は穏やかにそう微笑む。
「ちょうどよかったです。これからお客さんのところに行く予定なのです。一緒にいきませんか?」
「はい」
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